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かつては市場シェアの拮抗していたキャラバンとハイエース。しかし、互いに五代目へのモデルチェンジのタイミングでキャラバンが劣勢に。ところが、12年のNV350登場で関係性には変化が訪れた。今回のマイナーチェンジではさらなる武器を携えて、起死回生を賭けた追撃に打って出る!
REPORT●佐野弘宗(SANO Hiromune)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
※本稿は2017年7月発売の「新型VV350キャラバンのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様が現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
失ったシェアの奪還を狙うNV350キャラバンの本気
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このクラスは日産NV350キャラバンとトヨタ・ハイエース/レジアスエース(以下ハイエース)の完全な一騎打ちである。21世紀初頭まではキャラバンも約4割のシェアを占めて、ハイエースと拮抗する2強として君臨していた。
ところが、2001年の衝突安全基準改正を機に、その2強の構図が崩れる。当時の新基準にフロントオーバーハングを190㎜延ばして対応した先代キャラバンに対して、約3年遅れの04年に登場した五代目(=現行)ハイエースは、オーバーハングをほとんど延ばすことなく衝突安全基準に対応してみせたのだ。当時のキャラバンの最大荷室長が2800㎜だったのに対して、ハイエースのそれは大台の最大3000㎜を謳った……。
ここで勝負あり。荷室長だけでなく、衝突安全性と室内空間を両立したスタイリングも人気となったハイエースは、完全なひとり勝ちとなった。キャラバンのシェアは2割切りが常態化して、ときに1ケタ%に落ち込むまでに……。といった由々しき状況を打破すべく、日産が起死回生の一撃として12年6月に放ったのが、NV350キャラバン(以下NV350)だったわけだ。
NV350は先代のフロントオーバーハングを大幅短縮して、最大の懸案だった荷室長もハイエースを逆転する最大3050㎜を実現。さらにその他の各部荷室寸法やリヤシートの使い勝手でも、そして外観のクロームメッキ量でもハイエースを凌駕。ディーゼルの排気量こそハイエースより0.5ℓ小さかったが、最大トルクでは上回り、さらに先代から受け継いだ5速AT(当時のハイエースはガソリン/ディーゼルとも4速AT)とも相まって、燃費性能でもハイエースの上を行った。つまり「少なくともカタログスペックでハイエースに劣るモノなし!」と言いきれる商品性を身につけた。
この種のクルマで荷室寸法や燃費だけでなくデザインや快適装備も重視されるのは、これがあくまで商用車でありながら、一方で個人の趣味嗜好が無視できない市場だからだ。知ってのとおり、このクラスは自分の腕と器量で稼ぐ一匹狼の自営業者や職人さんの仕事グルマ兼自家用車として、あるいは大荷物を要するホビーカーとしての需要も少なくない。そこがNV350やハイエース独特の世界観でもある。
NV350の登場で日産の市場シェアは一気に倍増して、以来25%をキープ。日産の面目躍如である。
しかし、そんな強敵の出現にトヨタが黙っているはずもない。
NV350発売の半年後には、深紫メタのボディ色が特徴のハイエースの特別仕様車「プライムセレクション」を発売。さらに翌年11月にはマイナーチェンジを敢行して、内外装ブラッシュアップ、シャシー改良、デュアルパワースライドドアの設定……といった「NV350対策」を施した。その後もガソリンエンジンの6速AT化など、NV350に対する弱点を着実につぶしていく。
対するNV350もハイエースの動向を見つめつつ、常に先回りするように細かな改良を積み重ねてきた。デビュー翌年にはオートスライドドアを追加、そして16年1月には横滑り防止装置(VDC)と日産自慢の自動ブレーキの採用、同年秋にはさらに、その自動ブレーキの装備グレード拡大などを実施している。
というわけで、今回のNV350は12年のデビュー以来で最大規模のマイナーチェンジとなる。先代キャラバンからシェアを倍増させたとはいえ、市場シェアの7割以上を、いまだにハイエースが占めているのが偽らざる現状でもある。
お世辞ではなく、ハードウェア内容でNV350がハイエースに負けている部分は皆無に近い。しかし、ハイエースの圧倒的な知名度と絶大な信頼性、販売台数の多さを背景にしたバリエーションの豊富さ、そしてリセールバリューやアフターパーツの充実度まで含めた現実的な商品価値……などを考えると、NV350が及ばない面がまだまだ少なくないのも否定できない事実だ。
また、さすがのハイエースも現行型はすでに13年選手。近い将来にフルチェンジとのウワサもあり、今回のNV350はその機先を制す意味も込められているかもしれない。
日産NV350キャラバン プレミアムGX
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■2500ディーゼル 2WD
5速AT ロングボディ・標準ルーフ
直列4気筒ディーゼルターボ/2488㏄
最高出力:129㎰/3200rpm
最大トルク:36.6㎏m/1400-2000rpm
JC08モード燃費:12.2㎞/ℓ
最小回転半径:5.2m
車両本体価格:350万4600円
■2000ガソリン 2WD
5速AT ロングボディ・標準ルーフ
直列4気筒/1998㏄
最高出力:130㎰/5620rpm
最大トルク:18.1㎏m/4400rpm
