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〈試乗記:マツダCX-30〉MAZDA3のSUVバージョン?


MAZDA3をSUVスタイルに仕立てたら……。CX-30をひと口に表すとこうなるだろう。その乗り味は怜悧なMAZDA3に対して極めて安定して自然なもの。高い質感と巧みなパッケージングと併せ、新たなマツダのヒット作となるか。




REPORT●佐野弘宗(SANO Hiromune)


PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)




※本稿は2019年11月発売の「マツダCX-30のすべて」に掲載されたものを転載したものです。

マツダヒット作の系譜を令和の世に受け継ぐ

 かつて一世を風靡した初代FFファミリアは1980年=昭和55年に登場した。70年代にVWゴルフが創出したヨーロピアンCセグメントの魅力を日本流にアレンジした初代FFファミリアは日本中で大ヒットしただけでなく、当時の世界販売でもカローラやゴルフに次ぐ3位を獲得。不振に陥っていたマツダの経営をV字回復させる逆転満塁ホームランとなった。こうして昭和時代に確立したファミリアのポジションは、平成後半になるとアクセラに引き継がれて、そのアクセラもまた二世代にわたってマツダ最量販商品として君臨することになる。




 先日デビューした新型マツダ3はそんなファミリア〜アクセラの系譜を直接的に引き継ぐ新世代商品だが、それと期を同じくして、日本の世も令和へと代替わりするとは宿命めいたものを感じなくもない。




 ただ、昭和のファミリアや平成のアクセラと比較すると、令和のマツダ3を取り巻く環境は、これまでとはちょっと異なる。というのも、マツダ3の商品企画は、CX-30という新しい兄弟ありき……で構築されているからである。CX-30は商品名ではマツダ3から独立しているが、その開発を率いた佐賀尚人主査は「CX-30はマツ33のクロスオーバー版であり、マツダ3があのようなデザイン優先のクルマづくりに邁進できたのもCX-30があればこそ……」と公言してはばからない。




 新型マツダ3は世界最量販クラスのCセグメントでありながら、室内空間や後方視界をあえて(少しだけ)割り切った代わりに、流麗なデザインとスポーティな走りが魅力である。CX-30はそれとは好対照に、キャッチコピー通りの「ジャストサイズ」に実用的なファミリーカーであることに妥協ない。




 4.4mを切る全長はヨーロッパの街中でスマートに縦列駐車ができることを、1.54mの全高は日本の立体駐車場を想定している。そして1.8m未満の全幅は、世界のどの国の交通環境でもギリギリ持て余さない最大公約数……と、そのスリーサイズは企画段階ですべて論理的に規定して、それを1㎜たりとも超えることを最後まで許さなかった。

MAZDA3から始まった、キャラクターラインに頼らず面構成でボディに表情を与えるデザインスタイル。CX-30では書道にもつながる「溜め、払い」のテイストでフロントマスクに端正さを与え、リヤフェンダーはグラマラスに張り出す。

 CX-30はさらに、そんなジャストサイズボディの内側に「大人4人がきちんと座れる」室内空間と「グローバルサイズのベビーカーとスーツケースが入る」荷室を確保。加えて、乗降性や視界性能まで意識したパッケージレイアウトを、すべて理詰めでつくり込んでいる。




 ……と、ここまで実用最重視のパッケージを追求しながらも、実際のスタイリングがまるでそう見えないところが、CX-30……というかマツダデザインの凄味である。




 1795㎜という全幅は昭和時代から考えると立派というほかないが、令和の日本の交通環境ではなるほど困るほどのサイズでもない。しかし、視覚的には実寸以上に立派なワイドボディ感があるのは、全幅と反比例するように全長が短いショート&ワイドなディメンションと、肉感的なショルダーラインによるところが大きい。サイドシルやホイールアーチをブラックアウト化して大径タイヤと車高の高さを強調するのはクロスオーバーSUVお約束の手法だが、CX-30ではそのブラックアウト量(?)も大胆で、そこにボディサイドの前衛書道家が描いたような有機的な造形が相まる。そんなこんなで、CX-30は実寸以上に低く、幅広く、疾走して見えるのだ。




 CX-30のドライバーズシートに座ると、見晴らしのいいヒップポイントもまたジャストサイズである。ただ、見た目のワイド感からの期待を裏切らない室内空間の横方向の余裕が、それ以上に印象的だ。Cセグメントとしては明らかに幅広で立派なセンターコンソールに加えて、肩まわりまで広々とした空間は、そのエクステリアからはいい意味で想像しづらい巧妙設計である。そして、大柄な大人にも過不足なく健康的な居住空間のリヤシートや、ひと目で「意外に広い」と直感できるトランクなど、CX-30にはとことん突き詰められたパッケージレイアウトの妙が散りばめられている。




