都会派SUVなどと言われてはいるが、そこはアウディである。やはり長距離を、長時間に渡って走り続けてこそ、本領は発揮される。ニッポンの原風景に出会うため、Q2 1.0TFSIで越中を目指した。
TEXT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
PHOTO●小林直樹(KOBAYASHI Naoki)
※本稿は2017年6月発売の「アウディQ2のすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
都会派であって都会派に非ず───ツアラー性能を証明する旅
アウディを買ったら、遠くに走りに行きたい。都会派のイメージの強いブランドであり、それは洗練されたデザインはもちろん、彼らの商品企画や販売戦略の結果でもあるはずだが、その一方でちょっとした誤解も生んでいるような気が個人的にはしている。
ピークパワーよりもドライバビリティを優先させたパワートレーンや、しっかりと作り込まれたシャシーまわり、そして手抜きのないシートなど、アウディの底力はドライバーが過酷な状況に追い込まれたときほど明らかに表れる。
これまでの経験から言えば、アウディは長距離ドライブを得意としたバカンスエクスプレスなのだ。だからそのアウディのなかでも少々異端児のような存在のQ2が、果たしてその法則に当てはまるのか否か、クルマ好きとして気になってしまうのは当然だ。
目的地は日本海を望む北陸有数の景勝地、富山に決めた。往復約1000㎞で、一泊二日のドライブとしてはちょっと張り切った距離だが、Q2のツアラー性能を試すにはこれぐらいがちょうどいい。旅の伴侶は直列3気筒ターボユニットを搭載する1.0TFSIスポーツである。
東京は新宿でカメラマンと合流し、練馬ICから関越自動車道に入る。1.0ℓと聞いて非力さを心配する人もいるかも知れないが、信号からの発進加速にも、高速道路での追い越し加速にも不満は一切覚えない。参考までに、筆者の体重は75㎏、カメラマンの体重は68㎏、カメラ機材を含めた荷物の総重量は約30㎏である。エアコン設定温度は全行程を通して摂氏22度に固定した。
ダウンサイジングターボとロボタイズドMTもしくはDCTが出始めの頃に気になっていたのは、ETCレーン通過時のように「極低速まで減速しつつも止まり切らず、一転して力強い加速を求める」ような状況で、アクセルペダルに対する反応が遅れて失速してしまう場面が多々あったことだ。僅かに顔を出すターボラグと、トランスミッションの制御の迷いが重なっての現象だと思われるが、最近はアウディに限らず多くのメーカーがこの弱点を克服している。とくに先駆者であるアウディの熟成は著しく、もはやそんな現象があったこと自体、新座の料金所をくぐる時点では完全に忘れていた。
一応、燃費を計ることにはしていたが、減速から加速への移行が大排気量車の如くスムーズかつ力強いので、そのまま勢いに任せて前走車を何台かパスする。
助手席のKカメラマンは「速いねぇ。これって最近ハヤリのダウンサイジングターボでしょ。2.0ℓみたいな加速だけれど、実は1.6ℓぐらいだったりするからスゴイよね」などとトボけたことを宣っている。だから1.0ℓだっつーの。
「は?」
だから3気筒ですよ3気筒!……まぁ、確かに3気筒の1.0ℓだとは到底思えない。加速もそうだが、振動の少なさも静粛性も、まったくもって4気筒といっても通用するレベルだ。1.0ℓのエンジンが1.3tのボディを前走車を蹴散らす勢いで引っ張り上げる。ほんの10数年前には想像すら出来なかったことだ。
思いのほか速度が出てしまったので、慌ててアクセルを戻して平常運転に移行する。わざとらしい省エネ運転をするつもりはないが、無法者になる必要もないだろう。
