ポルシェ初のフル電動スポーツカー、「タイカン(TYCAN)」。スポーツカーの雄たるポルシェがプライドを賭けて開発した電動スポーツカーだけに、そこに投入されたテクノロジーは、想像を遥かに超えるものだった。ポルシェ・タイカンのテクノロジーを短期集中連載で徹底解説する。第一回は「コンセプト編」 TEXT◎世良耕太(SERA Kota) PHOTO &FIGURE◎PORSCHE
ポルシェの戦略&ロードマップ 会場に置かれたタイカンのカットモデル
PORSCHE TAYCAN
ワークショップは中国・上海で開催された。中国はタイカンの重要なマーケットになる ポルシェは同社初のフル電動スポーツカー「タイカン」を2019年9月4日に発表した。発表に先駆けてアメリカ(アトランタ)、ヨーロッパ(ドイツ)、中国(上海)の3拠点で同時に、「テクノロジー・ワークショップ」と題する技術説明会を開いた。筆者は中国のワークショップに参加。そこで得た情報をもとに、タイカンの生い立ちと投入された技術を項目別にまとめていこう。
従来のポルシェの2本柱、「内燃機関のみを搭載するモデル」「プラグインハイブリッド」に続く3本目の柱が「ピュアEV」だ。その最初がタイカンになる
ポルシェがいう「4本柱のプロダクト戦略」ライフスタイル、ベイシス、ブランドイメージ、未来のうち、未来が「電動化」にあたる
コンセプト:デザインと機能を両立させた、毎日の利便性を備えたスポーツカー 「ポルシェの伝統は、毎日の利便性を備えたスポーツカーであること。そして、デザインと機能を両立させていること。これらの考えは、タイカンのベースになっている」 タイカンの開発責任者を務めるロバート・マイヤー(Robert Meier, Director Complete Vehicle Product Line Taycan)は、このように説明した。世の中が内燃機関から電動化に移行しているのは間違いないが、マイヤーは、いや、ポルシェは完全移行には時間がかかると思っている。ポルシェとしては、内燃機関(2018年9月にディーゼルエンジン搭載車の廃止を決定。ガソリンエンジンに一本化した)とプラグインハイブリッド(PHEV)を持ちながら、電気自動車(EV)をラインアップに加え、地域によって異なるニーズに応えていく考えだ。 すなわち、内燃機関(ガソリンエンジン)、PHEVに次ぐ、3本目の柱にEVを位置づけるのがポルシェの商品戦略である。の製品ラインアップの中心にあるのは、言うまでもなく911だ。ブランドのイメージリーダーである。一方で、マカンやカイエンのようなポルシェのセールス上のベースとなるモデルがあり、パナメーラのようにエモーションに訴えるモデルもある。タイカンはポルシェの「未来を象徴するモデル」との位置づけだ。
モーターはPMモーター、800Vの高電圧システム、93.4kWhの大容量バッテリー、2速トランスミッションなどタイカンに投入された最新テクノロジー
タイカンの開発責任者を務めるロバート・マイヤー(Robert Meier, Director Complete Vehicle Product Line Taycan) 未来を象徴するなら現実離れしていいかというと、そうは考えなかった。冒頭に記したように、「デザインと機能を両立させた、毎日の利便性を備えたスポーツカー」であることにこだわった。その結果が、4ドアサルーンである。既存のパナメーラと競合しないよう、(ボディサイズ面で)ひとつ下のクラスに設定した。また、アクティブなライフスタイルを送るカスタマー向けにクロスツーリスモの追加を予告しており、2020年末までにラインアップに加わる予定だ。
ポルシェの現行モデルをボディタイプとサイズごとに分類したポートフォリオ。タイカンはサルーンに分類されるが、パナメーラとの競合を避けるためひとつ下のセグメントに落ち着いた。あくまでもポルシェの社内でのカテゴリー呼称だろう。一般的な分類よりそれぞれ1クラスずつ小さい呼称になっている。通常であれば、カイエンはDセグ、マカンはCセグ、タイカンはDセグに分類されるはずだ
911とパナメーラとタイカンを重ねた図。フライライン(Flyline)と呼ぶ、フールからリヤにかけての流れるようなラインは911と相似形。パナメーラとの比較では、リヤオーバーハングの違いが顕著。体感はボンネットフードが低く抑えられている
タイカンの上面視。タイカンはパナメーラのEV版ではなく、まったく新しいプラットフォームを使う