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通勤からロングツーリングまで余裕でこなせる万能野郎。|トライアンフ・タイガー 900GT PRO


今やツアラーの代表的存在になっているのが冒険心を駆り立てられるアドベンチャー系のモデル。タイガーと言うネーミングは1936年に登場した単気筒モデルが初代だが、同社お得意の3気筒エンジンを搭載する現モデルは2010年に初代、2代目が2017年に登場後早くも2018年に大幅刷新されて話題を呼んだ800がベース。今回の試乗車は、軽量化も含めて大胆なパフォーマンスアップを図り900として追加投入された最新の主力モデルである。




REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)


PHOTO●徳永 茂(TOKUNAGA Shigeru)


取材協力●トライアンフ モーターサイクル ジャパン

トライアンフ・タイガー 900 GT PRO.......1,820,000円

コロシレッド

ピュアホワイト
サファイアブラック・タイガー 900 GT.......1,580,000円

 トライアンフのアドベンチャー・カテゴリーに属しているのは、現在チェーンドライブの800が3 機種、シャフトドライブの1200も3 機種あるが、そこに最新の900が追加投入された。バリエーションはGT系とRALLY 系の2 通りがあり、それぞれに装備グレードが上級なPRO が用意されている。


 800 をベースに開発された900 は単純に排気量がアップされただけのモデルでは無い。まず軽量化も図られて大きく刷新された搭載エンジンは、800のボアを約4mm 拡大。よりショートストローク化されている。


 スクエア比(ボア÷ストローク)で表すと800の1,196 から900 は1,26へとよりオーバースクエアに。それでもあえて高回転高出力化は追求せず、最大トルクでは800 よりも800rpm低い7,250rpmで87Nmを発揮。これは10% もの向上に値する。


 最高出力は70kWと同等ながら、発生回転数はやはり800の9,500 から8,750rpmに下げられた。エンジン性能曲線で比較すると、実用域のほぼ全て、特に中速域では9%のパワー向上を果たしているから驚きである。




 エンジン搭載位置の変更により、重心位置は40mm前へ&20mm低くなっているのも見逃せない。スリムになったシートクッションとハンドル位置を10mm近づけたライディングポジションも相まって、よりアップライトな自然体で乗れると言う。


 ツインラジエターを搭載し冷却性向上及びライダーへの熱気上昇も低減。ボルトオンのリヤサブフレームとピリオンハンガーを採用した軽量モジュラーフレームも相まって、軽快な扱いやすさとよりダイナミックな走りが期待できるのである。


 7インチのフルカラーTFT ディスプレイも最新アイテムを搭載。標示デザイン(方法)が4通りから選べる他、スマホ他との連携まで、それはもう多彩な高機能を誇っている。リヤサスペンションには電子制御機能を搭載し、ソフトからハードまで9 段階、タンデム等の荷重変化には4 段階のプリセットがハンドル左側のスイッチで簡単に調節できる。


 ライディングモード選択等でもPROには上級の装備が奢られている他、クルーズコントロールや前後シートヒーター&グリップヒーター、クイックシフター、フォグランプ等も標準で装備されている。GTと同PROは基本的に同じだが、装備内容で大きな差別化が図られているのである。

どんな場面でも、3気筒エンジンの出力特性が気持ち良い。

 跨がった瞬間の雰囲気は、もはや1Lクラスの立派な乗り味がある。ドッシリとした重量感があり、ロングツーリングに相応しい感覚を覚える。とは言え、外観デザインは800よりもスマートに見えるし、直感として重すぎない程良いレベル。車庫からの出し入れや取りまわしも無理無く扱える。


 タップリと厚みのあるシートもデザインがスリムになっていて、830mm のシート高の割りには足つき性が良い。筆者(身長168cm)の場合両踵は浮いてしまうが、足の腹(指の付け根)が接地するので、乗車したまま後退する動作も何とか対応できた。


 前述の通り大きく立派な感触に、乗車当初は少々慎重に扱う気分になるが、慣れると逆にドンと構える落ちついた乗り心地と視線の高い乗車姿勢が、快適に思えて来るのである。




 その雰囲気と絶妙のマッチングを披露してくれるのが、直(並)列3気筒エンジンだ。点火順が変更された事も影響しているのか、ショートストローク化の割に図太さの感じられる出力特性が印象的。軽やかで強力だ。


