JA71型ジムニーで出かけよう。出かける先は、今回も「山」である。友人から譲られたマウンテンバイクをジムニーに積んで坂のてっぺんまで。そこからは、ひたすらに下る。お腹がすいたら、自製の蒸籠を使って焼売や小籠包を蒸して食べる。美味し。
TEXT &PHOTO◎伊倉道男(IKURA Michio)
西洋人の遊び方で感心するのは、身体ひとつ、たった棒一本でも楽しく過ごせる術を身に付けている人が多いことだ。大人になっても、子ども時代を忘れないのだろうか。オーストラリアのリザード島の夜、遊び道具等は何もない、静かに酒を呑むか、星空を楽しむか、打ち寄せる波の音を聴くか、そんな夜。一緒にいたのはオーストラリア人、ニュージーランド人、アメリカ人、フランス人。何処の国の人かは覚えていないけれど、彼らのなかのひとりが、棒を持って来た。リンボーダンスの始まりである。半数は女性なので、失礼が有ってはいけないと、僕は横で見ていた。白いワンピースのミニ、ブロンド。彼女の番になる。すると彼女のパートナーが僕の側にやって来て、「そんなと所にいたら、面白くないだろ〜。こっちへ来い!」と正面に連れて行かれる。「あんたのパートナーでしょ!見えちゃうよ。いいの?」なんだろうね、この人達。でも棒一本で、大人の夜、それもとびきりの楽しさ、それを僕らは、学ばなければいけない。彼らはそんな生き方をたくさん持っている。
ハワイのオプショナルツアーで、自転車でのダウンヒルのツアーがある。つまり、世界遺産のキラウエア火山の頂上まで、クルマで上がり、そこから自転車で、ひたすら駆け降りる遊びだ。漕がないで良い。自転車ファンには怒られるだろうけれど、僕は自転車の最大の欠点は、足で漕がねばいけないことだと思っている。これがなければ、軽いし、最高の乗り物だ。
思いとしては、富士山の5合目からのダウンヒル、赤城山、筑波山もちょいと面白そうだ。実際に、僕はまっすぐに落ちていく坂で、自転車で70km/hは経験したことがある。まぁ、そこまでスピードが出るとさすがに怖い。スピードではなくて、のんびりとダウンヒルは良いではないか。ジムニーに自転車を積み込み出掛けてみる。道中もダウンヒル中ものんびりで良いのだ。最高地点に拠点を決めて、一回だけ降りるのではなくて、数回に分けて走れば、無理も無く、また休憩も拠点で取れる。そこには飲み物も、食べ物も、そして楽なベッドでも置いておこう。
この真っ白なルイガノ(LOUIS GARNEAU)は、10年ほど前に我が家にやって来た。急に自転車に目覚めた友人が、「ルイガノって知ってるか?おしゃれだよね?」「確か、もとはカナダで、今はアメリカが本拠地のブランドだった気がする」ほどなく納車。僕は当時、30年くらい前の自転車をレストアしたばかりで、ふたりで自転車をクルマに積み込み、鎌倉や、五日市へ出掛けていった。
ある時、
「自転車、俺やめた。また歩くことにする、(俺の自転車)持って行く?」
(彼は驚くほどの健脚の持ち主で、一日に30kmは平気で歩く。尾瀬をふたりで歩いたが、全行程20km以上、彼は少しも疲れを知らず、僕はもうへとへと)
「なんで?」
どうやら、カナダ製でも、イタリア製でも、日本製でもない自転車のフレームが気に入らないようである。
「今はだいたいそのブランドの国で作られてなくて、台湾で作られているのだよ。そうでなければ、30万円はするんだよ」と言っても、もういらないのである。
こうして、ほぼ新車状態で僕の管理下に置かれることとなる。でもね、フレーム以外は、シマノ製であり、ブレーキなんか前後機械式ディスクブレーキだ。タフな本格的なオフロード用ではないけれど、これはこれで結構楽しめるし、とにかくおしゃれな上に清潔感。前輪はクイックリリースが装着されていて、工具いらずで外せるし。外せばジムニーにも、ポイッと載せる事が簡単に出来ちゃうし。
拠点はふとしたことから見つけた、ちょっとした広場。僕以外は渓流釣りを楽しむ人が数人いるだけだ。上流には、もちろん人家もなく、人工的な音はない。
拠点となる場所にテントや調理用品を組み、ダウンヒルを楽しむ。見上げても良いし、気に入った場所があれば、そこで写真を撮るも良し。滑りやすい苔むした道路脇を避けて、いや、わざとその上を走りブレーキを掛けてみたりする。帰りはゆっくりと登ってくれば良い。疲れたら、テントが涼しい木陰を作っていてくれるし、冷えた飲み物もある。対岸で音がする。多分猿だ。見上げると木々の勢いも少し弱くなって、どうやら秋も近いようだ。
あの、女性がせいろを重ねて、持って来るのを、覗き込むのが、好きだ。
「これ食べる!これいらない」3段重ねが贅沢だ。それよりも高くすると、きっと上は熱が通らないかもしれない。竹や木材を主とした製品はあるけれど、アウトドアなので、耐久性も大事である。そこで、100均ショップで探す。鍋とその径の粉ふるいが目についた。大事なのは、鍋に付属している蓋が、粉ふるいにズレずに合うかどうかだ。それをクリアできれば、その他は金属なので、少しぐらいサイズが合わなくても、何とかなるだろう。蓋はぴったり。粉ふるいは重ねるようにはできていないので、ズレないように工夫がいる。粉ふるい同士の接点は金具3個。鍋と粉ふるいの接合部分だ。そこはボルトを6本使い、横ずれも回転もしないように出来上がった。工具箱の金具を見つけ出し、なんとか形にできた。テストで使用してみると、心配された粉ふるいの目の細かさ、液体化した水蒸気(水)が下に戻らないのではないか、という懸念は見事に問題なし。また金属なので、やけどに注意が必要は軍手を使うことでクリアできた。
食材は業務用スーパー。小籠包、三鮮水餃子、えび焼売。合計1.4kg。
さぁ勝負だ!
結果は当然ながら、食べ切れず。この、蒸すって料理方法は、かなり食材を美味しく仕上げてくれると思う。それもほったらかしで良いわけだ。立ち上がる湯気を楽しんだり、スマホでタイマーを掛けておけば、あとは何もすることがない。寝っ転がっていれば良い。
拠点横の渓流を覗き込んでみる。今年は雨が多く、水嵩も多い。対岸で枝が折れる音がする。姿は見えなかったが、多分猿だ。今年の山の食料はどうなのだろう。
富士スピードウェイのヘアピンカーブの外で、仕事中に師匠・但馬治がクルマの屋根に登り、アケビを採っていたことを、ふいに思い出す。レース中である。「スタート直後の第一コーナーのトップ争いの突っ込み、その後、全車両の一台ずつの走り、それが終われば表彰式まではアケビだろ!」「いくらちゃん、もうちょっとクルマ前へ出して。アケビがいっぱいあるぞ!」
今はもう奇麗に整備されてしまい、その想い出の場所はもう富士スピードウェイにはない。