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F1界最高最重要 稀代の 天才デザイナー 、エイドリアン・ニューウェイが自らの仕事について語り尽くした『エイドリアン・ニューウェイ HOW TO BUILD A CAR』


エイドリアン・ニューウェイが『HOW TO BUILD A CAR』と題した自伝的内容の書籍を出版したのは、2017年のことだ。『エイドリアン・ニューウェイ HOW TO BUILD A CAR 空力とレーシングカー スピードを追いかける』はその日本語版で、発売日は20年4月28日である。650ページ超の大作だ。監修を担当した世良耕太氏が、エイドリアン・ニューウェイの凄さ、本書の読みどころを解説する。




TEXT◎世良耕太(SERA Kota)PHOTO◎RedBull

1988年鈴鹿・日本GP セナプロ決戦のレースでイヴァン・カペリが駆ったマーチ881

『エイドリアン ・ ニューウェイ HOW TO BUILD A CAR - F1 デザイン -』

 ニューウェイは当代一流のレーシングカーデザイナーである。彼が設計に関与したF1マシンのうちタイトル(コンストラクターズ、ドライバーズの両方、あるいはどちらか一方)を獲得したのは、ウイリアムズFW14B(92年)、FW15C(93年)、FW18(96年)、FW19(97年)、マクラーレンMP4-13(98年)、MP4-14(99年)、レッドブルRB6(10年)、RB7(11年)、RB8(12年)、RB9(13年)である。最新作は、ホンダのパワーユニットを搭載する20年のレッドブルRB16だ。F1マシンの設計を始めたのは87年だから、30年以上に渡って第一線で活躍していることになる。




 88年のマーチ881はニューウェイにとってのF1第一作であり、同時に出世作となった。88年はアイルトン・セナとアラン・プロストを擁したマクラーレン・ホンダが16戦15勝を挙げ、シーズンを席巻した年として記憶している人も多いだろう。鈴鹿サーキットで行なわれた第15戦日本GPは、セナとプロストによるタイトル決戦となった。




 ポールポジションを獲得したセナがスタートで失敗して中団に順位を落としたものの、急速に追い上げてレース中盤には先頭のプロストを抜き、優勝。劇的なレース展開で初のドライバーズチャンピオンになった。その陰で、ニューウェイの処女作は光る走りを見せた。セナがプロストを追い抜く前、マーチ881を駆るイヴァン・カペリは最終シケインの出口でプロストの背後にぴたりとつけると、スタート/フィニッシュラインの手前でプロストの前に出たのだ。



左が本書の著者、稀代の天才F1カーデザイナー、エイドリアン・ニューウェイ(中央はセバスチャン・ベッテル)PHOTO◎RedBull

「F1で自然吸気エンジンの車がリードを奪うのは1983年以来のことだった」と、本書には記述がある。カペリはラップリーダーに記録されたが、メインストレートが終わらないうちにプロストが再びカペリの前に出た。だから、実際にカペリがレースをリードしたのはほんの一瞬だった。しかも、その後突然ストップし、表彰台の頂点はおろか、上位フィニッシュのチャンスすら逃した。




 本書には「可能性」のかたちで、カペリが突然止まった理由が記してある。「往々にしてあること」とニューウェイは記しているが、優勝のチャンスがあっただけに、なかなかショッキングな理由だ。しかしリタイアの理由にも増して興味深いのは、ニューウェイがいかにして、非力な自然吸気エンジン搭載車で、強力なターボエンジン搭載車を打ち負かすマシンを考えたかである。彼の論理的、かつ、当時の誰も考えつかなかったアイデアは、本書でご確認いただきたい。

ニューウェイが最初に取り入れたアイデアはF1界のトレンドになり、そして一般化していく

09年のレッドブルRB5 PHOTO◎RedBull

PHOTO◎RedBull
PHOTO◎RedBull


09年のレッドブルRB5 PHOTO◎RedBull

 誰も気づかないことにいち早く気づき、自ら設計したマシンに取り入れ、スピードに転化する。ニューウェイが最初に取り入れたアイデアはやがてF1界のトレンドになり、一般化していく。その繰り返しが30年以上続いている。09年のレッドブルRB5もニューウェイらしさを象徴する1台だ。リヤサスペンションはそれまで長い間プッシュロッド式が一般的だったが、ニューウェイはタイヤの内側を通り抜ける空気の邪魔になるからと、プルロッド式を採用。この方式の利点に気づいた他チームが相次いで追随し、20年の現在でもリヤサスペンションの標準になっている。ニューウェイ自筆の解説図も本書の魅力で、多数収録されている。

ニューウェイが設計した2010年のレッドブルRB6 PHOTO◎RedBull

レッドブルRB6は、のちにFRICと呼ばれることになるサスペンション機構を搭載していた PHOTO◎RedBull
その開発の内容が本書に詳しく記されている PHOTO◎RedBull


 FRIC(フリック)と呼ぶ前後連結・連携サスペンションが話題になったのは、11年から13年にかけてのことだった。筆者は13年に書いた記事に「メルセデスが搭載しているとされるFRICが注目を集めている」と書いている。




 実は、ニューウェイが設計した10年のレッドブルRB6は、のちにFRICと呼ばれることになるサスペンション機構を搭載していた(レッドブル内では別の名称で呼ばれていた。どう呼ばれていたかは、本書で確認されたい)。メルセデスにばかり注目が集まっていたので、当時のニューウェイはしめしめと思っていたことだろう。RB6は前後のヒーブ(左右同相の動き)を制御するダンパーをつなぎ、例えばリヤが10mm沈むごとにフロントが3mm伸びるような仕組みを成立させていたのだ。




 その開発の内容が本書に詳しく記されている。○○システムと呼ばれていたレッドブル版FRICの狙いは、静止状態での車高を低くし、車両全体の空力効率を高めるためだ。レッドブルが一歩先を行ったシステムを搭載していることを他チームが知らないために、この年の日本GPでは、「レッドブルはフロントウイングに違法なことをしているに違いない」と疑いの目を向けられ、車検で厳しいチェックを受けることになった……。




『エイドリアン・ニューウェイ HOW TO BUILD A CAR 空力とレーシングカー スピードを追いかける』は、こうした裏話も満載だ(そして、マシン設計とは関係のないバカげた失敗談も)。ぜひ手に取ってお楽しみいただきたい。

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