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デュアルフューエル水素ロータリーエンジンを発電機として使うシリーズ・ハイブリッド車の駆動を司る電動モーターには、驚くべき発想による新機構が採用されている。
TEXT:松田勇治(Yuji MATSUDA) FIGURE:MAZDA
乗用車用エンジンの性能と効率を大きく向上させた技術のひとつに、さまざまな可変機構の考案と実用化がある。
点火系は電子化によって遅角・進角を自在に制御でき、吸気系は管長の可変化でリアルタイムの要求空気量と流速変化を実現した。可変バルブタイミング機構は複数のカムプロファイルを運転中に切り替えるという離れワザを実現、高出力化と低回転域での実用性を両立させた。そして今では、バルブリフト量すら連続可変化されている。これらの機構が、エンジンの性能と効率の向上に大きく貢献してきたことは論を待たない。
そして自動車技術者は、来るべきEV時代に向けてエレクトリック・パワートレインの分野でも可変化技術を駆使しようとしている。マツダ・プレマシーハイドロジェンREハイブリッドが採用した「電子式巻線切替え機構」は、その最初の一歩を記したものといえる。
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現在、ほとんどのEV/FCVが採用している交流・永久磁石型同期方式モーターは、ステーター(固定子)が巻線を持ち、永久磁石がローター(回転子)となる構造だ。効率が高く、ブラシとコミュテーター(整流子)の接触がないため、音振や電気的ノイズの面で有利であり、またメンテナンスフリー性も高いといった利点を持っている。
このタイプのモーターは、交流電源の周波数に応じてステーターが作る回転磁界の速さに同期して回転する。また、回転磁界の速さは交流電源の周波数とステーターの極数によって決まる。極数が同じ場合、巻線数が多いと発生する電磁力が大きくなるので、低回転域から高トルクを発生させられる。しかし、回転数が高まるとローターの磁力線によって逆方向の電圧が発生し、回転数が制限されてしまうため、高回転化したい場合は、低回転域での高トルクを諦めて巻線数を少なくせざるを得なかった。
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どこかで聞いた話ではないだろうか。そう、エンジンがさまざまな可変化技術を採用した理由と通底している。そしてプレマシーハイドロジェンREハイブリッドが搭載するモーターは、「電子式巻線切替え機構」によって、走行中に瞬時に巻線数を切替えることを可能とした。具体的には、インバーターにPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御を行なわせることで、巻線切替えを瞬時に行ないながら、駆動トルクの段付きや変動を感じさせないレベルを実現しているという。
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マツダはこの機構を「電気的な変速機構と捉えても良い」としているが、これはやはり「デンキのVTEC」と呼んだほうがピンとくるだろう。このモーターは、他にも「V字磁石非対称配置」などの新機軸を採用し、小型高出力化を達成している。