1月10~12日に千葉県の幕張メッセで開催された「東京オートサロン2020」で、東8ホールにブースを構えたトヨタガズーレーシング。そこには開催前日の1月9日に「GRヘリテージパーツプロジェクト」として復刻・再生産が発表された、A70系およびA80系スープラ補給部品の実物が展示されていた。同プロジェクト発足にあたり、復刻・再生産する部品が選ばれた経緯と、それを実現するあたって直面した困難とは。そして、今後の展開は。トヨタガズーレーシングカンパニーGRプロジェクト推進部の蟹江庸司主査に聞いた。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢/トヨタ自動車
--今回補給部品を復刻・再生産するにあたり、これらの部品(下記カコミ参照)が選ばれたのはなぜでしょうか?
【GRヘリテージパーツ 復刻品目】
<A70系スープラ>
プロペラシャフト
ドアハンドル
フューエルセンダーゲージ
ウェザーストリップ
フロントエンブレム
<A80系スープラ>
ヘッドランプ
ドアハンドル
ブレーキブースター
蟹江 オーナーズミーティングに参加してスープラオーナー、またスープラを専門にレストアしているモータースの方からご意見をいただいたのに加え、社内にもスープラを所有している者がおりまして……。
--友山茂樹副社長もそうですね。
蟹江 友山は80ですね。70の方も結構社内におりまして、それらの意見を総合して、かつ車検に必要なものを選びました。ただし、サードパーティの皆様が手掛けている部品には手を出さない、ご商売の邪魔をしないという考えに基づいて、準備ができたものから2020年春以降順次再生産していきます。
--ということは、自動車メーカーでなければ作りにくい部品を…。
蟹江 そういうものが選ばれています。例えばエアクリーナーやエンジンルームのパイプ類は、サードパーティの皆様がいろんな部品を出されていて、我々が手を出したところで…というのはあります。
ですが、例えばプロペラシャフトは、どのメーカーさんも作っていません。しかもあのプロペラシャフトは、我々の工場内製なんですね。ですから、市場からのご意見もありましたし、使命として我々が作るべきだろうと。
そこで、工場の人間と相談した結果、何とかなるだろうという結論に至りました。
--ヘッドライトはサードパーティが作るには難しいものの最たるものだろうと思います。
蟹江 そうですね。ヘッドライトは部品点数が大変多いですからね。
--70はヘッドライトがリトラクタブル式ですが、こちらを再生産しないのはなぜですか?
蟹江 ライト自体は四角い汎用品なので、比較的壊れにくく、交換部品もあり、シール切れもしにくいだろうと。それにリトラクタブル式なので黄ばみにくいという判断からです。またオーナーの方から再生産の要望がありませんでした。対して80は製造された時代もあり黄ばみやすいので、ニーズが高いですね。
--70はまだレンズがガラス製なのに対し、80はポリカーボネート製になるんですね。
蟹江 そうですね。再生産する以上は、お客様がいないと成り立ちませんので(苦笑)。
--価格はどうなるのでしょうか?
蟹江 まだこれからですね。ただ、当然安くはありません。新車販売当時とは貨幣価値も変わってしまいましたので。
--現状ではまだ生産している部品と、すでに生産が止まっている部品とが混在すると思うのですが…。
蟹江 それは社内ですべて把握できておりますので、当然止まっている部品でニーズがあるものから復活ということですね。
--そのうえで、順次増やしていくと。
蟹江 ええ。専用のWebサイトを立ち上げて、復刻・再生産のご意見を投稿できるようにいたしましたので、そこからご意見をいただいて、我々が次に進むべき道を決めていきたいと思っています。
正直なところ、お金さえあればできるのではないかと思っていたのですが、実際に始めてみるとそうではありませんでした。本当にいろんな方のご支援がないとできません。当然お客様や部品サプライヤーさんもそうですし、メディアの方もそうです。
--金型と図面と部品がなければ、どうにもなりませんものね。
蟹江 仰る通りです。80のヘッドライトは、部品点数が70点くらいで、型は30点×左と右なのですが、いくつかの型は残っていました。ないものは型を新たに作ります。もしくは3Dプリンターなどで部品を作ります。
なお、70の部品は3Dデータが全くありません。70は1986年デビューのクルマですので、設計はその5~7年前です。ですから、その当時の図面は、紙では残っています。
--ということは、すべてCADデータに起こし直さなければならないと。
蟹江 はい、そういうことです。ですから、全部実車から3Dスキャンです。
--それは……大変ですね。
蟹江 ええ。ですのでなかなか、心意気とお金だけではどうにもなりませんね。
--新規に部品を開発するよりも手間がかかりそうですね。
蟹江 その通りです。
--今後、部品を復刻・再生産する車種を増やしていく計画は?
蟹江 それも、Webサイトから皆さんのご意見をいただこうと考えています。
--期待しています。ありがとうございました。