 加えて、クラスを超えたインテリアの質感も、マツダ3に続いてCX-30でも大きな売りである。そこに奇をてらった部分はあまりないのだが、ソフトパッドはことごとく分厚く柔らかく、ステッチはすべて本物、そしてメッキは繊細……と、インテリアの高級感や本物感は、横方向に広々した空間とも相まってお世辞抜きにひとクラス上と思わせられる。




 まあ、高いベルトラインのせいでサイドウインドウからの足元がちょっと見づらいのは弱点といえなくもない。ただ、これもまた「この守られているが高級車っぽい」と肯定的に捉える向きもあるかもしれない。




 CX-30もマツダ3同様、圧縮着火の2.0ℓスカイアクティブ―Xエンジンをトップモデルとして用意するが、ここで試乗できたのは、先に発売された2.0ℓガソリンと1.8ℓディーゼルの2機種である。ご想像の通り、どちらにしてもことさらパワフルとか極端に速いわけでもない。一方で、日常づかいから高速巡航、山坂道まで不足を感じるシーンももちろんなく、実寸以上に立派に見える肉感的なデザインもあって、どちらのエンジンも「意外に良く走るなあ」と直感できる程度の動力性能は担保されている。

コックピットまわりの人を中心にした包まれ感と、助手席の伸びやかな抜け感とが同居するインテリア。精緻なクロームパーツの質感と、各部に用いられたソフトパッドのぬくもりが心を満たす。サポート感が心地良いシートは、「Lパッケージ」の場合レザー仕上げになる。



ピタリと安定しきった走りと見事な静粛性

 CX-30のサスペンションはエンジンや駆動方式を問わず、ほど良く引き締まった印象だ。さらにエンジンを問わずに高い静粛性も印象的で、エンジン音はそれなりに侵入してくるものの、雨天時の水しぶきや小石を巻き上げた時のノイズの小ささは最初は驚くほどだ。




 マツダ3と比較すると全高も地上高も高めのCX-30でも、走行中はいかなる場面でも上屋がピタリとフラットに安定している点は、いかにも最新世代のマツダらしい。しかし、わずかな加減速や操舵の瞬間に、しかるべきタイヤにすみやかに荷重が乗るリニアな接地感は鮮やかに培養されており、それが乗り手に色濃く正確に伝わってくることには改めて感心する。ファンにとっては「この瞬間がマツダだね!」である。




 面白いのは、兄弟車というかバリエーション関係とすらいえるマツダ3がドライバーの腰まわりを中心に、より俊敏かつ明確な荷重移動を演出するのに対して、CX-30のそれはもっと自然で滑らかなことだ。その荷重移動感をあえて擬音化すると、マツダ3が「クイッ」とすれば、CX-30は「スーッ」と表現すればいいだろうか。




 スポーティなドライバーズカーとして刺激的なのは間違いなくマツダ3だが、いい意味でクルマの運転を必要以上に意識させず、より同乗者にも優しい運転をしやすいのはCX-30である。さらに驚くのは、ステアリングやブレーキの反応も非常にゆったりと穏やかなCX-30なのに、狙った走行ラインを滑らかにピタリと射抜くことができるし、ブレーキも正確な減速を決めやすい。まさに「スーピタッ」である。

ドライバーの思った通りの動きを示すCX-30の走りは、まさに新世代の人馬一体感。操作に対する反応は穏やかなものだが、それがナチュラルなクルマとのシンクロと信頼へと繋がっている。

ドライバーの微細な操作にもしっかりと追随するガソリンエンジン

 売れ筋の双璧になるであろう2.0ℓガソリンと1.8ℓディーゼルはそれぞれに得手不得手はあるが、総合的な動力性能レベルは酷似する。ただ、実用燃費や日々の燃料費、マツダならではの独自性……などを考えると分かりやすい商品力があるのはやはりディーゼルだろう。




 ただ、CX-30が表現している新次元の人馬一体にドンピシャで調和しているのはガソリンの方である。この2.0ℓ自然吸気のパワートレーンはそれこそ右足指のわずかな力加減にも、微妙だが明確な加減速Gでピタリと追随するのだ。ディーゼル比で60㎏も軽いフロント荷重が操縦性に与える影響も如実で、CX-30のガソリンに乗っていると「以心伝心」とはこのことか……と思わずヒザを叩きたくなる。




