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個性的なエンジンレイアウトはメリット満載!


2017年6月にデビューしたBMWのG310Rは、ビッグバイクが主流だった中のミドルバイク、さらにリーズナブルな車体価格ということで話題を集めた。BMWらしい高級感と機能性を兼ね備え、ユーザー満足度も抜群の同社が製作した世界戦略車をたっぷり試乗しました!




REPORT●川越 憲(KAWAGOE Ken)


PHOTO&EDIT●佐藤恭央(SATO Yasuo)

BMW・G310R……623,000 円〜

ネイキッド・スポーツを体現した先鋭的なフォルムが特徴! 試乗車は2019モデルで、2020モデルは、「レーシング・レッド」、「コスミック・ブラック2」、「パール・ホワイト・メタリック(+6,000円)」の3カラーをラインナップ。

 2015年末のイタリア・ミラノショーでG310Rが発表された時は「おもしろいバイクがリリースされたなぁ!」とワクワクしたものだ。BMWのスーパーネイキッドモデル、S1000Rをイメージさせる車体に313ccのエンジンを積んだパッケージは、排気量こそ少ないがクラスを超えたスパルタンな走りを連想させたからだ。その後、日本での販売価格が約60万円とアナウンスされてから、ライダーの注目度がさらに上がったこともひしひしと感じられた。


 このG310Rにはプラットフォームを共通とする兄弟車のG310GSも存在する。これらの開発と品質管理はドイツ本社だが、生産はインドのTVSモーターカンパニー社が行っている。要するにBMWの世界戦略車だ。小排気量車で実績のあるアジアの企業で生産を行い、販売は欧州だけでなく、アジアや南米まで販売網を広げている。コストダウンが見込め、技術的にもBMWブランドのクオリティを維持できるアジア企業での生産は必須条件だったのだ。この流れは国内メーカーも同様で、こういった小中排気量車がどんどん増えてくることだろう。

 さて、次はG310Rの車体構成について。水冷313cc単気筒エンジンにスチールパイプフレームと聞いただけでは普通のミドルサイズバイクを思い描きがちだが、エンジンは通常の吸排気レイアウトを逆にして前方吸気・後方排気とし、シリンダーヘッドは後方へ傾斜させている。さらに、フロントには倒立フォークを採用するとなると、「一体どんな車体で、どんな乗り味なんだ!?」と興味を持たざるをえない。


 この独特なエンジンレイアウトの狙いは、エンジンをなるべく前方に配置してスイングアームを長く設計すること。エンジン前と下にパイプのないチューブラースチールフレームにマウントし、1380mmのホイールベースに対して約650㎜のロングスイングアームを採用することで直視安定性や旋回性などの整合性を取っている。


 これに伴い、シリンダーヘッドを傾けることで重心を下げ、前後荷重なども整えて重量マスを適正化させている。他にも、吸気効率の向上、エアボックスのコンパクト化などのメリットも多数あり! 足周りも、倒立フォークやラジアルマウントキャリパー、アルミ製スイングアームといった、豪華な装備が奢られているのも注目点だ。

 実車に触れてみると車体重量が159kgもあるわりに、取り回しが軽快♪ 低重心で重量バランスがよく、ハンドル位置が高めでしっかりとホールドできることがそう感じさせるのだろう。またがってみると、ゆったりとしたライディングポジションで足着き性も良好だ! 


 早速、セルを回して始動する。エンジン音は歯切れよく整音され、クラッチも軽い。ただ、発進時の極低回転でのトルクの薄さが気になった。3000rpm以上からでないとキビキビした走りができないのだ。これは後方排気でエキゾーストパイプの管長が短いことが影響していると思う。エキパイが短いから必然的に容積を稼ぐ必要があり、このクラスとしてはビッグなサイレンサーを採用して内部構造で低回転域のトルクを補うような工夫がされているはずではあるものの、パンチ力はやや足りない印象だ。まぁ、この乗り味に慣れれば、クラッチとアクセルワークで自然な走りができるレベルなので問題ないだろう。




