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新型ホンダ・フィットe:HEVネス スッキリ爽快な内外装、しっとり上質なハンドリングと乗り心地、常にリニアな加減速は従来とは別次元のスポーティさ


2020年2月14日、約6年半ぶりにフルモデルチェンジを果たしたホンダのコンパクトカー「フィット」。ラインアップが一新され、個性の異なる5タイプが設定された中で、その名の通りフィットネスをイメージしたスポーティな装いの「ネス」は、世代交代とともに廃止されてしまったスポーティグレード「RS」の代わりとなるのだろうか?




1.5L直4ガソリンエンジンに2モーターハイブリッドを組み合わせた「e:HEVネス」FF車に、千葉県木更津市内の高速道路および一般道で、本誌の鈴木慎一初代編集長とともに試乗した。




REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)


PHOTO●遠藤正賢、鈴木慎一、本田技研工業

三代目ホンダ・フィットRS

 嫌な予感は、見事に的中した。




 先代三代目フィットの、モデル末期における「RS」の販売比率はわずか2.1%。継続設定は期待薄と踏んでいたが、L15B型1.5LガソリンNAエンジン+6速MTの組み合わせともども、新型では消滅してしまった。

テスト車両の「e:HEVネス」は185/55R16 83Vのヨコハマ・ブルーアースエースを装着

 その実質的な後継モデルとなるのが、前述の「ネス」になるわけだが、パワートレインは他の4タイプと同様に、1.3LガソリンNAエンジン+CVTと、1.5LガソリンNAエンジン+2モーターハイブリッド「e:HEV」のいずれかから選択可能。ボディ・シャシーのセッティングも、パワートレインや駆動方式、タイヤ・ホイールのサイズが共通であれば、「クロスター」以外の3タイプとの違いはない。裏を返せば、先代「RS」との決定的な違いは、その内外装に集約される。




 果たしてその装いは「フィットネス」の名の通り、スッキリ爽快なものになった。

三代目ホンダ・フィットRSの運転席まわり

 先代「RS」は、三代目フィット自体が要素の多い煩雑なデザインであるところに、様々なエアロパーツを付加していたため、分かりやすく「スポコン」、それも「スポ根」と「スポーツコンパクト」両方の意味を兼ね備えた、端的に言って暑苦しい内外装に仕上がっていた。

新型ホンダ・フィット ネスの運転席まわり

 だが「用の美・スモール」を開発コンセプトとした新型フィットは、要素が少なくシンプルで親しみやすい内外装デザインを採用。「ネス」はこれに、ライムグリーンのアクセントを内外装に与えた2トーンをイメージカラーとして与え(注:通常のモノトーンor2トーンボディカラー&ブラック×グレー内装も設定あり)、撥水ファブリックをシートとソフトパッドに採用している。




 それは決してモータースポーツではなく、身体を動かす方のスポーツを体現したものではあるが、先代「RS」の子供臭さや安っぽさ、古臭さはなくなり、極めて上質かつモダンなスタイルに進化したと言えよう。

新型フィットe:HEVおよび前後サスペンションの透視図

 さて、肝心の走りはどうか。前述の通り「ネス」の足回りのセッティングは「クロスター」を除く3タイプと変わらないため、ほぼ新型フィットそのものが先代「RS」の代わりになるのか、という問いと同義になる。




 結論から言えば、新型フィット「ネス」は先代「RS」の代わりにはならない。ただしそれは100%ネガティブな意味ではなく、全く別次元のスポーティさに生まれ変わったという点では、むしろポジティブに捉えられるものだった。

ボディの主な補強部位

前後サスペンションの主な改良部位

 その要因の一つは、先代より流用しつつ細部まで熟成が図られたプラットフォームだろう。前後ともサスペンション取付部のボディ剛性を高めつつ、フロントサスペンションのフリクションを徹底的に低減した。

リヤサスペンション入力分離ダンパーマウントの新旧比較図

 リヤサスペンションも、底付きした際の大入力をボディに受け止めさせ、ロッドからの小・中入力をマウントラバーに吸収させる入力分離ダンパーマウントを一新。先代のロッド同軸一点締結から、アルミダイキャスト製ブラケットを介した二点締結に変更しつつ、マウントラバーの受圧面積を1.3倍に拡大して、操縦安定性と乗り心地の両立、さらにはロードノイズの低減も図っている。

新型フィットの主な静粛性向上策

 そのほか、ドアシールの全周二重化やスプレー式発泡ウレタンフォームの採用、吸遮音材の面積拡大、フロントガラスとバックドアの支持剛性向上、不織布製(注:ガソリン車フロントは樹脂製)インナーフェンダーの採用e:HEV車ではさらに樹脂製エンジン・トランスミッションマウントの採用による振動低減など、NVH対策は入念だ。