100㎞/h巡航時のトップギヤの7速でのエンジンスピードは2250rpmで、車内の空気はひたすら平穏だ。「3気筒でこの快適さなら、もう6気筒とか8気筒とか必要か?」などと達観した気分になるが、いざ6気筒や8気筒に乗ると、やっぱりマルチシリンダーに限る、などと思ってしまうのだからクルマというものは奧が深い……のか、自分が単純なだけなのか……。
藤岡JCTからは上信越自動車道に入り、新井ハイウェイオアシスで昼食をとった後、上越JSTから北陸自動車道を西に針路をとる。練馬ICから休憩も含めて5時間半、400㎞を経て富山ICに到着した。燃費は17.0㎞/ℓだった。
本州の最もブ厚いところを横断したため、高速道路とはいえ起伏も激しく、燃費に優しいステージだったとは言い難い。登った分だけ下りもあったわけだが、他車がいる状況のなかでは思う存分に滑走できるはずもなく、登りで悪化した分を下りで完全に取り戻せるわけではない。そう考えると、この数字はかなり優秀と言ってよさそうだ。
富山ICから最初の目的地である越中八尾までは市街地を走る。アイドリングストップからの再始動時にブルルンッとエンジンが勇ましく揺れ、今回のドライブで初めて3気筒であることを意識した。
おわら風の盆で知られる越中八尾は、なにはともあれ風情に溢れる旧市街が一番の魅力である。とくに約600mに渡る一直線の古い街並みは圧巻だ。無粋な電線なども隠され、徹底して街の景観が美しく保たれている。さらに驚かされるのは、そのほとんどが一般の住宅として使われていて、お土産屋はもちろん、飲食店なども見当たらないこと。まったくもって観光地化されていないのだ。もちろん通りを一本外れれば商店街もあるのだが、この目抜き通りには俗っぽさがまるでない。
そのうえ、住民の人懐っこさにも癒される。下校途中の小学生は「こんにちは」と元気に挨拶してくれるし、通りがかりのおじさんは「かっこいいクルマだねぇ。新車かい?」と声をかけてくる。ふと見ると、Kカメラマンもお爺さんに話しかけられている。「すごいカメラだな。そのレンズは何㎜だ?」
古き佳き日本の姿がそのまま残っているのである。
こういう名所旧跡でのクルマの撮影は、どこか後ろめたい気持ちになるというか、雰囲気をぶち壊さないか、地元住民や観光客の邪魔にならないか、とにかく気になって神経を擦り切らせてしまうのが常なのだが、みんながみんな親しげに接してくれるものだから、ついつい甘えて長居してしまった。
そんな心温まる八尾の旧市街を後ろ髪引かれる思いで後にし、第二の目的地である雨晴海岸に向かう。
夕方の帰宅ラッシュも重なったのか、交通量もそこそこ多いなか、1時間とちょっとで雨晴海岸に到着した。ここは富山県越しに見る立山連峰の景観が有名で、世界に三ヵ所しかないと言われる、海越しに3000m超級の山脈が見られる場所なのだという。
その三ヵ所というのも諸説あり、実は本当に見られるのはこの雨晴海岸だけ、という見方も最近は有力らしい。山脈でなければ三保の松原や大瀬崎や戸田から見える富士山も入るはずだが、いずれにせよ、国土のかなりの割合を急峻な山地が占め、海岸線も入り組んでいる日本ならではの風景と言えるだろう。
実は何度かこの辺りを訪れていて、富山市内を通過している際に立山連峰がくっきりと見えたことは一度あったものの、いざこの海岸で撮影しようとしたときは、快晴だったのにもかかわらず中国大陸からの黄砂に阻まれてしまった。
今回も到着時はうっすらと雲が掛かっていたのだが、徐々にその姿が現れ、しばらくすると夕陽に照らされてハッキリとその姿を拝むことが出来た(写真は次ページを参照)。あまりの迫力にちょっと後ずさりしそうになるほどである。世界で指折りのWRCフォトグラファーとして知られるKカメラマンも圧倒された様子で、南米でもアフリカでもこんな山の姿は見たことがないと興奮気味である。