 その反面、単気筒エンジンとは思えないほど高回転域までスムーズに回る特性が見どころだ。これは、さすがDOHCエンジンといったところか。実用域は4000rpmから上で、7000rpmからレブリミッター効く1万rpm付近まで一気に駆け上がる伸び感が非常に気持ちいい! 街中からちょっとしたツーリングまで気軽に使える性能と、所有欲を満たす車体の質感は、BMW入門車として申し分ない。

 ストリートでの使い勝手は問題ないけれど、スポーツライディングを楽しむにはちょっとしたコツがいる。コーナリングでの倒し込みは軽快なのだが、ハンドル位置が高いため普通に乗っているだけではフロントに荷重がかけにくい。フロントサスペンション自体は柔らかめなのだが、前に荷重をかけてコーナリングするという今風のライディングには合わないのだ。ノーマルのセッティングでは、コーナリング手前でしっかり速度を落とし、コーナリング中はリヤに荷重をかけて曲がる一昔前の乗り方がしっくりくる。せっかく倒立フォークにグリップの良いラジアルタイヤが装着されているのだから、ハングオフのようなフロント重視のコーナリングをしたい、というライダーも多いだろう。その場合は、フロントサスの油面を上げたり、バネレートの変更などで硬めに、逆にリヤサスは硬めなので柔らかめにセットすると良いだろう。前後サスの変更で、ダイレクト感のあるラジアルマウントのブレーキも更に生きてくるはずだ。あと、ハンドル位置を下げるのも忘れずに! 


 リヤサスはタンデムを想定して硬めにしている可能性もあり、乗り心地重視ならこのままの設定でもいいのだが、やはりリヤサスはイニシャルを弱くするなど柔らかくしたほうが、長めのスイングアームの乗り心地の良さをもっと感じられると思う。


 総合的には価格以上に所有欲を満たしてくれるし、走行性能も高い。あれこれイジってみたくなる気軽さも含めて、免許取り立てのビギナーから、サーキットに繰り出すようなエキスパートライダーまで楽しめるモデルであることは間違いない!

●足つきチェック(ライダー身長182cm)





シート高は785mmと国産400ccとそう変わらない。シート後方に座っても、身長182cmの筆者なら両足がべったりと着く。ハンドルは少し幅広だが高さも無理はなく、平均的な日本人体型ならしっくりくるはず。見た目はコンパクトだが、ポジションは大柄なライダーが乗っても窮屈な印象はない。

●ディテール解説

313cc水冷単気筒DOHCエンジンは、最高出力を9500rpmで発揮する、単気筒としては高回転型だ。最高出力は、欧州の免許制度(免許取得2年までは最高出力25kw以下のみ)を考慮して25kw(34ps)に抑えられている。前方吸気、後方排気のレイアウトと、シリンダーが後方に傾斜した独特の形式は、重量バランスを追求したもの。

シリンダーヘッド後方から飛び出したエキパイは、大きく下がって車体右から飛び出すレイアウト。後方排気にありがちな管長を稼ぐ複雑な構造ではなく、シンプルな形状だ。その分、サイレンサーは313ccの単気筒としては大きめ。また、タンデムライドを考慮して大き目のヒートガードも装備する。

フロントブレーキはφ300mmシングルブレーキディスクと、ラジアルマウントされた4ポットキャリパーの組み合わせ。ゴールドアルマイト加工されたキャリパーは、ブレンボグループのブランドであるBYBRE(バイブレ)製。スポークの形状が個性的な前後ホイールは、アルミ製のキャストタイプを履く。

φ41mmの倒立サスペンションは、アウターにゴールドアルマイト加工を施し、プレミアム度を高めている。

ホワイトスプリングが存在感を示すモノショックサスペンションは油圧式のプリロード調整機構付き。リンクレスだからダイレクト感が高い。また、タンデムライドも重視しているのか、スプリングは車格よりハード気味に感じられた。