 トップスローで2,000rpmまで落とす様に意地悪な使い方でも柔軟に対応してくれるだけの頼れる底力を発揮。さらにスロットルを開けるとドーッ!とトルクが増し、その加速力は侮れない。まるで不足はないのである。


 エンジン回転の上昇はレッドゾーンの10,000rpm までは一気に吹け上がる。高速域での伸び感も含めて回転上昇の感覚は、決してシャープなタイプではない。トルクの出方も含めて雰囲気的には、1Lかそれ以上大きなエンジンに乗っているようなフィーリング。出力特性に見られる柔軟性は抜群である。


 ちなみにローギヤで5,000rpm回した時のスピードは48km/h。6 速トップギヤで100km/h クルージング時のエンジン回転数は3,800rpmだった。3,000rpmでも80㎞/hは出るから、郊外の一般道を走る限り、エンジンは2000rpm 前後でブーッと穏やかに回り続ける感覚。それもまたとても心地よい。


 各気筒で爆発を繰り返すパルス感覚は4気筒程シルキーではないが、振動は少ないし、あらゆる使い方の実用域にマッチしてレスポンスが良い、やはり3気筒の走りは魅力的である。


 走行モードは6 通りも選択出来、コーナリング時にもその状況に合わせたABS やトラクションコントロールが介入してくれる安心感も大きい。オフロードモードでは、発進のクラッチミート時にアイドリングを高めてエンスト防止にも配慮されていると言う。


 クラッチ操作も軽く、クィックシフターも違和感のない操作性を披露してくれた。そしてハンドリングも適度な重量感を伴う落ち着いたリズムながら、実に素直に扱えたのが好印象。


 GTと同PRO はあくまで舗装路向けに造られてたツアラー。フロント19インチホイールの採用等、穏やかな気分で高速や峠を快走するリズムに相応しい仕上がりなのだ。パニア等の純正オプション・アイテムも豊富に揃えられており、自分好みの1 台に仕上げる楽しさも大きいだろう。


 


 トライアンフの広報資料を調べていると、試乗後の印象を象徴するキャッチコピーがあったので、引用してまとめとしたい。


「通勤からオンロードツーリングまで、全ての走りを最高のアドベンチャーに変える」!


 要はビッグ(ミドル!?)ツアラーの万能モデルと言える。それもとびきり快適な乗り味が魅力的なのである。

足つき性チェック(身長168cm)

大きな車体サイズとしては一般的な足つき性。ご覧の通り両足の踵は地面から浮いてしまうが、車体は支えやすく、不安は無かった。シート高は830mm。低く(810mm)セットする事もできる。

ディテール解説

アップフェンダーをイメージさせる、クチバシのようなフロントビュー。ヘッド&サブランプとウインカーも全てLED式。3ピースのクリアスクリーン等、なかなか個性的なデザインだ。

φ45mmの倒立式フロントフォークはマルゾッキ製。細いスポークデザインのアルミキャストホイールにはメッツラー製TOURANCE NEXTを履く。フローティングマウントされたダブルディスクローターはφ320mm。ラジアルマウントされた対向4ピストン油圧キャリパーはブレンボ製だ。

スチールパイプフレームに吊り下げられた水冷の直列3気筒エンジン。同800のボアアップバージョン、ショートストローク化と共に、排気量は888ccに拡大された。

ボルトオンされたリヤフレームの跳ね上がりに添わせる様にデザインされた右出しのアップマフラーは3into 1のステンレス製だ。

リヤサスペンションは、両持ちのアルミ鋳造合金製スイングアームと、ボトムリンク式モノショックの組み合わせ。ショックユニットはマルゾッキ製、プリロードと伸び側のダンピングを調節する電子調整機能が採用されている。

4点でリジッドマウントされたシングルディスクローターはφ255mm。ブレンボ製シングルピストンのピンスライド式油圧キャリパーがマッチされている。マルチモードABSとコーナリングABSも搭載。 ご覧の通りメインスタンドも標準装備されている。

