2020年1月の東京オートサロンで発表されたトヨタGRヤリス。コンパクトなボディに強力な1.6ℓ直3ターボ、そして最新のAWDシステムを組み込んだホットハッチの登場で、にわかに活気づくこのカテゴリー。450-490万円で手に入れられるホットモデル、ホンダ・シビックタイプR、VWゴルフGTIパフォーマンス、ルノー・メガーヌR.S.トロフィーの4モデルをさまざまな観点から比較してみた。
400万円台後半で買えるHottest Model4
トヨタが久しぶりにリリースするAWDスポーツモデルがGRヤリス。バックボーンにあるのはサーキットではなくWRCである。GRヤリスにはモータースポーツをルーツに持つスポーツモデルらしい魅力に溢れている。価格はRZ First Editionが396万円、RZ High-performance・First Editionが456万円だ。ここでは、前後にトルセンデフを組み込んだRZ High-performance・First Editionを取り上げて、ライバルと比較していこう。
ライバルの基準は、日本で購入できること、価格が450〜499万円、生粋のスポーツモデルであること、とした。
エントリーしたのは、
トヨタGRヤリスRZ High-performance・First Edition:456万円
ホンダ・シビックタイプR:458万3000円
VWゴルフGTIパフォーマンス:478万9000円
ルノー・メガーヌR.S.トロフィー:489万円(6MT)
である。
まずは、サイズ比較から
今回取り上げた4モデルは、どれも比較的コンパクトだが、ラリーのベース車両となるGRヤリスが3ドアハッチバックで全長4m切り(3995mm)でもっとも小さい。スポーツモデルらしいワイドトレッド、低扁平なタイヤを納めるために全幅は全車1800mm超えだ。
並べるとこうなる。
最小のGRヤリス(3995mm)と最大のシビックタイプR(4560mm)の差は565mmとかなり大きい。ホイールベースも最短のGRヤリス(2558mm)最長のシビックタイプR(2700mm)の間にゴルフGTIとメガーヌR.S.が入る。
では、個別にサイズを見ていこう。
RZ High-performance・First Edition
全長×全幅×全高:3995×1805×1460mm ホイールベース:2558mm
トレッド:F1530mm/R1560mm
サスペンション:Fマクファーソンストラット/Rダブルウィッシュボーン
車重:1280kg
駆動方式:フルタイムAWD
ゴルフGTI パフォーマンス
全長×全幅×全高:4275×1800×1470mm ホイールベース:2635mm
トレッド:F1530mm/R1505mm
サスペンション:Fマクファーソンストラット/R4リンク
車重:1430kg
駆動方式:FF
ルノー・メガーヌR.S.(ルノースポール)トロフィー
全長×全幅×全高:4410×1875×1435mm ホイールベース:2670mm
トレッド:F1620mm/R1600mm
サスペンション:Fマクファーソンストラット/Rトーションビーム
車重:1450kg
駆動方式:FF
ホンダ・シビックタイプR
全長×全幅×全高:4560×1875×1435mm ホイールベース:2700mm
トレッド:F1600mm/R1595mm
サスペンション:Fストラット/Rマルチリンク
車重:1390kg
駆動方式:FF
サイズに関しては勝負がつくわけではないが、小さい順にGRヤリス→ゴルフGTI→メガーヌR.S.→シビックタイプRという順になる。
ちなみに乗車定員は
GRヤリス:4名
シビックタイプR:4名
ゴルフGTIパフォーマンス:5名
メガーヌR.S.:5名
となっている。
まずはエンジンのスペックを確認。
エンジンはGRヤリスが直列3気筒、ほかはすべて直列4気筒で直噴ターボとなっている(GRヤリスのみPFIも併用する)。
では、高出力順に紹介しよう。
320ps|シビック タイプR:K20C型2.0ℓ直列4気筒ターボ
シビック タイプR:K20C型2.0ℓ直列4気筒ターボ
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
エンジン型式:K20C
排気量:1995cc
ボア×ストローク:86.0mm×85.9mm
圧縮比:9.8
燃料供給:DI(筒内燃料直接噴射)
バルブ駆動方式:ロッカーアーム
最高出力:320ps/6500rpm
最大トルク:400Nm/2500-4500rpm
300ps|ルノー・メガーヌR.S.トロフィー M5P型1.8ℓ直列4気筒ターボ
ルノー・メガーヌR.S.トロフィー
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
エンジン型式:M5P
排気量:1798cc
ボア×ストローク:79.7mm×90.1mm
圧縮比:8.9
燃料供給:DI(筒内燃料直接噴射)
バルブ駆動方式:ダイレクト
最高出力:300ps/6000rpm
最大トルク:400Nm/3200rpm
272ps|トヨタGRヤリス:G16E-GTS型1.6ℓ直列3気筒ターボ
エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ
エンジン型式:G16E-GTS
排気量:1618cc
ボア×ストローク:87.5mm×89.7mm
圧縮比:10.5
燃料供給:D-4S(PFIポート噴射+DI筒内燃料直接噴射)
バルブ駆動方式:ロッカーアーム
最高出力:272ps(DIN表示で261hp)
最大トルク:370Nm
245ps|VWゴルフGTIパフォーマンス EA888型2.0ℓ直列4気筒ターボ
VWゴルフGTIパフォーマンス EA888型2.0ℓ直列4気筒ターボ
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
エンジン型式:EA888
排気量:1984cc
ボア×ストローク:82.5mm×92.8mm
圧縮比:9.6
燃料供給:DI(筒内燃料直接噴射)
バルブ駆動方式:ロッカーアーム
最高出力:245ps/5000-6700rpm
最大トルク:370Nm/1600-4300rpm
燃料は、全モデルとも無鉛プレミアム。圧縮比ではGRヤリスのG16E-GTS型のみが10.0以上の10.5である。燃料供給も現代のエンジンらしくすべて筒内燃料直接噴射(DI)である。G16E-GTS型のみPFIを併用するトヨタ得意のD-4Sを使う。
S/B比(ストローク/ボア比)は
K20C型:1.00
M5P型:1.13
G16E-GTS型:1.03
EA888型:1.12
となっている。トヨタ、ホンダはほぼスクエア、VWとルノーは現代のエンジンらしくロングストロークだ。
バルブ駆動はメガーヌR.S.のM5P型のみがダイレクト。
パワーウェイトレシオは?
