自動車の使用電力が増えるなかで、電源としてのオルタネーターの使い方が高度化している。エンジンの燃費を下げながら、いかに発電機を有効に回すか。その答えがキャパシタの採用だった。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)
マツダが2012年のアテンザの全グレードに投入し、2013年のアクセラ(一部グレード)にも搭載したi-ELOOP(アイ・イーループ:Intelligent Energy LOOP)は、マツダ独自の減速エネルギー回生システムである。
走行中の車両の運動エネルギーは、減速時にブレーキユニットで熱エネルギーに変換され、大気に放出される。放っておけば捨てられてしまうこのエネルギーをモーター/ジェネレーターユニットで回生し、蓄電デバイス(主にニッケル水素バッテリー/リチウムイオンバッテリー)に蓄え、後の走行で活用してエンジンの負担を減らし、燃費を向上させるのが、ハイブリッドシステムの基本原理だ。
i-ELOOPも減速時に捨てているエネルギーを回生する機能に変わりはないが、「オルタネーターの発電機会を減らす」ことに特化して開発されたのが特徴だ。走行中はクルマが使う電装品の電力をまかなうため、オルタネーターを駆動する必要がある。そのオルタネーターを駆動するために、走行中にエンジンが発生する出力の10%程度が食われてしまう。
エンジンの最高出力が何キロワットであろうと、市街地や高速道路を定常的に走行するのに必要な出力は5~6kW程度だ。一方、クルマにはエンジンの電装品やパワーステアリング、オーディオにエアコン、ヘッドランプにワイパーなど、さまざまな電装品が搭載されている。走行状況によって消費電流は異なるが、大ざっぱに言って500W程度を消費している。走行するのに必要なのが5~6kWなのに、オルタネーターで500Wを食われてしまうのは痛い。減速時のエネルギーを蓄電デバイスに蓄えておき、後に電気が必要な際は蓄えておいたエネルギーでまかなえば、その間、オルタネーターの出番はなくて済み、エンジンは楽をできる。楽ができたぶん燃費は向上する仕組みだ。
電気駆動システム開発室の高橋達朗主幹をはじめとする開発陣はまず、燃費改善目標を立て、それを実現するために必要なスペックを個別部品に落とし込んだ。目標は、加減速が頻繁にあるリアルワールドでの走行シーンにおいて、約10%の燃費改善を実現することである。
仮の目標を定めるにあたっては、日本のJC08モードも使用した。燃費モード測定時の消費電流値は15~20Aだが、実走行では40Aに達するため、スペック決定に用いる消費電流は40Aとした。この消費電流で45秒間電力を供給できる3.5V×40A×45秒=24.3kJの容量を仮の目標とした。実際には、キャパシタやオルタネーターの仕様を勘案し25kJ(約7Wh)としている。
蓄電デバイスの容量決定はキャパシタを前提に行なっているが、その前段階では、電気二重層キャパシタとリチウムイオンバッテリー、ニッケル水素バッテリー、鉛バッテリーの各デバイスの比較検討を行なっている。蓄電デバイスの決定に関しては、減速時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換するオルタネーターの仕様が影響を与えている。
オルタネーターの電圧は通常12~14Vだが、もともとマツダが使っていたオルタネーターはわずかな仕様変更で12~25Vの範囲で電圧を可変制御できるポテンシャルを備えていた。発電時の電圧を高めれば、瞬時に大きなエネルギーを回収できる。しかし、いくら大きな電気エネルギーを発生させたところで、蓄電デバイスに蓄えられないことには意味がない。そこで、パワー密度に優れたキャパシタの出番となったわけだ。
鉛バッテリーとニッケル水素バッテリーは電流の受け入れ性(パワー密度)の観点ですぐにふるい落とされた。最後はリチウムイオンバッテリーと電気二重層キャパシタの一騎打ちとなったが、使用条件や環境を考えるとリチウムイオンバッテリーは冷却システムが必要となるし、寿命末期では回生効率が低下する懸念があったため、選定から外した。