Aピラーの極細化により前方視界は劇的に改善。シンプルな造形のインパネも視覚的ノイズ軽減に大きく寄与している

 これら改良点の効果を最も強く体感できるのは、車道からスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの駐車場へ乗り上げる、あるいは逆に降りていく、低速で大きな段差を乗り越える場面だろう。こうした状況で新型フィット「ネス」は、前後席を問わず乗員に衝撃をほとんど伝えず、また左右の揺れもほぼ感じさせることなく通過した。また石畳路や舗装が荒れた路面でも、突き上げや車体の揺れ、ノイズ・振動は少なく、路面と速度域、前後席の別を問わず、常に快適に過ごすことができた。




 そしてハンドリングも、先代までのキビキビとして軽快な、やや硬めのフィーリングから、ソフトながらもじんわりと粘る、しっとりとしたテイストに生まれ変わった。そのため、操舵してからやや遅れてコーナリングフォースが立ち上がるものの、ロールはいたって穏やかかつリニア。先の動きが読みやすく、路面の凹凸や横風などの影響も受けにくいため、荒れた路面のワインディングや高速道路でも変な緊張感を抱かずに走り続けられる。

新旧フロントシートのカットモデル。フレームは樹脂製の面支持構造となり、座面パッド厚が30mm以上アップしている

リヤシートの主な改良点。ダイブダウン用ヒンジを外側へ移動したことにより、座面パッド厚の24mmアップを可能にした

「ネス」ブラック×ライムグリーン内装のフロントシート
「ネス」ブラック×ライムグリーン内装のリアシート


 なお、こうした感触が得られるのには、骨格からすべてが見直されたフロントシートに、パッドの面積と厚みが拡大されたリヤシート、Aピラーの極細化により劇的に改善された前方視界なども、少なからず貢献している。フロントシートとAピラーは先代の、リヤシートは初代以来の大きな弱点だっただけに、これらが抜本的に改善されたのは大いに歓迎すべきことだろう。

インサイト用i-MMDと新型フィットe:HEVとのサイズ比較図。幅・奥行きとも20%以上縮小されている

 では、インサイト用1.5L「i-MMD」をベースとしつつも大幅に小型化された2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」はどうか。こちらは、良くも悪くもハイブリッドカーらしくない、車格に対し排気量のやや大きいエンジンが搭載されているかのような感触だった。

新型フィットe:HEV搭載車のエンジンルーム

 だから、電動車に期待しがちな、アクセルを踏み始めた瞬間からの強大かつシームレスなトルクは体感しにくい。その代わりハイブリッド車にありがちな、エンジンが始動した瞬間の急激にトルクが痩せ細ったような感覚と、ガサツなノイズ・振動もほぼ感じられない。速度域や負荷のかけ方、バッテリーの充電状態による加減速特性やNVの変化も極めて少ないため、ことさらハイブリッド車であることを意識して走らせる必要はないように思われる。そんな風に、燃費やメカニズム上の特性を全く意識せず、かつ男性二人が乗車しても、今回21.8km/Lをマークしたのだから、実用燃費は充分に優秀と言えそうだ。

先代フィットRSのエンジンルーム
先代フィットRSの6速MT


 ただし、1.5Lガソリンエンジン+6速MTが廃止され、1.3LガソリンエンジンもCVTとの組み合わせのみとなったのは大いに不満。4000rpm以上で独特のハイトーンが味わえて必要充分なパワー・トルクが得られる1.5L DOHC VTECと、ストロークが45mmと短く手応えも軽くソリッドな6速MTは、「S」や「タイプR」ほどではないにせよ官能的なフィーリングに熟成されていたのだが、こればかりは「e:HEV」でもその代わりとはなり得ない。理想は1.5Lガソリンエンジン+6速MTの復活だが、せめて1.3Lガソリンエンジン+6速MTとの設定が追加されることを心から願わずにはいられない。

【Specifications】


<ホンダ・フィットe:HEVネス(FF)>


全長×全幅×全高:3995×1695×1540mm ホイールベース:2530mm 車両重量:1200kg エンジン形式:直列4気筒DOHC 排気量:1496cc ボア×ストローク:73.0×89.4mm 圧縮比:13.5 エンジン最高出力:72kW(98ps)/5600-6400rpm エンジン最大トルク:127Nm(13.0kgm)/4500-5000rpm モーター最高出力:80kW(109ps)/3500-8000rpm モーター最大トルク:253Nm(25.8kgm)/0-3000rpm WLTC総合モード燃費:27.4km/L 車両価格:222万7500円
新型ホンダ・フィットe:HEVネス

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