![](https://motor-fan.jp/images/articles/10015094/big_main10015094_20200611101144000000.jpeg)
ヴィッツ改めヤリスとなったトヨタのコンパクトカー。TNGAのGA-Bプラットフォームに新世代のエンジン+ハイブリッドシステムを搭載したヤリスのHYBRIDモデルにモータリングライターの世良耕太が試乗。同一条件で測定してきた燃費で、ヤリスHYBRIDは圧倒的な数値をたたき出した。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
ヤリス・ハイブリッドの燃費の良さは驚異的だ
![](https://motor-fan.jp/images/articles/10015094/big_3236162_202006111012360000001.jpeg)
![](https://motor-fan.jp/images/articles/10015094/big_3236163_202006111016270000001.jpeg)
ともかく、ヤリス・ハイブリッドの燃費の良さは驚異的だ。東京・九段で試乗車を借り、霞が関から首都高速に乗ってそのまま東名高速を走り、厚木ICで小田原厚木道路を通ってターンパイク箱根・小田原料金所前の駐車場にクルマを止めた。スタート時点のバッテリー残量は半分ほど。首都高速では左右の車線を行ったり来たり、東名高速では主に中央車線、小田厚では主に左側車線を基本に走った。
走行距離は83.3kmで、車載燃費計が示す区間燃費は37.7km/ℓだった。わずか2.2ℓのレギュラーガソリンで箱根の近くまで来たことになる。大観山まで上がって降り、「ターンパイク入口」交差点で燃費計をリセット。ここから小田厚を厚木ICまで32km走り、燃費を確認するのがいつものパターンだ。平均車速は70km/h近くになる。
過去に計測したトヨタ・プリウスAプレミアム・ツーリングセレクション(車重1390kg)は28.0km/ ℓ、トヨタ・プリウスPHV Aプレミアム(車重1530kg)は36.0km/ ℓだった。標高1015mの大観山から降りてくるので、燃費計をリセットした時点でバッテリーはフル充電状態(下り坂の途中、バッテリーがフルになるとエンジンが始動し、回生ブレーキからエンジンブレーキに切り替わる)になる。バッテリー容量が大きいほどEV走行距離が長くなるため、区間燃費には有利に働く。同じプリウスでも、PHV(プラグインハイブリッド)のほうが燃費に優れるのはそのためだ。
![](https://motor-fan.jp/images/articles/10015094/big_3236164_202006111013180000001.jpeg)
ヤリス・ハイブリッド(試乗車はG、車重1060kg)は往路の燃費が度肝を抜く値だったので「ひょっとしたら」と予感させるものがあったが、厚木ICでメーターを確認したら、44.1km/ ℓを示していた。そんなにサンプル数があるわけではないが、プリウスPHVを抜いて歴代最高である。システムがバグっているわけでは、どうやらないらしい(少し疑いました)。
![](https://motor-fan.jp/images/articles/10015094/big_3236166_202006111017320000001.jpeg)
東名高速上りでは、3車線ある中央を基本に、ときに最も右寄りの車線を走って東京料金所に向かうのがいつものパターンだ。燃費が悪化するのもいつものパターンだが、ヤリス・ハイブリッドも例に漏れず、東京料金所で38.4km/ ℓに数字は下がった。用賀で東名高速を降り、夕方の混雑した一般道を走って都内の職場に戻ったら、燃費は好転して最終的には39.1km/ℓだった(走行距離は84.2km)。いずれにしても、なじみのある数字と違いすぎて、呆然とするばかりである。
減速によるエネルギー回生の機会が多い市街地走行を得意とするのは、トヨタのハイブリッド車の特徴だ。その特徴はWLTCモード燃費にも現れている。中間グレードのGで比較すると、1.5 ℓ 3気筒エンジンを積むヤリスGのWLTCモード燃費(燃料消費率)は21.4km/ ℓで、市街地モードは15.7km/ ℓ、郊外モードは22.6km/ ℓ、高速道路モードは24.1km/hだ。平均車速が上がるほど燃費が良くなっており、これが一般的である。
ところがヤリス・ハイブリッドGはというと、WLTCモード燃費は35.8km/ℓで、市街地モードは36.9km/ℓ、郊外モードは39.8km/ℓ、高速道路モードは33.5 km/ℓとなっている。減速時のエネルギー回生の機会がほとんどない高速道路モードの数値が極端に悪くなっている(といっても、ゆうに30km/ℓオーバーだ)。モード燃費で40km/ℓに近い(ハイブリッドXの郊外モード燃費は40.2km/ℓである)のだから、条件さえそろえばリアルな走りで40km/ℓ台に乗ってもおかしくない。そしてそれを実際に経験し、とてつもなく大きな衝撃を受けた。必殺の一撃を食らった気分である。
![](https://motor-fan.jp/images/articles/10015094/big_3236169_202006111018590000001.jpeg)
翌日、外気温が34℃を示す炎天下、まずまず混雑した道路をエアコンをガンガンに効かせながら神宮外苑まで向かい、往復21.6kmを走った際の燃費は26.3km/ℓだった。ヤリス・ハイブリッドは燃費の破壊力がすごすぎて、それ以外のことはほとんどどうでもいい気分になるのだが、それ以外のこともよく出来ているので始末に負えない。
