かつて日本に存在した「最高出力280ps」の自主規制。枠が科せられていたからこそ、その中で最大限のパフォーマンスを発揮すべく、国産メーカーは鎬を削っていた。萩原文博さんが選んだ最高の国産車3台は、いずれも280psの持ち主だ。
TEXT●萩原文博(HAGIWARA Fumihiro)
1988年12月、昭和が幕を閉じる直前に免許証を取得した筆者。取得したわずかひと月後には国産車のヴィンテージイヤーといわれる1989年が幕を開けた。
当時は280ps自主規制が国産車には存在したが、続々と280psを表記するクルマが登場しパワーバトルが繰り広げられたのはご存じのとおり。そして1993年からこの業界に携わるようになり、当時最高出力がグロスで100psのクルマに乗っていた筆者にとって最高出力280psを発生するクルマは麻薬のようなものだったと覚えている。それから四半世紀以上業界にお世話になっている筆者が選ぶ「人生最高の国産車3台」は以下のとおり。
第3位:トヨタ・アリスト(1991年-)
第3位はJZS147型トヨタアリスト。1991年10月にクラウンの兄弟車として登場した初代だが、外観デザインはジウジアーロ率いるイタルデザインが手がけており、高い空力性能を実現するだけでなく、オジサン臭くないのがいい。
そして何より“最高”と感じたのは3.0Vが搭載していた最高出力280ps、最大トルク44.0kgmを発生する2JZ型3L・直列6気筒ツインターボエンジンを搭載していること。組み合わされるミッションは4速ATだけだが、アクセルを踏むと頭がヘッドレストに押しつけられるような爆発的な加速力はまさに麻薬。この圧巻の加速力はメルセデス・AMGやBMW Mモデルを彷彿させるものだった。
第2位:マツダRX-7(1991年-)
続いて第2位はFD3S型マツダRX-7。1991年に初めて、RX-7のスタイルを見たときにこれは欲しい!と思ったが、車両本体価格は360万円からと先代モデルよりグンと値上がりしたことで、購入を断念。しかし、仕事で乗ることができた。
デビュー当初の1型〜最終の6型まで乗ることができたが、自分にとって“最高”と感じたのは、熟成の進んだ6型に進化した際に登場した特別仕様車のRZ。2シーター仕様の走りのグレードだが、運転スキルが優れたわけではない筆者が運転してもクルマを気持ち良く振り回すことができ人馬一体が味わえたからだ。
初期のFD3Sはどこに飛んでいってしまうかわからないじゃじゃ馬だったが、6型はリアのスタビリィティも高く、思う存分振り回すことができた。まさに6型のRX-7 RZは筆者にとって最高の人馬一体を味わえたクルマだった。
第1位:日産スカイラインGT-R(1989年-)
そして第1位はR32型日産スカイラインGT-R。「人生最高の国産車3台」の中で唯一マイカーとなったクルマでもある。
子供の頃から耳にしたポルシェの前を走ったスカイライン伝説。「羊の皮を被った狼」など様々な伝説を受け継いだスカイラインGT-Rが16年振りに復活したのだから、憧れずにはいられない。そして、初めて仕事でR32スカイラインGT-Rに乗ることになり、ステアリングを握った瞬間が自分にとってまさに“最高の瞬間”だった。RB26DETT型の直6エンジン、アテーサE-TSといったスペックの凄さ以上にスカイラインが紡いできた伝説に触れた瞬間だったからだ。
幸運にも20代でR32型スカイラインGT-Rのオーナーとなることができたが、仕事が忙しくなり手放してしまった。しかし、年を重ねた現在もう一度所有したいと思う1台もR32型スカイラインGT-Rだけで、それを実現させたいと思っている。
【近況報告】
スカイラインに搭載されたプロパイロット2.0をテストした。当初はその技術の凄さに驚くばかりだったが、落ち着いて考えると高速走行でのハンズオフ運転には馴れが必要だと実感した。
【プロフィール】
中古車専門誌とオプションをバイブルとして、日々妄想に明け暮れた高校生時代を経て、大学在学中に某中古車専門誌編集部のアルバイトをきっかけに自動車業界デビュー。2006年からフリーランスとなり、現在は新車の撮影・試乗から中古車相場をチェックし新旧問わないクルマのバイヤーズガイドを得意とする自動車ライター。