多くの部品が重なり合い組み合わさって構成されるサスペンションという装置。その複雑な仕組みを解説してみる。第一回は三菱ランサーエボリューションX。
ランサーエボリューションIXに比べて、ベース車がひと周り大きくなったが、それをものともしない運動性能の向上を目指して開発された。プラットフォームの一新にともなって、エンジンも新設計のアルミブロックを採用。トランスミッションも、6速MTに加えてツインクラッチ式の自動変速機構付き7速「ツインクラッチSST」搭載モデルを設定。4輪統合制御システムもS-AWCへ進化し、誰もがスキルに応じて楽しめる、ドライバーフレンドリーな高性能を実現している。
ベース車は変わっても、サスペンションの基本構成に変わりはない。ごく一版的なストラット にΓ字型ロワーアームを組み合わせた、非常にシンプルな構成だ。 ただし、アームやハブキャリアなどは専用設計品とし、ストラットも倒立タイプを投入して剛 性の向上を図っている。クロスメンバーも、いかにも剛性の高そうな専用品がおごられている。 いつも通りの「エボの文法」にのっとった構成だ。
見た目の印象ではあるが、ちょっと気になるのがブレースバーのサイズと取付方法。ロワーアーム前側マウント部は大入力が直撃する部分であり、本来はもっとしっかりした構造材でがっちりとダイレクトにつなげておきたいところ。アンチロールバーはリンクがアームマウントになっている。構成上しかたないとして、バー本体が合間をぬって行くような形状になっている点は要検討。不要に長くなってしまうことでばねレートが落ち、作動効率の面で不利になってしまう。
リヤサスペンションも、エボIXとほぼ同じ構成だ。いかにも剛性が高そうなサブフレームを用意し、ロワーをトレーリングと、ほか2本のリンクで構成。構造的にはマルチリンクと呼んでもいいが、この構成では転舵軸がタイヤトレッド面のはるか外、後方に位置することになり、コンプライアンス軸の制御は想定していないはずだ。全体の構成からいえることは、ブレーキング方向ならびに横力が入るとトーインになること。まずはリヤをしっかり落ち着かせ、そこを基本として走りを組み立てる、との意図が明確。すでに実績を重ねている構成である。少々見づらいが、アンチロールバーはリンクをアッパーアームに接続。位置と構成でレバー比を小さく収めようとの努力が見て取れる。各部ジョイントのうち、特に大きな力がかかる部分にはボールジョイントやピロボールブッシュを採用し、作動の確実性と耐久性を確保している。
ランエボのベース車であるギャラン・フォルティスのサスも見てみよう。フロントは非常に典型的なストラット形式だ。サブフレームが前まで出ておらず、フロアの延長という感が否めないが、これは国産の横置きFF車にありがちな構造ではある。本来であれば、左右のアーム間を直接接合するメンバーの類が欲しい。この構造では大きな入力を受けるロワー前側ブッシュの容量もあまり大きくできないので、音振の面でも不利になりがち。リヤはトレーリングアームが大きい。前後の位置決めの面では有利なので、あとはトー剛性をいかに確保するかが課題だ。