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現場で感染・汚染しない自衛隊の防護装備と予防術:陸上自衛隊「化学防護車」「NBC偵察車」自衛隊新戦力図鑑11


日本を守る陸・海・空自衛隊には、テクノロジーの粋を集めた最新兵器が配備されている。普段はなかなかじっくり見る機会がない最新兵器たち。本連載では、ここでは、そのなかからいくつかを紹介しよう。今回は、新型コロナウイルスのクルーズ船の現場で「感染者ゼロ」だった自衛隊の防護装備と予防術にフォーカスする。陸上自衛隊の「化学防護車」「NBC偵察車」だ。


TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

 新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言下にある現在、不安な生活のなかで光明となるのが自衛隊の活動だ。集団感染が発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での対応活動へ出動した自衛隊は、他省庁や諸機関職員等に感染者が発生する状況下で、隊員から感染者を出さなかった。これは防護装備とその運用、予防術などの違いだと考えられる。そもそも自衛隊の防護装備にはどんなものがあるのか、その一例を紹介したい。

化防車の後部に装備されたマニピュレータ。関節の多い自由度の高いもの。先端にあるハンド部分は、空き缶を潰さず掴めるほど微妙な力加減で操作ができる。ハンド部の横には車内へ大気を引き込む細いチューブも装着。これでガスの毒性分析を車外に出ることなく行なえる。

 陸上自衛隊の職種のひとつに「化学科」がある。化学科の任務は、いわゆる毒ガスなど有毒化学物質や放射性物質などを使った特殊兵器に対して、物質そのものを検知すること。そして、特殊兵器が使われた地域の汚染状況を把握するために調査活動を行なうこと。また、汚染された人員や装備、兵器などの洗浄(除染)を行なうスペシャリスト集団だ。




 化学科は汚染地域の調査活動等に使用する「化学防護車」や「NBC偵察車」などの防護装備を保有運用する。過去には1995年(平成7)の地下鉄サリン事件で除染作業などに出動した。1999年の東海村JCO臨界事故での対応活動では、装備の放射線防護の不備がわかり、化学防護車など各種装備が改良されることとなった。また、東日本大震災での福島第一原発事故にも対応している。




 化学防護車は1987年に制式化された装輪(タイヤ式)装甲車で、82式指揮通信車をベースとする車両だ。化防車の最大特徴は、強固な密閉構造と鉛を使った対ガンマ線防御能力だ。車内には空気浄化装置が取り付けられ、防護マスクを装着せず乗車・車内作業が可能。この特性から、毒ガス等の有毒化学剤が充満する危険地帯や放射性降下物が降っている状況下の危険地域へ進出できる。危険地域で隊員が車外に出ずに化学物質や放射性物質等の収集と分析を行い、そのエリアの空気や土壌のサンプルも採取し分析する。

NBC偵察車は「核(nuclear)・生物(biological)・化学(chemical)」兵器の検知・識別機能により汚染状況を分析・解明する。加えて、偵察車の名称どおり、危険地域の観察・監視、情報収集を行なうための機動力、走破性とも向上されている。

 車載される分析システムは風速、風向、温度などの各種センサーと土壌などのサンプリング機器、分析用機材で構成され、汚染物質など試料採取用マニピュレータを車体後部に装備している。その能力は数万から数十万種類もの有毒化学剤の分析が可能といわれている。中性子線をブロックする防護板を車両前面に装着可能。自衛用火器に12.7㎜重機関銃を1丁装備する。製造メーカーは小松製作所だ。




 NBC偵察車は、化学防護車や生物偵察車の後継として開発、2010年度より装備し始めた。NBCとは「NBC兵器」を指し、「核(nuclear)・生物(biological)・化学(chemical)」


兵器の総称で、ようは大量破壊兵器を意味する。NBC偵察車は、放射線(ガンマ線・中性子線)の測定、有毒化学剤(気状・液状)や生物剤の検知・識別機能により危険地域の汚染状況を解明する車両だ。自衛用火器に12.7㎜重機関銃を1丁装備する。小松製作所が製造している。




 化学防護車やNBC偵察車は、大量破壊兵器が使われた地域で戦闘を行ない、相手を制圧するといった運用をするものではなく、対象の分析解明が第一義だ。こうした装備は諸外国軍でも同様で、自らと自軍、自国を守るために装備している。

個人用防護装備、いわゆる防護衣。防護マスクや上下スーツ、手袋、靴カバー等からなる。身体を完全に覆い、有毒ガスや液滴、空気中を浮遊する微粒子状物質から全身を保護する。全備重量は約8㎏。

 個人装備としては「化学防護衣」が装備されている。また、化学科には一般の防護衣より能力の高い化学防護衣が装備される。そして、不織布の防護スーツなども導入されており、原発事故や今般のクルーズ船の現場でも着用されている。ゴーグルやN95マスク、グローブ等もセットだ。


 クルーズ船の現場で「感染者ゼロ」だったのはこうした個人防護装備をフル装着していたからで、同時に防護装備の脱着も「二人一組で行う」など、決められた手順を守り徹底していたからだ。隊員一人ひとりがフル装備で、正しく装着し、外面に触れないよう脱ぐ。この運用を指揮統制し、隊員の命を守る危機管理体制も敷かれていた。

化学防護衣の着用のようす。着用は必ず二人一組で行なう。これは正しく着用できているかの相互チェックを行なうと同時に、着用しにくい防護衣をお互い助け合って着る意味もある。

除染の様子。大型のケースに除染剤を入れ、足回りに付着した化学剤を除染している。汚染した可能性のある武器や靴などはこうして除染したのち、最外部から、皮を向くようにして装備品をはずす。

 個人の感染対策が徹底しているのは自衛隊の隊員教育内容が大きい。駐屯地や基地などで勤務し暮らす集団生活だから、感染症などは簡単に蔓延してしまう。自衛官は、感染症を予防するための「手洗い、うがい」は新隊員として入隊した頃から徹底的に教え込まれる。食堂へ入ると手洗い場があり、手を洗浄しないと食事を受け取れない「動線」になっている。手洗い方法も爪の間や親指を入念に洗うなど、我々が現在意識的に行っている方法をとっくの昔に行なっているのが自衛隊だ。クルーズ船での活動内容のニュース記事を読み返したり、こうした自衛隊式予防術を自粛生活に採り入れてみるのも、モチベーションの維持向上につながると思う。

東日本大震災、福島第一原発事故での対応で、警戒区域内の行方不明者捜索活動の様子に見る防護対策の例。活動後の部隊・隊員は化学科による放射線量の計測をその都度受けた。必要があれば拠点に設置された除染装置で洗い流す。汚染の点検と事後の対処はセットになっていた。

福島原発事故の警戒区域内の行方不明者捜索活動で、隊員に支給された防護服セットの一例。ツナギ式タイベックス防護服、防塵マスク、保護めがね(ゴーグル)、手袋2種(薄手/厚手)の一式が透明ケースに詰められたもの。各々の装備品は市販品と同じものだった。こうしたフル装備がクルーズ船の現場でも使われた。

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