 対する1.8ℓディーゼルもマツダ3からトルクの立ち上がりがさらにリニアになったというが、ガソリンに乗った後だと右足の動きに対する反応にどうしても0.5テンポほどの「間」を感じてしまう。まさに絶品というほかないガソリンと比較すると、その人馬一体感がちょっとだけ薄れてしまうのも事実だ。




 それでも、マツダの最新スカイアクティブ―Dも単体で見ると、いい意味でディーゼルらしからぬレスポンシブで軽快な吹け上がりが魅力。前記のように維持費やイメージまで含めた総合的な商品性は高いので、CX-30を買いたいという向きは、ぜひともガソリンとディーゼル両方を自分で体感した方がいい。




 さて、今回はディーゼルの4WDも試すことができた。このCX-30も使っている新世代のアーキテクチャーでは、リヤサスペンションがトーションビームとなり、それは4WDでも変わらない。トーションビーム付近にデフやドライブシャフトを置く4WDは、リヤ周辺がどうしてもタイトにならざるをえない。この形式では滑らかなサスペンションストロークが確保しにくいのか、同方式を採用する他車では、2WDに対する4WDの乗り心地が大きく劣っているケースも少なくない。




 ただ、CX-30に限っては、それは杞憂といっていい。少なくとも前席では2WDと4WDで有意な差はほぼ感じ取れない。さらにディーゼルの4WDは、FFで過剰になりがちな加速トルクがリヤタイヤに吸い出されることもあって、CX-30のキモとなる荷重移動感も、FFよりリニアかつ滑らかに思えた。

マツダ渾身のスカイアクティブ-Xは20年1月下旬の発売予定で、当初は2.0ℓ自然吸気ガソリン(写真上)と、1.8ℓディーゼルターボ(写真下)の2本立て。このうちガソリンエンジンのリニアさは特筆すべきレベルで、微細な右足の動きに対して忠実に反応してくれる。

 先進安全運転支援システムの技術レベルには定評あるマツダだが、今回初登場の「ドライバーモニタリング」にはちょっと惑わされた(笑)。というのも、ある日、朝イチにCX-30で出発して1時間も経たないうちにクルマから「休憩をお勧めします」とのメッセージを受けてしまったのだ。この種の休憩推奨システムは単純な運転時間で判断するタイプが大半だが、マツダのこれは5㎞/h以上で走行中に「ドライバーの状態を赤外線カメラと赤外線LEDでチェックし、まぶたの開き具合やまばたきの頻度、口や顔の向きなどから“居眠り”を検知」するのだという。




 この時の私は神に誓って、これっぽっちも眠くなかったが、CX-30は寝起きの私の顔を「居眠り寸前」と判断したらしい。というわけで、今後はもっとシャキッとした表情で運転に望もうと思った……というのは半分冗談だが、こういう愛嬌が残る機能も、精神的な「人馬一体」につながる技術かもしれない(?)。




 今回の合計4日間、都合3台のCX-30の試乗で、私が明確にツッコミを入れたくなったのは、このドライバーモニタリングだけだった。




 あとは、CX-30は乗り出した瞬間から、ウソではなく自分の手足のように操れたのだ。これこそマツダのエンジニアたちがことあるごとに口にする「人馬一体」なのだろうが、それを人間にこれほど意識させない自然さで表現できたのはCX-30が初めてだと思う。誤解を恐れずにいうと、CX-30は乗り心地も操縦性も「普通」としか表現しようがない。ただ、その普通のレベルが、まったく普通でないのだ。




 聞くところでは、CX-30のグローバル販売台数は、マツダ3のそれを超えることも想定されているという。現代のクロスオーバーSUV人気や、ここ数年のマツダ最量販車がアクセラからCX-5に移っていた事実を考えると、CX-30がマツダの新たなベストセラーになる可能性も十分にあるだろう。




 そう考えると、マツダ3があそこまで濃いクルマ好きに顔を向けていること、そしてCX-30が極上の「普通のクルマ」としてつくりあげられていることも納得である。CX-30はいわば「令和のファミリア」なのかもしれない。ファミリアからアクセラに受け継がれてきたマツダ量販車の系譜を令和の時代に受け継ぐ最右翼は、マツダ3ではなく、CX-30なのだろうと思う。

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