ブラックアウトされたパイプバーハンドルはテーパードタイプ。かなりしっかりしたナックルガードが標準装備されている。スクリーンも簡単に高さ調節できる。

グリップヒーターも標準搭載。赤いホーンボタンの右側には十文字&プッシュ(決定)操作ができるジョイスティック。右上のシーソースイッチはオートクルーズコントロール用。その下がモードボタン、上がフォグランプスイッチ、その左はシートヒータースイッチだ。
赤いシーソースイッチはエンジンキルスイッチと始動用セルスタータースイッチを兼ねる。下のグレースイッチはホームボタン、メーターディスプレイ内のメインメニューが呼び出せる。上の赤いのはハザードスイッチ。各スイッチにはイルミネーション(バックライト)がつく。
7インチTFTマルチファンクションインストルメントは4通りの表示スタイルが選べる。四角いディスプレイの中で、様々な情報表示や電子制御のコントロールができる。デジタルのスピードメーターは文字が大きく見やすいが、表現デザインにこだわりのあるデジタルタコメーターは目盛りが細かく少し判読しにくかった。

前後セパレートクッションが採用されたダブルシート。フロントクッションは取り付け位置を選ぶ事ができ、ハイ/ロー2段の切り替えが可能。シート高は低い方で810mmになる。

シルバーのサブフレーム(シートレール)はボルトオンタイプ。前席下には車載工具、後席下にはフラットボックスを装備。シートヒーター付きなので、前後クッションそれぞれに電線が繋がれている。
走行中、スマホを大切に保管できる親切装備がある。ボックスの蓋はワンプッシュで開けられる。もちろんUSB電源端子もあるので充電ができる。
シート脇に12V電源が取れるアクセサリーソケットがある。DIN規格の端子で使用可能電流は5A。その左側(前方)にあるのは後席用キーロック。後方にはシートヒーターのスイッチがある。

シンプルなフィニッシュを見せるテールまわり。テールランプはもちろん、クリアレンズのウインカーもLEDランプ式。グラブバーもしっかりしている。

タンデムツーリングも快適そう。たっぷりと備えられたシートスペースが印象的。パニアケース等の搭載も考慮されている。

◼️主要諸元◼️

エンジン形式:水冷並列3気筒DOHC12バルブ


排気量:888cc


ボア・ストローク:78×61.9mm


圧縮比:11.27:1


最高出力:95.2PS(70kW)/8,750rpm


最大トルク:87Nm/7,250rpm


吸気システム:マルチポイントシーケンシャル電子燃料噴射


エグゾーストシステム:ステンレス製3 into 1ヘッダーシステム、サイドマウントステンレス製サイレンサー


駆動方式:Oリングチェーン


クラッチ:湿式多板


トランスミッション:6速


一次減速比:1,652(76/46)


二次減速比:3.125(50/16)


ギヤ比


 1速:2,615(34/13)


 2速:1,857(39/21)


 3速:1,500(36/24)


 4速:1,286(27/21)


 5速:1,107(31/28)


 6速:0,967(29/30)


フレーム:チューブラースチールフレーム、サブフレームにボルト付け


スイングアーム:両持ち式、鋳造アルミニウム合金


ホイール(前/後):キャストアロイ、19x2.5インチ/17x4.25インチ


タイヤ(前/後):100/90-19 /150/70R17


サスペンション(前/後): Marzocchi製φ45mm倒立フォーク、リバウンド&コンプレッション手動調整機能、


             / Marzocchi製リアサスペンションユニット、プリロード&リバウンド手動調整機能、


トラベル量(前/後):180 mm(低車高バージョンは140mm)/170 mm(低車高バージョンは151mm)


ブレーキ(前/後):φ320mmツインフローティングディスク、Brembo製Stylema 4ピストンモノブロック


          キャリパー。ラジアルフロントマスターシリンダー、マルチモードABS、コーナリングABS


         / φ255mmシングルディスク、Brembo製シングルピストンスライディングキャリパー、


         マルチモードABS、コーナリングABS




全幅:930mm


全高:1,410~1,460mm (除くミラー)


シート高:810〜830mm


ホイールベース:1,556mm


キャスター:24.6 º


トレール:104mm


車両重量(乾燥):222kg (198kg)


燃料タンク容量:20L

⚫️試乗後の一言!

正直、気に入りました。購入時に真っ向ライバルとなるのは、ヤマハ・TRACER 900GTだろう。かなり悩まされてしまうが、それも含めて楽しみな1台である。

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