ポルシェ初のフル電動スポーツカー、「タイカン(TYCAN)」。スポーツカーの雄たるポルシェがプライドを賭けて開発した電動スポーツカーだけに、そこに投入されたテクノロジーは、想像を遥かに超えるものだった。ポルシェ・タイカンのテクノロジーを徹底解説する。最終回のテーマは「充電技術編」だ。
TEXT◎世良耕太(SERA Kota) PHOTO &FIGURE◎PORSCHE
タイカンを日常的に使えるEVとするために
800V充電システムのメリットを改めて説明しておこう。出力は電流×電圧で決まるので、電圧が2倍になれば、電流は2分の1になる。電流は電線の断面積を決めるので、電流が小さくなれば電線も細くて済み、軽量化につながる。タイカンにとって重要なのは、高電圧化によって急速充電が可能になったことだ。400Vの急速充電器では150kWが限界(日本のCHAdeMO=チャデモ方式は50kWが一般的)だったが、800Vにすると270kWでの充電が可能になる。ポルシェは将来的に500kWまで見込んでいる。日本では、CHAdeMO規格150kWの急速充電器を整備していく予定だ。
270kWでの充電が可能だといっても、常に270kWの出力を出しているわけではない。バッテリーのダメージを避けるため、SOC(充電状態)に応じて制御する。例えば、SOC5%から80%まで充電する場合、40%付近でピークの270kWに到達し、それ以降では出力を落としていく。
バッテリーの充放電は化学反応なので、温度に敏感だ。マップは、10〜15℃の低温で急速充電を行なうとダメージが大きく、30〜35℃ならダメージを小さく抑えられることを示している。30℃がバッテリーにとってのスイートスポットなので、タイカンはナビシステムと連動したチャージングプランナーという機能を搭載し、急速充電が必要になるタイミングでバッテリーの温度が30℃になるよう調整する。急速充電ステーションでの充電時間を最短で済ませるためだ。
タイカンは左右フロントドアの前方にそれぞれ、充電ポートを備えている。一方が急速充電用のDC(直流)ポート、反対側が普通充電用のAC(交流)ポートだ。日本に導入される仕様は、右側がCHAdeMO(急速/DC)、左側がタイプ1(普通/AC)である。AC充電も地域によって仕様が異なるが、110Vなのか220Vなのか、単相なのか、2相なのか、3相なのかは、車載充電器側で自動的に検知する。
AC充電の出力は最大11kWで、フル充電に要する時間は9〜10時間。270kWで急速充電した場合は、SOC5〜80%の充電が最短で22.5分である。急速充電器の仕様によって、充電時間には22.5分から約3時間までの幅が生まれる。
ポルシェは、「充電パターンの80〜90%は自宅。日本でもそうなる」と見込んでいる。自宅での充電に関しては、無料でホームチェックを行なうプログラムを導入する予定。資格を持った技師が家を訪問し、専用充電器を適切に設置するプランを提案する。充電の管理はスマホから遠隔操作することが可能。家電の消費電力が高くなる時間帯は、充電電力量を自動的に下げる機能を備える。
充電ポートのフラップは電動開閉式だ。フラップ横のジェスチャーセンサーに指をかざすと、自動的にフラップが開く。フラップはボディの内側に収納され、外に張り出さないのも特徴。冬季にフラップが凍りついた場合は、これを検知し、モーターのトルクを20%高めて確実に開くようにした(テストを繰り返した)。