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【海外技術情報】VWのEVが採用する2段1速ギアはオールラウンダー


EVの電費向上を目的として、多くの多段化を模索する動きが増えている。そんななかVWは、2020年半ばにも欧州で初場予定のID.3に、2段1速ギアを採用するという。この2段1速ギアとは、どのようなものなのだろうか? VWが2月に発表したプレスリリース「In brief: The all-rounder – the 1-speed gearbox」を要約して、お伝えしよう。


TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro) PHOTO/FIGURE:VOLKSWAGEN

ご存知の通りID.3の量産版は、2021年から発売が開始される予定である。それに先駆けて3万台限定で発売されるのがID.3 1st。バッテリー容量は58kWh。1充電あたりの航続距離は420km(WLTPモード)である。

 フォルクスワーゲンのID.3は、静かに、しかしフルパワーで、eモビリティの新時代の扉を開ける。電気駆動システムの典型的な特性が、動力の伝達方法に変革をもたらす。




 ID.3が搭載するAPP310型ユニットは非常にパワフルでコンパクト。シングルスピードで、あらゆる運転状況に対応する。当然、使用されているメカニズムは、最小限の歯車である。この1速ギアボックスは、モジュラー電気駆動マトリックス(MEB)の電気駆動システムの一部で、カッセル工場で製造される。しかし、なぜ駆動モーターにはシングルスピードで十分なのだろうか?




 駆動力と自動車の速度は、その駆動システムの回転速度に依存する。駆動システムの回転速度が上がれば、ホイールに伝達される力(トルク)が変化する。内燃機関を搭載した車両であれば、トルクはエンジン回転数とともに増加してその後再び低下する。ところが電気駆動システムでは、最大トルクをすぐに利用でき、それは幅広い速度で一定である。そのため、必要な速度または必要なトルクを達成するために、マルチスピードギアボックスが必ずしも必要ではないと言える。

 そのためID.3では「2段1速」ギアボックスを使用している。ID.3が発生する150kWの最大出力を得るには、電気駆動ユニットが高速で回転する必要がある。高レベルのトルクを提供するための減速比は10倍。そのうえでスペース効率を高めるために、ギアボックスは1つの大きな歯車ではなく、2つの小さな歯車を備えた2段設計になっている。その結果、ID.3の電気モーターは、幅広い速度範囲で常に最大トルク310Nmを発生できることになった。最高速度160km/hに達したときの回転は16000rpmであり、この範囲においてあらゆる運転状況に完璧に対応する。




 電気駆動システムは非常に静かであるため、かえって電気自動車の騒音レベルが非常に重要となっている。ほんの小さな音の発生源でさえ、聞こえるようになったためだ。そこで2段1速ギアボックスの部品は、ノイズを発生させないように、極めて高精度に製造する必要が出てきている。生産ラインの最後には、電気駆動システムの出力特性だけでなく、関連するノイズ値もチェックされる。


 MEBに基づくヨーロッパおよび北米向けのeビークルのすべての駆動システムは、2段1速ギアボックスを含めて、カッセル工場で製造されている。その他の重要な部品は、ザルツギッター、ポズナン、ハノーファーの各工場で生産されている。

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