沈みゆく夕陽とともに写真の雰囲気も刻々と変化する。どのタイミングでどれだけ綺麗な画が撮れるかわからないので、日没まで海岸で撮影し続ける。陽が完全に暮れたのを待って、宿へ向かった。
期待以上の燃費性能───Q2ならどこまでも行ける
翌朝は前日よりもさらに立山連峰がクッキリと姿を現したため、朝食もそこそこに再び雨晴海岸に向かう。上の写真は初日ではなく、この二日目の朝に撮影したものだ。
撮影を終え、燃費計をリセットする。前日の富山ICからここまでの市街地での燃費は14.8㎞ /ℓだった。撮影時も含まれるため、これは極めて優秀な燃費と言える。走行シーンの撮影時はカメラマンの指示に即座に応じるために低めのギヤに固定することが多い。一方で置き撮影には微調整が必要で、ちょっと動かしては止め、を繰り返すのだ。だからどんなクルマであろうとも撮影中は燃費計の数字がみるみる悪化する。その結果での14.8㎞/ℓなのだ。
氷見の漁港などをサクッと散策した後、氷見ICから能越自動車道に入る。そのまま東海北陸自動車道に接続し、五箇山ICで降りる。
合掌造り集落で世界遺産に指定されている五箇山だが、圧倒的な規模を誇る白川郷と比べると地味な印象は拭えない。その地味さがむしろ素朴で味わい深いのではと期待したのだが、五箇山の中心地である菅沼集落は、いかにも観光客向けの箱庭みたいで肩透かしを食らった。合掌造りそのものは相変わらず圧巻なのだが、店舗の看板とか、通りの花壇とか、まわりの演出がどことなくテーマパークっぽいのだ。ちなみに左上の写真は、菅沼集落よりもインターチェンジ寄りにあるもうひとつの小さな集落で撮ったものだ。
五箇山からは飛騨清見ICまでのインターチェンジふたつ分だけ東海北陸自動車道を使い、そこから国道158号線で松本に向かう。山岳路でのQ2の身のこなしは痛快そのもので、長時間ドライブの疲れも眠気も吹き飛ぶ。途中のドライブインで名物の高山ラーメンをササッと食し、足早にコクピットに戻る。
安房峠こそ旧道ではなくトンネルを通ったものの、高山から松本という険しいコースだったにも関わらず、16.6㎞/ℓという燃費を叩き出したのも驚きだ。僅かに高速区間も含んでしまってはいるが、それでもなかなか出せる数字ではない。
松本ICに着けば、あとは長野自動車道と中央自動車道で東京を目指すだけだ。安房ルートで俊敏なハンドリングを味わった直後だけに、高速域での直進安定性が際立って感じられる。軽く手を添えているだけで矢のように視線をトレースしてくれるのはいかにもドイツ車だ。取材車両が履いていたミシュラン・プライマシー3との相性もいいのか、目地段差を越える際の突き上げも角が丸められ、とにかくリラックスして走り続けられる。
シートはコンパクトなボディに似合わず大振りで、身長174㎝で肩幅やや広めの筆者にはバツグンのフィット感だった。時折アダプティブ・クルーズコントロールを使用することで右足の負担を軽減できたことも相まって、身体のどこにも疲労や痛みを感じない。
松本ICから高井戸ICまでは全体的に下り傾向だったため、この区間では21.1㎞/ℓというすばらしい数字を叩き出した。練馬ICからの総合燃費は17.6㎞/ℓとなった。JC08モード燃費は19.8㎞/ℓだから、達成率は89%である。大人2名乗車かつ荷物満載で、険しい山々を越えてきたことを考えれば大満足の数字だ。高速燃費もすばらしいが、市街地や山岳路での落ち込みが少なかったことのほうが印象的だ。
もはやニッチではなく、コンパクトカーのメジャースタイルになりつつあるクロスオーバーSUVだが、どこに軸足を置いているのかは各メーカー、各モデルによって違うから面白い。今回の旅を終え、少なくとも筆者にとってアウディQ2は、タフで快適なバカンスエクスプレスであることが確定した。