ヤリス・ハイブリッドは燃費が良いだけで他に取り柄のないクルマでは決してない。走りに瞬発力があるのでストレスがないし、なにより気持ちいい。街なかだけではなく、高速道路でもそうだ。信号が青になった瞬間のダッシュ力にキレがあるし、高速道路で追い越しを仕掛ける際も頼もしい加速力を披露してくれる。モーターらしいレスポンスの良さと、伸びのある力強さが存分に感じられる仕立てになっている。
![](https://motor-fan.jp/images/articles/10015094/big_3236172_202006111019490000001.jpeg)
エンジンもハイブリッドパワートレーンも新開発だ。先代にあたるヴィッツ・ハイブリッドは1NZ-FXE型の1.3ℓ直4自然吸気(NA)エンジンをベースにハイブリッド化していた。新型ヤリス・ハイブリッドは、新開発のM15A-FXE型、1.5ℓ直3NAエンジンを搭載する。RAV4などが搭載する2.0ℓ4気筒版のM20A系と同じファミリーに属し、強タンブルによる高速燃焼によって熱効率を高めるコンセプトだ。
ヤリス・ハイブリッドの1.5ℓ3気筒エンジンは、2.0ℓ4気筒のM20A系から1気筒切り落としただけでない。最新のエンジンだけあって、それこそ枚挙に暇がないほどの新技術が投入されている。排気量が小さいほどフリクションが損失全体に占める割合が大きくなるので、この点に力を入れて開発した。フリクション低減技術は17にもおよび、オイルリングもそのひとつだ。張力低減によってフリクションロスを30%低減したという。
ヤリスにはハイブリッドではない、1.5ℓ3気筒エンジンだけを搭載したモデルも存在する。このコンベンショナルな1.5ℓ車用のM15A-FKSと、ハイブリッド向けのM15A-FXEでは、それぞれ使い方に応じた専用の技術が投入されている。例えば、ハイブリッド車はエンジン始動と停止を繰り返すため、オイルが暖まりにくい状況が出てくる。そのため、低温域のフリクション低減が効果的で、コンベ版の0W-16に対し、0W-8オイルを開発し、採用した。この低粘度オイルの採用により、WLTCモードで0.2%の燃費向上効果があったという。
ハイブリッドトランスアクスルは、現行プリウスから採用した新しい構造をベースに新技術を入れ、「ドライビングパフォーマンス向上のため」小型化と高出力化の両立を図った。エンジンはヴィッツ・ハイブリッドに対して出力(54kW→68kW)、トルク(111Nm→120Nm)が向上。駆動用モーターの出力も向上(49kW→59kW)させている。
![](https://motor-fan.jp/images/articles/10015094/big_3236174_202006111020230000001.jpeg)
トヨタの発表によれば、エンジンとモーターの出力向上により、0-100km/h加速は旧システム搭載車に対して15%、80-120km/hの追い越し加速は25%向上したという。今回の試乗で体感した気持ちいいフィーリングを裏付けるデータだ。電池はニッケル水素からリチウムイオン電池になってパワー密度が向上し、エネルギーの出し入れがしやすくなってレスポンスが向上。以前よりエンジンに頼る必要がなくなったため、アクセルペダルを踏んだ直後のエンジン回転を抑えることが可能になった。加速要求が続くと、車速の上昇にともなってエンジン回転数を上昇させる制御になっている。
ヤリス・ハイブリッドは決して静かなクルマではないが、エンジンや、モーターなど電動系機器のノイズは上手に遮音されており、耳に届いたとしても気にならないレベルに抑えられている。通常はモーターで発進し、加速要求やバッテリー残量などの条件から低〜中速域でエンジンが始動するが、音の面でも振動の面でも極めてスムーズで、意識してエンジンの存在を嗅ぎ取ろうとしないかぎり、気になることはない。
つまり、エンジンが邪魔ではないのだ。電動ユニットが持つレスポンスの良さと、高出力化したユニットが持つ力強さだけが際立ったハイブリッドシステムになっている。ヤリス・ハイブリッドは、どんなシーンでも気持ち良く走れて、猛烈に燃費がいいハイブリッド車だ。定評があった燃費の良さに走りの気持ち良さが加わったのだから、(小さいけれども)鬼に金棒である。
![](https://motor-fan.jp/images/articles/10015094/big_3236176_202006111020550000001.jpeg)
トヨタ・ヤリス HYBRID G
全長×全幅×全高:3940mm×1695mm×1500mm
ホイールベース:2550mm
車重:1050kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン形式:直列3気筒DOHC+THSⅡ
エンジン型式:M15A-FXE
排気量:1490cc
ボア×ストローク:80.5mm×97.6mm
圧縮比:(未発表)
最高出力:91ps(67kW)/5500rpm
最大トルク:120Nm/3800-4800rpm
過給機:×
燃料供給:PFI
使用燃料:レギュラー
フロントモーター:1NM型交流同期モーター
最高出力:80ps(59kW)
最大トルク:141Nm
リヤモーター:1MM型交流誘導モーター
最高出力:5.3ps(3.9kW)
最大トルク:52Nm
バッテリー:リチウムイオン電池(容量4.3Ah)
燃料タンク容量:36ℓ
WLTCモード燃費:35.8km/ℓ
市街地モード36.9km/ℓ
郊外モード39.8km/ℓ
高速道路モード33.5km/ℓ
車両価格○213万円(試乗車はオプション込みで289万5600円)