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迫力と存在感に凄みがある。至高のムルチストラーダ


オンでもオフでも道を選ばぬ機能性を備えるアドベンチャー・スピリット満載。ムルチストラーダの最高峰に君臨するモデルである。価格は約300 万円に迫り、撮影車に装備されたオプションのアクセサリーパッケージを加えると、ゆうに330万円を超える。そんな価格設定も含め、至高の逸材を求めるユーザーには目が離せない1台だ。




REPORT⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru)


PHOTO⚫️山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

※:アルミサイドバッグや各種プロテクションとサブランプ等はオプション

◼️ドゥカティ・ムルチストラーダ1260エンデューロ.......2,880,000円

サンド......2,921,000円
ドゥカティ・レッド.......2,880,000円


 欧州のライダーには(もちろん一部の話だが)地中海をわたり大自然が残るアフリカの地を旅して見たいと憧れを抱く人が多いそう。実際、そんなツアーに参加して夢を実現するライダーも少なくないと聞く。


 ムルチストラーダ1260エンデューロはそんなシーンに相応しい至高の道具として君臨する。


 


 大きなギャップにも対応できる実行ストロークの長い前後サスペンション。ワンチャージで長距離を走る航続距離の長さ。野営等のサバイバル道具を携えて行ける積載収納性を備えて快適に冒険旅行できる機能性が追求されているのである。




 基本的には1260Sと共通。スチールパイプ製トレリスフレームに搭載された1262ccテスタストレッタDVT エンジンも同じだ。ただ吸排気系は専用チューニングが施され、マフラーはカーボン・テールパイプではなく、アルミ製テールパイプのステンレススチール製。950Sと同様な薄型楕円断面形状がマッチされている。


 DQS(ドゥカティ・クィック・シフト)標準装備のミッションは6速でギヤレシオも共通だが、ドリブンスプロケットが40丁から43丁へと低められ、中低速域での出力特性を重視。重装備にも負けないスロットルレスポンスに対応している。


 


 足まわりにはフロント19/リヤ17インチサイズのチューブレス軽合金スポークホイールを採用。ピレリ製スコーピオン・トレイル2を履くが、スコーピオン・ラリーの装着を選択することもできる。


 DSS (ドゥカティ・スカイフック・サスペンション)はストロークが15mm伸ばされ、ホイールトラベルで185mmを稼ぎだす。その分シート高も高いが465mmもの渡河高が確保されている点も見逃せない。


  1260Sにも採用されているが、VHC(ビークル・ホールド・コントロール)の装備で、最大24.5度の斜面でもブレーキ圧がキープされてバイクが後退することなく発進操作が楽に行える。                 




 そして何と言っても絶対に見逃せないのが30Lという大容量ガソリンタンクを備えていることだ。アドベンチャーツアラーとして、航続距離の長さは命を守る必須アイテムだ。同時にそれを誇らしげに象徴しているのである。

渡河高465mm。これぐらいの水深なら水の中でも走る事ができるという、おおよその目安である。

旅先で、ついつい舗装路を外れて見たい気にさせられる。

 のっけから正直な気持ちを吐露すると、筆者はこの手のバイクが嫌いじゃない。むしろそそられてしまうタチである。ツアラー道具としての機能性に優れている点はもちろん、見知らぬ地を旅して見たいという願望に応えてくれそうな気がしてくるからだ。


 ただその一方で冷静な目は、この豊かな性能とその実現に伴った大きなサイズを使いこなす技量が果たしてあるのか? それを活用できるステージを走る機会を持つ事ができるのだろうか? と自問自答し、頭の中で天秤にかけてしまう自分がいる。


 


 その結果「欲しいけど買わ(え)ない」という結論で今日に至っているのである。


 


 さて、前置きが長くなってしまったが、今回この試乗車に手をかけた時、アレッ?っと少し驚いた。かすかな記憶だが、先代の1200エンデューロの時は、バイクに股がらずに左足をステップに乗せ走り出しながら股がった事を思い出したからだ。


 ハンドル位置も若干低くなったようで、今回は迷わずシートに股がっていた。足つき性は写真で示す通りギリギリの爪先立ち。それでも平坦路を進む限り、バイクを支える事への不安はほとんどない。せいぜい背筋をきちんと伸ばして確実に地面を捉えようと用心する程度である。


