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スズキ・パラツインΓ、このピーキーな特性は唯一無二の資質だ。|旧車探訪記RG250Γ 3-②


峠道やサーキットでの速さは、後発のライバル勢には及ばない。とはいえ、2ストならではの爽快なエンジンフィーリングが味わえるという意味では、初代RG250Γは侮り難い資質を備えているのだ。




REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)


PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)


取材協力●レッドモーター ☎03-3915-0953 http://redmotor.com/

 1983年~1987年の生産期間中に、RG250Γは3度の大幅刷新を受けている。その概要をざっくり説明すると、●1984年型:フレームがリブ付きのMR-ALBOXに進化。フロントブレーキキャリパーを対向式2→4ピストンに変更。吸気系に電子制御式エアコントロールシステムのEACSを導入 ●1985年型:パワーユニットに排気デバイスのSAECを採用。フルカウルが標準化 ●1987年型:前後ホイールのサイズとデザインを一新し、フォークのインナーチューブ径を36→38mm、フロントディスク径を235→275mmに拡大、となるのだが、5年間でここまで多岐に渡る熟成が行われたのは、当時のレーサーレプリカならではで、現代では考えられないことだろう。




 歴代RG250Γシリーズに対する評価は、1984年の2型で運動性能と扱いやすさが大幅に向上し、1985年の3型でひとつの完成形に至ったというのが通説で、僕自身も過去の試乗ではそう感じた記憶がある。逆に言うなら1983年に登場した初期型は、2型以降と比べると、粗削りなところがあったのだが、今回試乗した車両は、当企画に協力してくれたレッドモーターが入念な整備を行っていたことに加えて、最近になって僕のレーサーレプリカに対する見方が変わったからだろうか、コレはコレで面白いじゃないか‼ と思える乗り味だった。

 1980年代中盤までのレーサーレプリカは、レーシーなルックスとは裏腹に、ハンドルグリップ位置が高く、シートは十分な肉厚を確保しているので、市街地走行やツーリングが意外に快適にこなせる。もちろんRG250Γもその例に漏れず、走り出すまでのハードルは高くない。ただしハンドルとシートの両方が高いことには、違和感を覚える人がいるかもしれない。なおレーサーレプリカが、フレドリーさや日常域をある程度切り捨て、スポーツライディングに特化したライディングポジションを採用したのは1980年代後半以降で、RG250ΓもエンジンをV型に変更した1988年型からは、上半身の前傾を強要する低いハンドルと、衝撃吸収性があまり期待できない、ウレタンが薄いシートが標準となった。

 さて、数行前に走り出すまでのハードルは意外に高くないと書いたものの、キックでエンジンをかけ、クラッチをつないで発進しようとすると、45psの高出力を絞り出しながらも、排気デバイスを装備しない2ストパラツインだけあって、やっぱりエンジンの低速域のトルクは細い。思い通りの加速が得られるのは6500rpm近辺からで、それでいて最高出力発生回転数の8500rpmを超えると明らかに伸びが鈍って来るので、実質的なパワーバンドは2000rpmほど。おそらく、古い2ストに不慣れなライダーが乗ったら、ピーキーな特性に面食らうだろう。

 ただしこの日の僕は、ピーキーな特性に好感を持ってしまった。もちろん峠道やサーキットで誰かと勝負するとなったら、EACSを導入した2型や、SAECを装備する3型以降のほうが有利だけれど、その論法で行くなら、パラツインΓより1988年以降のVΓ、あるいは、TZRやNSRのほうがさらに有利である。でも何と言ったらいいのか、電子制御と排気デバイスが介在しない、昔ながらの2ストのフィーリングに、僕は清々しさを感じたのだ。いや、エンジンが空冷だったRG250Eと比べれば、RG250Γは振動と騒音がかなり低減されているので、昔ながらはちょっと語弊があるものの、勝負や速さにこだわらなければ、初期型のピーキーな特性はまったく悪いことではなく、むしろ爽快さと操る手応えを感じる一因になる。もちろんこのあたりは、今だから言える話だけれど、初期型RG250Γは、以後のレーサーレプリカでは味わえない、唯一無二の資質を備えていたのだ。

 一方の車体は、アルミフレーム+スイングアームに加えて、フロント16インチやアンチノーズダイブ機構付きフォーク、リンク式モノショックなど、数々の新機軸をイッキに盛り込んだせいか、2型以降ほどの安定感はなく、見方によってはジャジャ馬的なところがある。でもパワーユニットと同様に、僕はその特性にも好感を抱いた。おそらく当時のスズキは、乗り手を怖がらせない範囲で軽快なハンドリングを構築し、スポーツバイクの新しいスタイルを提示したかったのではないだろうか。ちなみに、80年代前半の流行だったフロント16インチは、車両によっては落ち着かないとか乗りづらいなどと言われることがあるものの、今回の試乗車は整備状況が良好だったことに加えて、前後輪に装着されたダンロップGT601との相性がよかったようで、コレといったマイナス要素は感じなかった。もちろん従来の250ccスポーツの定番だった、フロント18インチほどの落ち着きはないのだが、慣れて来るとフロント16インチならではと言いたくなる、シャープでクイックな旋回性が堪能できた。