電気二重層キャパシタに決まったとはいえ、量産車に適用するうえで課題は残っていた。短時間に大電流を回生できるポテンシャルは備えていたものの、エンジンルーム内への搭載を実現するためには、酷暑地域での内部発熱による温度上昇を抑える必要がある。コストや重量の観点から、冷却システムを構築することは考えない前提だった。そこで、マツダは電気二重層キャパシタのサプライヤーである日本ケミコンと共同でセル/モジュールの開発を行ない、接触抵抗の低減や高温耐久性の向上を図り、車載可能な状態に仕立てていった。
アテンザ開発の初期段階からi-ELOOPの搭載が決まっていたわけではなく、レイアウト設計がそれなりに進んだ段階でi-ELOOPの適用が決まったため、5本のセル(単セル2.5V)を二段重ねにするモジュールの形状は、残っているスペースの都合から決まった。電源系をエンジンルームに集約したのは、「ハーネスを短縮して送電ロスを抑えるため」(高橋氏)だ。
オルタネーターを12~25Vの可変電圧としたのはエネルギー回生の効率を高めるうえで貢献したが、引き換えに12V系の電装品に電流を流す際は降圧する必要があり、そのためのDC-DCコンバーターが必要になった。675Wの出力は電装品の消費電流を最大50Aと見積もったためである。キャパシタと同様、冷却システムを組む考えはなく、空冷で成立させ、助手席の下に置いた。
ちなみに、ホンダはフィットの1.3lエンジン搭載車にi-ELOOPと同じ日本ケミコン製のキャパシタを搭載し、これをアイドリングストップ用の蓄電デバイスに使っている。減速時にオルタネーターで発電した電気エネルギーを蓄えるまではi-ELOOPと同じだが、蓄えた電気を電装品に供給するのが主目的ではなく、再始動時にスターターを駆動するために用いる。i-ELOOPもスターターを駆動するのに十分なキャパシタの容量を確保してはいるが、キャパシタに溜まっている電荷が高い場合は再始動時に降圧する必要がある。i-ELOOPは蓄えた電気エネルギーを再始動時のスターター駆動には使っていない。
また、スズキは乗用車のスイフトや軽自動車各種に「エネチャージ」と名付けた減速エネルギー回生システムを搭載している。オルタネーターで発電した電力は助手席下に設置したデンソー製リチウムイオンバッテリーパック(容量36Wh/130kJ)に蓄える。蓄えた電力はイグニッションコイルや燃料ポンプ、オーディオやストップランプなどの電装品に使用。再始動時のスターター駆動には鉛バッテリーの電力を使う。
i-ELOOPは通常走行時、キャパシタに溜まっている電力を使い果たした後は、鉛バッテリーから電力を供給しつつ走る。減速時はオルタネーターで発電し、電力をキャパシタに蓄える。いわゆる満タン状態になるのに数秒。仕向地や組み合わせるエンジンの種類によってセッティングは異なるが、アクセルオフ(燃料カット)時の減速度を発生させながら回生するのが基本。回生の効率を高めるならもっと減速Gを大きくしたいところだが、そこは慎重に煮詰めていった。ドライバーがブレーキを踏んだ際は減速の意思ありと判断し、さらに減速度を高め、回生量を増やす制御を行なっている。
i-stopと呼ぶアイドリングストップ時は、キャパシタに溜めた電力を使い、電装品への電源供給を行なう。およそ1分から1分半はキャパシタに蓄えた電力でまかなえる。アイドリングストップの時間が長く、キャパシタ分を使い切ってしまった場合は、鉛バッテリーから電力を供給する。夏の夜で雨が降っていて......という、電力消費量的に厳しい状況以外、ほぼすべての使用条件で容量不足に陥ることはないという。ただし現状で満足することなく、引き続き多くの減速エネルギーを回生できるよう開発を続けると同時に、回生したエネルギーを有効活用できる技術開発にも取り組んでいるところだ。