2020年春以降に国内導入予定の新型KTM1290スーパーDUKE R。海外試乗会で、その実力の鱗片を垣間見た。
KTM 1290スーパーDUKE R
見た目はそれほど変わらぬが、中身は別次元
800メートルあるフロントストレートにあるちょっとしたギャップを5速で通過すると、フロントホイールがフワリと浮き上がった!!! 速度は220km/hオーバー。そのままアクセルを開け続けつつ上体をタンクに覆いかぶさるとフロントタイヤはきれいに着地した。もちろんそれをきっかけにマシンが暴れるなんてこともない。しかし今はそんな細かいことに気を使ってはいられない。タンクにベタ伏せして風圧と格闘する。メーターの針は270
km/hを超えていく……
もう手が引き千切れそうだ~!
ネイキッドモデルとしては尋常なスピードではない。やっとブレーキングポイントで身体を起こしてフルブレーキング……
しかし、そんな極限の外的状況に対して、マシンは驚くほど安定している。
新型になったビーストであるが、衣装を着ていれば、その変化に気が付く人は多くないかもしれない。もちろん、細かくチェックしていけば、その衣装すら全てが新しくあつらえていることがわかるのであるが、それにも増して中身は別物と言えるほどの改良が加えられている。
フレームに感じた大きな進化
図太いトルクの低中速こそ醍醐味か
もちろん、そのフィーリングに大きな影響を与えているのがエンジンのキャラクターである。絶対的性能は高いのはもちろんのこと、それはちょっとしたボタンの掛け違いで暴力的なものとなる可能性も高い。
1300㏄から絞り出されるトルクは当然強力である。しかし、ハイパフォーマンスのツインエンジンが抱えがちな低速域のギクシャクさを感じることはなく、きれいな回転を維持する。また、唐突にドガッ!とエンジンが付いてくることなどもなく、分厚いトルクがスムーズに湧き上がっていく。
1290となったスーパーデュークは、デビュー当時でさえしっかり調教されていたのであるが、そこにさらに磨きがかけられたのである。
ワインディングでは、図太いトルクに任せて5速ないしは6速ホールドでの走りも許容する。コーナーで速度が落ちても、ガクガクッと回転が途切れてしまうような兆候がなく、驚くほど粘りがある。
高回転まで使うことなど殆どない=本領を発揮させることがない……わけではない。このフレンドリーさ。そして低中速の扱い易さこそが、ビーストの本領なのでは?という気さえしてくる。
しかし、サーキット等、環境の許されるフィールドであれば、狂ったように高回転域まで回っていくスポーツバイクらしさ。その両方を存分に味わうことのできるなかなかに稀有なマシンであるといえるだろう。
当然、これだけトルクフルなマシンである。コーナー立ち上がりでは所かまわずフロントホイールがパワーリフトしてこようとするのであるが、ウィリーコントロールを効かせれば程良い角度でフロントタイヤはしっかり路面に着地する。アップダウンの激しいこのトラックでは、ややその介入が唐突な場面があり、それをカットしたほうが素直に操縦出来る場面もあったが、それはスキルアップに伴って解除すれば良いだけだ。それまでは安全を担保できる設定に文句はないだろう。
まだバンクの途中であれば、出力をコントロールしてタイヤがスライドしていくのを抑えようとしてくれるし、介入度を少なくしていけばある程度のスライドを許容しながらマシンを安全に立ち上がらせてくれる。
それはカリカリのスーパースポーツマシンのきれいなスライドに対し、ややリヤがうねるような動きを伴うものでもあったが、逆にそのフィードバックが安心感につながっているような印象を持ったのだ。
最新の6軸IMUを装備搭載したことで、ライダーの技量が同じであったとしても、より繊細なコントロールをバイク側が補ってくれ、その大パワーを余すことなく解き放つことが出来るようになったのである。
ビーストというネーミングに恐れおののくなかれ。
もちろん舐めてはかかれない、絶対的ポテンシャルを秘めたマシンではあるが、そこにビクビクしながら乗るストレスからフリーになれるコントロール性と楽しさを満喫できるのだ。