JC08モード燃費:9.8㎞/ℓ
最小回転半径:5.2m
車両本体価格:290万9520円
徹底したハイエース対策でキャラバンが巻き返し
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マイナーチェンジの詳細については別項にも詳しいが、今回は走行メカニズムには手はつけられていない。エクステリアのテコ入れ、オートエアコン(これがほぼ唯一NV350がハイエースに負けていた主要装備)の採用、4WDラインナップ拡充……といったところが明確な「ハイエース対策」といえるだろう。
加えて、自動ブレーキの事実上の全面展開やアラウンドビューモニター(AVM)とルームミラーディスプレイの導入など、従来からNV350の強みだったアドバンストセーフティ方面でハイエースをさらに圧倒的に引き離す狙いもある。また、AVMの副次効果として、それを装着すると無粋な補助ミラーを省略できて、これはデザイン面でも明確な利点となる……と日産は説明する。
というわけで、今回の取材に連れ出した宿敵ハイエースは個人ユースで圧倒的な人気を誇る「スーパーGL」である。対するNV350もスーパーGLに真っ向勝負する「プレミアムGX」で、エンジンはともによりパワフルで大荷重用途に適するディーゼル車を並べた。
NV350デビュー当時は、質感や安全装備面で明確に劣る部分が多かったハイエースだが、幾度もの改良を受けた最新モデルでは、パッと見でNV350に明確に劣る部分はほぼない。自動ブレーキが選べない点だけは今の時代にはハイエースの弱点だが、さすがに13年前の基本設計にそれを望むのは酷だろう。
ハイエースの水平基調のダッシュボードも、少しばかり古さは感じさせるが、各部の操作性はトヨタらしく繊細。エアコンは当然のごとくフルオートで、燃費や外気温を表示するマルチインフォメーションディスプレイも備わり、それはNV350のようなカラーではないが必要な情報はきちんと得られる。
シートクッションが前後ともNV350よりわずかに薄く感じられること、そしてドライバーの利便性や快適性に大きく影響するセンターコンソールが小ぶり……といった点では、さすがにハイエースの基本設計年次をうかがわせる。それでも、設計年次で8年も新しいNV350と直接並べても、致命的な古さを感じさせないのはさすがハイエース。ただ、そんな強敵のスキをついて新しさを主張するNV350にも同時に感心する。開閉可能なエアコンアウトレットも含めて、NV350には毎日使うほどに重宝する細かい工夫がハイエース以上に多い。
トヨタ・ハイエースバン スーパーGL
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■3000ディーゼル 2WD
4速AT ロングバン・標準ルーフ
直列4気筒ディーゼルターボ/2982㏄
最高出力:144㎰/3400rpm
最大トルク:30.6㎏m/1200-3200rpm
JC08モード燃費:9.8㎞/ℓ
最小回転半径:5.0m
車両本体価格:338万914円
ドライビングプレジャーと「楽しさ」はNV350優位
エンジンの直上に座らせられるキャブオーバーだから、NV350もハイエースも前席は決して静かではない。まして、今回のようにディーゼルとなればなおさらだ。
どちらのディーゼルも4500rpm付近のリミットまでスムーズに回ることは回るが、ハイエースの3.0ℓは高回転域では少しばかり苦しげで耳ざわりな音質なのが欠点といえるだろう。対して、NV350はスペックから想像されるとおり、日常域でのピックアップは総じてハイエースより鋭く、体感的な動力性能ではよりパンチのある感触なのがうれしい。5速ATの健気な働きも含めて、ドライビングプレジャーは僅差だがNV350に軍配である。
ただ、日産の2.5ℓはリミット付近まで回しても音質はあまり不快ではないのはいいが、ディーゼル特有の振動は全域でハイエースより強め。計測上の音量はともかく、日常的な低回転で使うかぎり、ディーゼルならハイエースのほうが静かでスムーズと感じる人が多いだろう。
今回はあくまで乗用ドライバーズカー目線で、空荷状態に近い状態で試乗したが、そうしたシーンでの乗り心地や操縦安定性でも、ハイエースが明確に負けていないのは2年前のマイナーチェンジ効果だろう。整備された高速道での上下動の少ないフラットさは、設計が新しいNV350をしのぐ面もある。
それでも、サスペンションがより滑らかで積極的に働いている感触を如実に伝えてくるのはNV350。上屋の動きがハイエースより大きくなることもあるが、それもダンピングがきっちり効いたもので、荷重移動による自然でリニアな挙動だ。その結果として、タイヤの接地感がよりリアルに把握できるのがうれしい。
また、ステアリングホイールはNV350のほうが約20㎜小さく、ステアリングギヤボックスもNV350のほうが明確にクイックな設定である。独特のコツを体得すればハイエースの優しくスローな身のこなしもそれなりに快適だが、乗用車に慣れきった身体により素早くシンクロして、小気味よく取り回せるのはやはりNV350である。
エンジンが重いディーゼルでは、両車ともアンダーステア傾向が明確に強い。さらにドライバーがフロントオーバーハングに座っているので、アンダーステアに陥ると運転席ごと外に膨らんでいく。そんなキャブオーバーではタイヤのご機嫌が把握しやすいNV350の接地感は強い味方となる。路面を問わず、より安心して走れるのはNV350だろう。
たった2台がこれほど完全なガップリ四つで組みあって対峙するクラスはほかにない。まして、これらはあくまで商用車。「荷物を積む」とい
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