リヤ側はφ240㎜フローティングディスクをチョイス。ブラックで引き締まった印象を与えるスイングアームはアルミ鋳造だ。

BMWといえばシャフトドライブのイメージが強いが、G310Rは一般的なチェーン駆動式。チェーンを左側、マフラーは右側に配置するオーソドックスなレイアウトは、コストダウンだけでなくメンテナンスがしやすく、世界戦略車としての役割を果たしている。

広めのバーハンドルによりミラー位置も左右に張り出しているので後方確認がしやすく、街中から高速道路まで安心感が高い。メーター&バイザーともに小振りなので、コクピット周りはスッキリしている。

フルデジタルメーターは、速度計、回転計、時計、燃料計に加えギアポジションも表示される。また、オド&トリップメーターのほかに瞬間と平均燃費も切り替え表示が可能。

ABS以外の電子制御は搭載されていないので、スイッチボックスは左右ともシンプル。ホーンスイッチも大きくて扱いやすい。

異形一灯式のヘッドライトはハロゲンバルブを採用。デザインはストリートファイター風で威圧感がある。ウインカーはクリアレンズを採用した電球式。
LED採用のテールランプは車体テールエンド部ではなく、近年のスポーツバイクの主流である細めのナンバープレートホルダーに装備されている。


ライダー、パッセンジャー側が一体となったシートはクッション性が高く、座面も広めで座り心地は抜群! パッセンジャー側のグラブバーは、このクラスでは最高峰と言えるほどしっかりとした作りだ。シート高は785mmだが、オプションで770㎜のローシート、880mmのハイシートも用意。

一体式シートの下にETC2.0車載器を標準装備。小物を入れるスペースはほとんどないが、電装系などのメンテナンスがしやすい。
ステップはレバーもステップホルダーもシンプルなデザイン。大柄なライダーでも窮屈さを感じさせない位置設定は好印象。


■主要諸元■

■車体寸法・重量


全長:2,000 mm


全幅(ミラーを除く):820 mm


全高(ミラーを除く):1,070 mm


シート高:785 mm


インナーレッグ曲線:1,760 mm


車両重量:159 kg


燃料タンク容量:11 L(リザーブ約1L)




■エンジン


エンジン型式: 4ストロークDOHC水冷単気筒4バルブ


ボア×ストローク: 80 mm x 62.1 mm


排気量: 313 cc


最高出力: 25 kW(34PS)/ 9,500 rpm


最大トルク: 28 Nm / 7,500 rpm


圧縮比: 10.6 : 1


点火/噴射制御: 電子制御エンジンマネージメントシステム(BMS-E2)


エミッション制御: 三元触媒コンバータ、排ガス基準EU4をクリア


燃料消費率(WMTCモード値クラス3 ※1名乗車時): 30.3 km/L


燃料種類: 無鉛レギュラーガソリン




■電装係


オルタネータ: 330 W


バッテリー: 12V / 8Ah(メンテナンスフリー)




■パワートランスミッション


クラッチ: 湿式多板


ミッション: 6速


駆動方式: チェーン式




■車体・サスペンション


フレーム: チューブラーフレーム


フロントサスペンション: 倒立式フォーク(41 mm径)


リヤサスペンション:センタースプリングストラット、プリロード油圧調整式


サスペンサスペンションストローク(フロント/リヤ): 140 mm/131 mm


軸間距離: 1,380 mm


キャスター: 103 mm


ステアリングヘッド角度: 64.9°


ホイール:アルミキャストホイール


ホイールサイズ:


 フロント:3.0 - 17"


 リヤ: 4.0 - 17"


タイヤサイズ:


 フロント: 110 / 70 R17


 リヤ: 150 / 60 R17


ブレーキ:


 フロント: シングルブレーキディスク(300 mm)、4ピストンブレーキキャリパー


 リヤ: シングルブレーキディスク(240 mm)、シングルピストン フローティングキャリパー


ABS: BMW Motorrad ABS
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