インディカー・シリーズ第7戦、第104回インディアナポリス500マイルレース(通称インディ500)は8月23日に行なわれ、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの佐藤琢磨がトップでフィニッシュした。2017年の101回大会に続く自身2度目の優勝である。エンジンを供給するホンダにとっては3年ぶり13回目の優勝。琢磨は史上20人目の複数回(2回以上)優勝者となった。
TEXT◎世良耕太(SERA Kota) PHOTO◎INDYCAR
最高速が380km/hに達する、インディカーの車両概要を見ていこう。カーボンモノコックを核とするシャシーは2012年以降、イタリアのシャシーコンストラクター、ダラーラ(Dallara)のワンメイクだ。モデル名は「ダラーラIR-12」である。18年以降はこれに、「ダラーラIR-18エアロキット」を装着している。
エアロキットに含まれる前後のウイングには「スピードウェイ」用と「ショートオーバル/ロードコース」用の2種類がある。全長2.5マイル(約4km)のインディアナポリス・モータースピードウェイで使用するのはもちろん、スピードウェイだ(ほかに、テキサス戦で使用)。フロント、リヤウイングともに最高速を重視したシングルエレメントで、フロントの最小角度はマイナス1.50度、リヤは0〜マイナス9度の範囲で使うことが定められている。ショートオーバル/ロードコースはダウンフォースを重視しており、フロントウイングは3エレメント、リヤウイングは2エレメント構成だ。
2020年シーズンからは、コックピットを保護するエアロスクリーンが導入された。チタン製フレームに透明ウインドスクリーンを装着した構成で、レッドブル・アドバンスト・テクノロジーズが開発した。ホンダのパワーユニットを搭載してF1に参戦するレッドブル・レーシングの関連会社である。チタン製フレーム自体は、レーシングエンジンや量産エンジンのピストンやコンロッドなどの製造で実績があるパンクル(Pankl)製で、17tの衝撃に耐える構造。エアロスクリーンは2ポンド(約900g)の物体が220mph(約354km/h)で衝突しても耐える設計になっている。
タイヤはファイアストン(ブリヂストンの子会社)のワンメイクで、リム径は15インチ。フロントタイヤの幅は約11インチ(約278mm)、リヤタイヤの幅は約15インチ(約380mm)だ。インディアナポリスのようなオーバルコース(左回りだ)を走る際は、左右のタイヤを同一方向に傾けてセットするのが特徴。右側のタイヤには通常どおりネガティブキャンバーがついているが、左側はポジティブキャンバーがついている。前から見た際にハの字に傾くのが通常だが、オーバルでは//のようにする。4ヵ所のターン(コーナー)を曲がりやすくするためだ。
車両の全長は約201.7インチ(約5123mm)、全幅は75.75インチ(約1924mm)〜76.75インチ(約1950mm)、ホイールベースは117.5インチ(約2985mm)〜121.5インチ(約3086mm)に規定されている。スピードウェイ仕様の最低重量(ドライバーを含む)は1655ポンド(約745kg)だ。長さと幅はF1より少し短くて狭く、ホイールベースは数百ミリ単位で短い。重量は同等だ。
エンジンはホンダとシボレーがチームに供給している。2012年の規定変更により、それまでの3.5ℓV8自然吸気から、2.2ℓV6ターボに切り替わった。ホンダは12年〜13年にシングルターボを選択したが、14年にツインターボに切り換えた。現在はツインターボにする決まりだ。
2020年シーズンのホンダ製エンジンの名称はHI20RTTで、開発はアメリカに拠点を置くHPD(ホンダ・パフォーマンス・ディベロップメント)が行なっている。ターボチャージャーはボルグワーナーの指定品を使用する決まり。最大ボア径は95mm、最低重量は112.5kgに規定されている。最高回転数の上限は規則により12000rpmに設定されている。最大過給圧はコースによって規定されており、インディ500の予選は1500mbar、決勝は1300mbarに設定されている。最高出力は550〜700hpだ。
インジェクターは気筒あたり2本の使用が認められている。ホンダは2本を選択。1本は直噴(最大噴射圧は300barに規定)とし、もう1本は吸気ファンネルの上部から噴いている。燃料は85%のエタノールに15%のガソリンを混合したE85を使う。ギヤボックスはXトラック製の6速で、パドルシフトにより変速を行なう。