車重を最高出力で割った数字=パワーウェイトレシオ(Weight -to-power ratio)は、もちろん軽いボディに強力なエンジンを積んだモデルが小さくなる。4モデルを比較してみると
1位:シビックタイプR 4.344kg/ps
2位:GRヤリス 4.706kg/ps
3位:メガーヌR.S.トロフィー4.833kg/ps
4位:ゴルフGTIパフォーマンス 5.837kg/ps
となった。
トルクウェイトレシオは?
今度は車重を最大トルクで割った数字=トルクウェイトレシオを比べてみよう。
1位:GRヤリス 3.459kg/Nm
2位:シビックタイプR 3.475kg/Nm
3位:メガーヌR.S.トロフィー3.625kg/Nm
4位:ゴルフGTIパフォーマンス 3.865kg/Nm
今度はGRヤリスとシビックタイプRが入れ替わった。
BMEPは?
BMEPとはピストンを上死点から下死点までどれだけの圧力で押したかを図る指標で、排気量に依らずシリンダー内の圧力を平均的に示した数字。これによれば、さまざまなエンジンを同一指標で比較することが可能だ。算出方法は以下のとおり。
BMEP=最大トルクNm ÷ 排気量cc × 4π(パイ:円周率) × 10
これで計算するとこうなる
1位:GRヤリス 28.7bar
2位:メガーヌR.S.トロフィー 27.9bar
3位:シビックタイプR 25.2bar
4位:ゴルフGTIパフォーマンス 23.4bar
BMEPはガソリンNAで10-13bar程度、ガソリンターボで18-24bar程度、ディーゼルターボで18から30barを超えるものまである。今回の4モデルはいずれも非常に高い性能を持っているといえる。
リッターあたりの出力は?
かつてよく「リッター当たり何馬力か」という表現が使われた。これでいくと、今回の4モデルのエンジンはこうなる。
1位:GRヤリス G16E-GTS型:168.1ps/ℓ
2位:メガーヌR.S. M5P型:166.9ps/ℓ
3位:シビックタイプR K20C型:160.4ps/ℓ
4位:ゴルフGTIパフォーマンス EA888型:123.5ps/ℓ
リッターあたり100psなど当たり前。1位のGRヤリスのエンジンを2.0ℓに当てはめたら336psとなる計算だ。
コストパフォーマンスの話をする前に、シャシーを見てみよう。
GRヤリスRZ High-performance・First Edition
ホンダ・シビックタイプR
ルノー・メガーヌR.S.トロフィー
ゴルフGTIパフォーマンス
ゴルフGTIパフォーマンスには、フロントにハルデックスの電子制御油圧式LSDが採用されている。これはノーマルのGTIにはない「走りのための機能部品」だ。フロント左右輪のトルク配分をホイールの回転数や車速などの状況に応じて0-100%の範囲で制御する。
コストパフォーマンスは?
コストパフォーマンスを示す指標はなかなか難しい。今回の4モデルは性能を考えればどれも「格安」。
ここでは、1psがいくらになるか? という指標で見てみることにする。いわばパワーコストレシオである。
1位:シビックタイプR 1万4322円
2位:メガーヌR.S.トロフィー 1万6300円
3位:GRヤリスRZ High-performance・First Edition 1万6765円
4位:ゴルフGTIパフォーマンス 1万9547円
という結果になった。
450~499万円という400万円台後半といえば、買いやすい、というと語弊があるが、決して手が届かない夢のクルマというわけでもない。どのモデルも非常に個性的。さまざまな数字で比べてきたが、じつはあまり競合しない? のかもしれない。
今回はあえて「燃費」という項目は設けなかった。400万円台後半で、これだけ「熱い」モデルがあるということがうれしいではないか。