 1200エンデューロの時は路肩の歩道等、踏み台になる場所を探したり、できるだけ停止しないで済むような走りを心がけたものだが、それよりは確実にフレンドリーな乗り味に改善されていたわけだ。


 


 個人(体格)的な感覚だが、普段使いでも許容できるレベルではないかと思えた。これが正直なファーストインプレッションだ。後でスペックデータを調べると200mmあったホイールトラベルが185mmになっている。もちろんそれでも1260Sよりは長く、普段使いの舗装路走行でも悪路通過時の作動(ピッチング)具合に落ち着きがある。


 つまりオフロード性能をどこまで追求するか!? それを若干控えてでも普段使いの親しみやすさを向上させている所が新鮮なポイントと見た。


 おそらく賛否両論喧々諤々、意見は色々だろうが、ハッキリ言って日本で乗る限り、少なくとも身長170cm以下のライダーにとって、この進化は大正解だと思う。説明するまでもなくこれでツーリングする多くは舗装路メインだからである。


 


 30Lビッグタンクの存在を両膝の前方に感じながら遠くを目指す時、目線位置が高く前方に広がる視界の広さが心地よい。車重も好影響するスタビリティに富む乗り心地も実に快適である。悪路でも峠の切り返しでも、軽く扱える操作性の中に、動き出しの穏やかな挙動に終始する落ち着きが感じられたのも好印象だ。


 走りながら、頭の中で妄想が広がり、これを手に入れたら、少なくても1週間の休暇を取る必要があるな!等と勝手な想いと夢が広がっていくのである。正直それも楽しいチャームポイントである。




 一方で現実的な懸念材料をあげておくと、初めての狭い林道に入っていくのはちょっと躊躇されるかもしれない。実際によくあるケースだが、行き止まりに遭遇した時とそんな場面を想像すると、果たしてすんなりと向きを変えて無事に戻ってこれるかどうか、立ちゴケの心配も含めて不安になるからだ。


 もちろんこれはムルチストラーダに限った話ではないのだが、現実問題としては結構見過ごせない悩みの種なのである。


 


 とは言え、ドドーッと遠くまで快適にワープできる快適性は抜群。大きく重いサイズ感に感謝したい気分になることは請け合いだ。余力タップリなLツインエンジンの太く豪快な噴き上がりと中低速域で粘りを感じさせる扱いやすいスロットルレスポンスも秀逸。電子制御サスペンションやスイッチ周りのイルミネーション等、プレミアムな1台として、誇れる存在である点も間違いない。




 ちなみにローギヤで5000rpm回した時のスピードは、メーター読みで43km/hで950Sよりも低い。言い換えると駆動トルクは最強だ。また6速トップ100㎞/hクルージング時のエンジン回転数は約3800rpmで、1260Sより2次減速比が低い分、少し高めとなる。




 結論を言うと、経済的にも気持ちにも大きなゆとりを持つアドベンチャーライダーにとって、1260エンデューロは、間違いなく価値ある魅力的な選択肢のひとつなのである。

⚫️足つき性チェック(ライダー身長168cm)



シート高は860mm。ご覧の通り両足は完全に爪先立ちとなる。片足で支える場合でも踵までは接地できず、そうするにはシートの肩の部分に尻をずらす必要があった。


⚫️ディテール解説

ムルチストラーダ・シリーズ一連の個性的なフロントマスク。鳥のクチバシをイメージさせるデザインだ。LED式マルチライトは眼光鋭く前方を睨む他、両端には車体の傾きに応じて点灯するコーナリング・ランプも装備されている。

φ48mmの倒立フォークはフルアジャスタブルタイプで電子制御される。ドゥカティ・スカイフック・サスペンション(ESS)EVOを装備。ダブルディスクローターはφ320mm。ラジアルマウントされた油圧キャリパーはブレンボ製対向4ピストンのM4.32モノブロックタイプだ。

搭載エンジンは水冷のテスタストレッタDVT。ディアベルと同じ1262cc。可変バルブタイミング機構とデュアルスパーク方式が採用されている。

右側に出された1本マフラーはステンレススチール製。排出口はツインテールタイプ。幅がスリムにデザインされた楕円断面形状は950と同様。大きなパニアケース搭載でも干渉が少ない。

