6ストロークサイクルという、およそ耳慣れないサイクルのエンジン。実情は4ストロークにクランク1回転分の2ストロークを追加したもの。追加された2ストロークで何を行なうか、そこが問題だ。
TEXT:高橋一平(TAKAHASHI Ippey) ILLUST:熊谷敏直(ToshinaoKUMAGAI)
4ストロークエンジンが排気を終えた後に、もう1回転分の行程を加えるという6ストロークは、主に燃費競技用のエンジンなどに見られる手法だ。クランク3回転で1回だけの燃焼、加えてクランク2回転分が慣性で回るだけになってしまうので、追加の2ストローク分で大きな仕事はさせない、させたくないというのが基本的な考え方。新気の導入による完全掃気と冷却による高圧縮化の実現や、低負荷運転が多いことに加え慣性走行などで冷えやすいエンジンを保温するための排気の再吸入など、その手法はいくつか存在するが、空気を入れて出すだけで、圧縮などしないという点では共通していた。
【6ストロークサイクルの行程】
吸気 → 圧縮 → 膨張 → 排気 → 吸入 → 掃気
前例が多いとは言えない6ストロークエンジンだが、その中の多くが行なっていたのが、空気の吸入、排出による燃焼室内の掃気と冷却。慣性のみの回転で無理なく回すために、大きな仕事をさせたくないという考えがベースにある。吸入行程で取り入れた新気を排気ポートから排出。残留ガスが完全になくなると同時に、燃焼室の冷却が行なわれる。エコラン競技ではこれと逆に、エンジンの過冷却を防止するため、排気ポートから再度排気を取り込む例もあった。
ところが、追加分の行程で過給を行なうものが現れた。埼央エンジニアリングの6ストロークである。今や何の疑問も感じないほど当たり前になってしまった4ストロークの存在に一石を投じることで、疑問というものを忘れてしまった世の中に刺激を与えたいという思いで、同代表が手造りで仕上げたもので、追加分の2ストロークで新気の導入と過給用チャンバーへの畜圧を行なうというもの。
クランク3回転に1回の爆発ということで、始動性の悪さをイメージしがちだが、始動は実にあっけない。やはりものごとは実際にやってみるまでわからない。ひとつ確かなのは、6ストロークがエンジンとして成立するという事実である。