 ここ最近の中古車市場ではレーサーレプリカが大人気なのに、どうしてRG250Γシリーズの価格はライバル勢ほど高騰しないんだろう。今回の試乗では、第一回目に記した疑問を解消したかったものの、残念ながら僕には答えがわからなかった。何と言っても久しぶりに体験した初期型Γは、速さや扱いやすさでは以後のライバル勢に及ばなくても、ムチャクチャ楽しかったのだから。




 という考えに至ったところで、ふと思ったのである。もしかして、これは僕を含めたメディアの責任ではないかと。改めて考えると、近年のメディアが取り上げる2ストレーサーレプリカは、NSRがダントツ人気、それに次ぐのはTZRとRGV-Γという印象で、パラレルツインΓの紹介はごくわずか。その背景には、取り上げても読者からの反響が少ない、良質な中古車を探すのが困難などという事情があるようだが、ライバル勢より価格が安いRG250Γは、見方によっては今が狙い目なのかもしれない。なお今回は初期型を持ちあげる展開になったけれど、同時代のライバルや後継車を比較対象とするなら、2型以降のRG250Γも、昔ながらの2ストのフィーリングが味わいやすいほう……だと思う。

新車時は戦闘的と評されたことがあるけれど、現代の視点で考えるなら、RG250Γの乗車姿勢はスポーツツアラー的。ハンドルは高く、シートは十分な肉厚を確保しているので、長距離もそれなりに快適だ。なお1980年代中盤以降の2スト250ccレーサーレプリカは、760mm前後のシート高が定番になるのだが、1980年代前半はもう少し高めが一般的で、初代RG250Γは785mm。

1982年7月に解禁されて以来、日本市場では徐々にカウルの普及が進んでいたものの、ここまでレーサー然としたカウルは、250ccではΓが初。オプションのロアカウルを装着した特別仕様車も限定販売された。

当時のワークス/市販レーサーに倣う形で、コクピットはブラックで統一。セパハンはアップタイプだが、1985年の3型からはやや低めとなる。左右スイッチボックスは同時代の他のスズキ車と共通。

日本電装の計器はフローティグマウント。3000rpm以下の目盛りが存在しないタコメーターは非常にレーシーだが、アイドリングや低回転域のキャブセッティングを行うときは、この構成が仇になった。

燃料タンクはアルミフレームがよく見えることを意識した構成。メーカーエンブレムなしのデザインは、当時としては画期的。フラットなタンクキャップを外すと、燃料に加えて2ストオイルの給油口が現れる。

シートは前後分割式で、キー操作で脱着できるのは前側のみ。ただし前側を外しても、収納スペースはほとんどナシ。キーシリンダー基部にはヘルメットホルダーが備わる。

斬新なデザインのテールカウルは、マニアの間では“ヤッコダコ”と呼ばれている。リアウインカーの出っ張りの下に、スチール製パイプを仕込んでいるところは、実用性を重んじるスズキならでは。

ステップまわりのパーツは、当時の250ccでは珍しかったオールアルミ。防振用ラバーを装備しないステップバーも、当時としては画期的だった。バンクセンサーの取り付け方は、現代の視点で見るとワイルド?

水冷化が図られているものの、54×54mmのボア×ストロークとパワーリードバルブの吸気方式は、先代のRG250Eと同じ。なおGP500を戦うRG500/Γの吸気は、ロータリーディスクバルブ式だった。

キャブレターはミクニVM28SS。この頃のキャブレターは昔ながらの丸型バルブが一般的だったのだが、RG250Γは初代の時点で、以後の定番になるフラットバルブを採用していた。

フロント16インチは当時の流行で、250ccクラスではMVX250FやNS250R、KR250、FZ250フェザーなども採用。対向式2ピストンのフロントブレーキキャリパーは、2型からは4ピストンに変更された。

アルミスイングアームとサイレンサー別体式チャンバーも、当時の250ccクラスでは貴重な装備。サイドカバー下部に見える筒型のパーツは、リモート式のリアショック用プリロードアジャスターだ。

タイヤサイズはF:100/90-16・R:100/90-18。フロントはさておき、リアは当時の基準で考えても細身である。ミシュランに製造を依頼した純正タイヤは、1980年代の基準で考えると豪華な装備だった。

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