ホンダ・アクティトラックやアクティ バンは軽商用車唯一のMRレイアウトを採用している。それはスポーティな操縦性を欲張った結果ではなく、あくまでもライバルより広く、フラットで使い勝手の良い荷台スペースを確保するための合理性を追求して生まれた、いわば実用型MRなのだ。
TEXT:近田 茂(CHIKATA Shigeru)
ホンダのミッドシップ・レイアウトそのものは同社初の4輪市販車、T360から踏襲されているが、現在のリヤMR方式のルーツは、その後継車のTN360にある。「これまで(3代目アクティ登場時)に4回のフルモデルチェンジを経て、その度に見直しの検討を図ってきましたが、結果的にMRレイアウトは変えていません。これがベストだと判断しているからです」と言うのは開発リーダーを務めた藤永政夫氏。さらに「TN360の開発コンセプトは、ライバルをしのぐ平らな荷台長を実現することでした。ただ目標達成のために、当時のF1技術を惜しみなく使おうという意志が働いていたのも事実のようです」と主任研究員の下田学氏が当時の状況を解説する。
記録的ヒットモデルになったN360と同じTN360の2気筒エンジンは、フロア下にマウントできるよう前傾レイアウトに設計変更され、横置きに吊るされた。まるでオートバイのそれを見るようにミッションとクランクケースは一体構造。さらに、後部中央に一体化(内蔵)されたデフの両脇から自在継手を介したドライブシャフトを通し、後輪を駆動する方式である。クランク軸から駆動輪までの最短距離を追求したそのデザインには、F1で培われたノウハウのひとつをかいま見ることができる。
当時の軽トラックは、RR方式のスバル・サンバーを除き、多くはキャブオーバーのデザインが主流になろうとしていた。運転席の下にエンジンを縦置きし、プロペラシャフトとデフを内蔵するリジッドアクスル(ホーシング)へと駆動を伝えるという方式である。しかし当時の軽自動車規格では、操舵角を確保する都合やフライホイール&クラッチ部の膨らみもあり、エンジンはシート下のスペースに納まり切れず突出する。その出っ張りを逃がすため、キャビン後部の仕切りや荷台先端の中央部分には膨らみが存在するのが常であり、これが「広くて平らな荷台」の成立を阻害する原因となっていた。
リヤMR方式の採用で、TN360ではその邪魔な膨らみが一切ない1925mmもの荷台長を得ることに成功、荷台の使い勝手において他を圧倒する魅力を誇った。荷台フロアまで、およそ58cmの地上高さも荷役作業に都合の良い高さであったと言う。
さらにもうひとつ。前後輪の荷重配分はミッドシップならではで、ほぼイーブン。3代目のアクティトラックが前49:後51、アクティバンとバモスは前47:後53という割合(ちなみにZは50:50だった)に仕上げられている(*現行4代目のアクティトラックは前60:後40)。この結果、空荷でも後輪にシッカリと荷重が加わり、トラクションが効く。ウネリのある路面など、滑りやすい場面でも後輪が空転する心配は少なく、かつフル積載でも扱いやすい操縦性が保たれることにもなった。MRならではの積載性と操縦性は、現在も根強い支持を得ている。
長年培ってきたホンダ軽商用車の基本的なMRレイアウトが左図。3気筒エンジンは横置きに搭載。ただし図は4WD車なので、ミッションと一体化されたデフ(後方中央)部にユニバーサルジョイントを介したドライブシャフトが付く。
一方、右は4ATミッションの4WD車。3気筒エンジンは縦置きレイアウト、センターデフから前後方向それぞれにプロペラシャフトが伸びる。前後それぞれのデフを介したドライブシャフトで4輪を駆動する。
(図版はサービスマニュアルより転載。ただしエンジン、ミッション部は解説のため編集部により着彩。引き出し線と番号は本解説とは関係ありません)
(参考:ホンダZ)
MRレイアウト採用の派生機種として開発されたZ。走りのいい SUV 系異色モデルとして注目を集めた。惜しくもラインアップか ら消えてしまったが、ターボや4WDなど、バモス等へ引き継がれ たメカニズムの基がここに見られる。
60度寝かせたエンジンの縦置きレイアウトは基本的にZの開発から生まれた。エンジンの後(車体前方)に続くミッションが大きいのは、余裕のあるシビック用が使用されているからで、タフネスぶりは折り紙付きだった。