両持ちのアルミニウム製スイングアームにはフルアジャスタブルのモノショックをマッチ。フロントサスペンションと同様、統合電子制御される。

先代の1200エンデューロと比較して少し低めにセットされたテーパードタイプのパイプバー・アップハンドル。フロントスクリーンは手動で簡単に高さ調節できる。

ハンドル左側の各種スイッチ。グレーの左側シーソースイッチはライディングモードやサスペンションのセッティング切り替えを担う。対称に位置する右側はオートクルーズコントロール用のスイッチだ。夜間はスイッチ周辺や文字がイルミネーションで綺麗に浮かび上がる。
右側は四つのスイッチが縦に並んでいる。一番上のグレーボタンはグリップヒーター用。赤いのがエンジンキルスイッチ、グレーの丸ボタンは始動用セルスタータースイッチ。そして一番下がイグニッション(メイン)スイッチだ。


5インチサイズのTFTカラー液晶ディスプレーを搭載。速度やエンジン回転計を始め、多彩な情報表示がなされる。コントラストのしっかりした画面はなかなか見やすい。各種モード表示はもちろん、その内容も多彩に対応してくれる。

多彩な情報表示の一例。ハンドル左手モードスイッチの下側を長押しするとこの画面が登場する。切り替える事で、乗車人数や積載荷物に応じた荷重設定変更が簡単にできる。電子制御サスペンションならではの便利機能である。
モードスイッチの中央を長押しするとライディングモードの選択画面が現れる。基本的に4種のモードが選べるが、こだわり派にはさらに深い階層に入って好みの設定組み合わせができる。


赤いステッッチが入れられた上質な雰囲気が漂う。十分な厚みと腰のあるしっかりした座り心地のシート。前後セパレート式で、後席はキーロックの解除で脱着できる。
リヤのシートクッション下部にはETC機器を収納できるスペースがある。またゴムキャップ付きの12Vアクセサリー電源ソケットと、USB電源ソケットも標準装備されている。


専用サイドバック(オプション)用取り付けステーの組み込まれたリヤ周り。右側はマフラーの干渉を避けるデザインだ。

角形デザシンのシンプルなアルミニウム製サイドケース。前方ヒンジ部分も脱着できる。グリップヒーター等を含めたパッケージオプション設定されている。専用ステーには簡単に脱着でき、キーロックでセキュリティも確保される。

グンと膨らみの大きな燃料タンクデザイン。その容量は30Lと巨大。長距離(冒険)ツアラーとして心強いポイントだ。

◼️主要諸元◼️

シート高:860mm(オプションシート:840/880mm)


軸間距離 :1,592mm


渡河高(水深):465mm


乾燥重量:225kg


車両重量:254kg


燃料消費率:5.5L/100km(18.2km/L)




原動機型式:テスタストレッタDVTデュアルスパーク


原動機種類:水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ(デスモドロミック可変タイミング)


気筒数配列:L型2気筒


総排気量:1262cc


内径×行程:106.0mm×71.5mm


圧縮比:13.0:1


最高出力:116kW(158ps)/9,500rpm


最大トルク:128Nm(13.1kgm)/7,500rpm


始動方式 :セルフ式




燃料タンク容量:30L(無鉛プレミアムガソリン指定)


吸気・ボッシュ製電子制御燃料噴射、楕円スロットルボディ(φ56mm相当)


点火方式:デュアルスパーク




1次減速比/2次減速比:1.840/2.867


クラッチ形式:湿式多板 油圧セルフサーボ/スリッパー・クラッチ機構付


変速装置/変速方式:6速


変速比:


 1速:2.466 


 2速:1.764 


 3速:1.350 


 4速:1.090 


 5速:0.958


 6速:0.880


フレーム形式:スチールパイプトレリスフレーム


キャスター/トレール:25°00′/112mm


タイヤサイズ(前/後):


 120/70 ZR19(チューブレス)/


 170/60 ZR17(チューブレス)


制動装置形式(前/後):


 油圧式ダブルディスクブレーキ(ボッシュ製コーナリングABS)


 油圧式シングルディスクブレーキ(ボッシュ製コーナリングABS)


懸架方式(前/後):テレスコピック/アルミニウム製両持ち式スイングアーム


ホイールトラベル(前/後):185mm/185mm


乗車定員 :2名

◼️ライダープロフィール

元モト・ライダー誌の創刊スタッフ編集部員を経てフリーランスに。約36年の時を経てモーターファン バイクスのライターへ。ツーリングも含め、常にオーナー気分でじっくりと乗り込んだ上での記事作成に努めている。(※:写真は1260S)

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