ついにFFレイアウトに切り替わったことで、新型1シリーズはMINIと共通のパワートレーンを搭載できるようになった。トップグレードのM135i xDriveも、MINI JCWクラブマンと同じエンジンとトランスミッションを搭載し、ボディサイズまで似通っている。だが、BMWがMINIと同じでいいのかという疑念も湧き上がる。というわけで、乗り比べてみたのだ。
REPORT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
PHOTO●走行シーン:田村 弥(TAMURA Wataru)/その他:小泉建治(KOIZUMI Kenji)
BMWとMINI……走りが同じなんてアリ?
クラス唯一のFRレイアウトを捨て、ついにFFとなった新型BMW1シリーズ。複雑な思いを抱いているクルマ好きも少なくないだろうが、居住&荷室スペースの拡大というのはこのクラスの命題のひとつであり、さらにはさまざまな車種とのコンポーネントの共有という効率化も図れることになり、それもコンパクトCセグメントでは無視できない要素のひとつだ。
そして驚くべきことに……いや、予想していた人も多かったかも知れないが、トップグレードのM135i xDriveも、MINI JCWクラブマンとエンジンを共有することになった。
量販モデルであれば、今どきコンポーネントの共有など驚くことではない。ただ、ブランドイメージを象徴するスポーツモデルとなると、話はそう簡単ではない。
BMWとMINIの走りが同じでいいのか? 早速、乗り比べてみることにした。
まず、両者のスペックを簡単に比べてみよう。
エンジンは前述のとおり同じ直列4気筒2.0Lターボで、チューンもまったく同じであり、最高出力は306ps、最大トルクは450Nmとなる。発生回転数も同じだ。
トランスミッションも同じ8速ATで、ギヤ比も同じ。ちなみに2速でレブリミットの6700rpmまで引っ張ると、速度は80km/hに達する。
先ほどからFFと書いているが、トップグレードのM135i xDriveとJCWクラブマンは必要に応じてリヤにも駆動力を配分するAWDを採用している。
カタログ燃費はこの通り。
BMW M135i xDrive
WLTCモード燃費:12.0km/L
市街地モード燃費:8.9km/L
郊外モード燃費:12.2km/L
高速道路モード燃費:14.0km/L
MINI JCWクラブマン
WLTCモード燃費:12.1km/L
市街地モード燃費:8.9km/L
郊外モード燃費:12.3km/L
高速道路モード燃費:14.2km/L
ほとんど誤差の範囲と言っていいだろう。
ボディサイズは下記の通りで、こちらもかなり似通っている。全幅とホイールベースはまったく同じだ。
シャシー系に目を向けても、サスペンション形式はフロントがマクファーソンストラット、リヤがマルチリンクと共通で、ホイールサイズも一緒だ。
フロントに機械式LSDが奢られるのも同じだ。
ただし、リヤブレーキがM135i xDriveがベンチレーテッドディスクなのに対し、JCWクラブマンはソリッドディスクとなる。
そして1シリーズには、既存のスタビリティコントロールを経由することなく、エンジン・コントロールユニットで直接スリップ状況を感知し、従来よりも約3倍の速度でエンジン出力を制御することでアンダーステアを抑制する「ARB」が採用されている。
スペックでわかる明確な違いは、このふたつくらいである。
では実際に走ってみたらどうだったのか?
……まったく違った。
いや、本来の言葉の意味で言えば、さすがに「まったく違う」ということはないだろう。パワーも同じ、車重もほとんど同じなのだから、速さという軸で見れば似通った運動性能を発揮するのは当然だ。
ただ、読者のみなさんならわかっていただけると思うが、スポーツカーのポテンシャルや魅力というものは必ずしも速さだけで計れるものではない。
とにかく印象がまったく違ったのだ。
違いを生み出しているのはサスペンションのセッティングと、ARBの働きだろう。
JCWクラブマンはゴーカート・フィーリングとも呼ばれるMINI伝統の味付けで、路面の凹凸をダイレクトに伝えてくるセッティングだ。
さらにはフラットな路面でも、アスファルトのザラザラ感が常にタイヤを通して伝わってくるようで、良くも悪くも昔ながらの味わいだ。
一方のM135i xDriveは一定のロールを許容し、しなやかに足が動く。ただしこちらも路面からのインフォメーションはしっかり伝え、さらにはタイヤの僅かなたわみまでも感じられるから安心してアクセルを開けられる。そこへARBの制御も加わり、FFベースのAWDとは思えぬほどアクセルを思いっきり踏みつけて曲げていけるのだ。
もちろんJCWクラブマンにもLSDが備わるうえ、AWDであることもあってトラクション性能は高い。ただ、サスペンションのセッティングの違いによる路面追従性はM135i xDriveに分があり、そうなるとエンジンまでが洗練されているような印象になり、逆にJCWクラブマンのエンジンには荒々しさを感じてしまうから不思議なものである。
エキゾーストサウンドも、心なしかJCWクラブマンの方がブロロロロッと「R」の音が強調されているような気がした。ただ、M135i xDriveの後にJCWクラブマンに乗り、その後にもう一度M135i xDriveに乗って再確認することはできなかったから、これについての真偽は定かではない。気のせい……かもしれない。スミマセン。
BMW M135i xDrive
全長×全幅×全高:4355×1800×1465mm ホイールベース:2670mm 車両重量:1580kg 駆動方式:フロントエンジン・オールホイールドライブ(AWD)エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ 総排気量:1998cc 最高出力:225kW(306ps)/5000rpm 最大トルク:450Nm/1750-4500rpm トランスミッション:8速AT サスペンション形式:ⒻマクファーソンストラットⓇマルチリンク ブレーキ:ⒻⓇベンチレーテッドディスク タイヤサイズ:225/40R18 WLTCモード燃費:12.0km/L 市街地モード燃費:8.9km/L 郊外モード燃費:12.2km/L 高速道路モード燃費:14.0km/L 車両価格:630万円
ともあれ、スポーツカーとしての完成度はどちらがが高いかと聞かれれば、M135i xDriveと答えるしかないだろう。
だが、これをもって「M135i xDriveが優れていて、JCWクラブマンが劣っている」という結論には至らないのがスポーツカーの面白いところだ。
好みにもよるだろうが、スポーツカーを操っているという実感はJCWクラブマンのほうが得やすいとも言え、とりわけ低い速度域でも欲求が満たされるのはJCWクラブマンのほうだろう。
いずれにせよ、これだけコンポーネントを共有しながら、ここまで違うキャラクターに作り込んでくるとは、BMWもMINIも天晴れというほかない。
MINI JCW CLUBMAN
全長×全幅×全高:4275×1800×1470mm ホイールベース:2670mm 車両重量:1600kg 駆動方式:フロントエンジン・オールホイールドライブ(AWD)エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ 総排気量:1998cc 最高出力:225kW(306ps)/5000rpm 最大トルク:450Nm/1750-4500rpm トランスミッション:8速AT サスペンション形式:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡマルチリンク ブレーキ:ⒻベンチレーテッドディスクⓇソリッドディスク タイヤサイズ:225/40R18 WLTCモード燃費:12.1km/L 市街地モード燃費:8.9km/L 郊外モード燃費:12.3km/L 高速道路モード燃費:14.2km/L 車両価格:568万円