どれほど技術が進化しても、法規や市場環境の変化など様々な要因が影響するため、最新のモデルが最良とは限らないのが、クルマの面白い所。さりとてモデル末期のクルマは、熟成が進んでいるとはいえ、その後現れる新型車で劇的に進化する可能性を考慮すると、実際に購入するのはなかなか勇気がいる。
そこで、近々の販売終了またはフルモデルチェンジが確実視されている、モデル末期の車種をピックアップ。その車種がいま“買い”か“待ち”かを検証する。
3台目も同じく、新型ではプラットフォーム一新が確実視されているホンダのコンパクトカー「フィット」。そのスポーティグレード「RSホンダセンシング」6速MT車に、都内の首都高速道路~東名高速道路から箱根のワインディングに入り小田原厚木道路経由で都内に戻る、約300kmのルートを走行した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、本田技研工業
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実車を見ずとも内外装の写真を見ただけで「これはイイ! 間違いなく売れる!」と直感するクルマは、ごく稀に存在する。その1台が、2001年6月に発売された初代フィットだ。
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老若男女問わず好まれそうな、丸基調のポップかつ合理的なワンモーションフォルムとインパネデザイン。新開発1.3LエンジンとCVTがもたらす10・15モード燃費23.0km/Lの低燃費。そしてセンタータンクレイアウトがもたらす、小型車離れした室内空間とユーティリティ。
実際に初代フィットは、当時として過去最速のペースとなる約6ヵ月という短さで、累計販売台数10万台を突破。2007年12月には同じく100万台を突破する大ヒット作に成長している。
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しかしながらフィットもトヨタ・ヴィッツと同様に、2007年10月発売の二代目、2013年9月発売の現行三代目とも、ホンダとしては保守的な、良く言えばスポーティ、悪く言えば要素が多く煩雑なデザインとなっていった。
それでもセンタータンクレイアウトがもたらす圧倒的なビハインドは、今もってなお譲ることなく、クラストップレベルを堅持している。
筆者は初代フィットを2回、初期型の1.3L車と中期型の1.5L車を所有しており、当時家族1人の引っ越しをそれ1台で済ませた経験もあるため、その並外れた室内空間の広さとユーティリティの高さは熟知していると自負している。
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では、それが最新のフィット、その中で最もスポーティな「RSホンダセンシング」6速MT車では、どのように変化したのだろうか? 結論から言えば、予想を遥かに上回るレベルで、快適かつ官能的なクルマに進化していた。
走り出してすぐに感じるのは、文字通り「隔世の感」を覚える静粛性の高さとフラットライド感。NVHは常にフィットの弱点として指摘され続け、世代交代の際はもちろんマイナーチェンジの時にも必ず大幅にテコ入れされていたポイントだが、三代目のモデル末期にしてようやく熟成の域に達したと言っていい。
実際に2017年6月のマイナーチェンジでは、走りの要となるボディ開口部やサスペンション取付部を中心に補強材追加や板厚アップを行い、ステアリングのベアリング部の剛性をアップ。ダンパーのバルブ構造を変更したほか、メルシート(フロアパネルの制振材)の板厚アップなども実施している。
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ただしその際の加速フィールは至ってリニアで、多くのDOHC VTECエンジンに見られる「ジキルとハイド」的な急変は最早見られない。絶対的なパワー・トルクと最高回転数は遠く及ばないものの、DC5型インテグラ・タイプRやEP3型シビック・タイプR、CL7型アコード・ユーロRに搭載された頃のK20A型エンジンに極めて近い、リニアで扱いやすい加速特性と鋭い吹け上がり・レスポンス、そして甲高いエンジンサウンドがそこにあった。
ただし、インパネが天地に高いうえAピラーが太く傾斜も強く、その広大な室内空間に反して視界は悪く圧迫感もある。そうした設計上の弱点が、交差点への進入やタイトなカーブなどが多い町中でこそ気になったのは事実だ。
1.新型にも「RS」は設定されるのか?
2.新型にもL15B型エンジン&6速MTは設定されるのか?
3.新開発プラットフォームによる走りの進化は?
4.デザインはどうなる?
5.センタータンクレイアウトは継承されるか?
率直に言って1.と2.に関しては、少なくともデビュー当初は希望薄と言わざるを得ない。現在の国内販売の主力は安価な1.3Lガソリンモデルと低燃費な1.5Lハイブリッドで、新型はプラットフォーム一新に伴いこの2本に絞られると思われる。なお後者のハイブリッドは、1モーター&7速DCTの「i-DCD」から2モーターの「i-MMD」に変更されると考えてよいだろう。
3.に関しては、現行シビック以降のホンダ車はどれも並外れたシャシー性能の持ち主ばかりという傾向を信じれば、新型で劇的に進化すると期待できる。一方で4.は、各スクープ記事が一様に報じているテストカーの写真と予想CGを見る限り、ASEAN向けの「ブリオ」に近いものになる可能性が高いだろう。
5.に関しては歴代フィットが堅持してきたコアバリューの根幹をなすものであり、これを棄てることはないと信じたいが、プラットフォームが一新されれば、これすら可能性はゼロではないのだ。
新型フィットのワールドプレミアはズバリ10月23日、東京モーターショーのプレスデイ初日。日本仕様の正式な発表・発売は11月になるだろう。そこから逆算すれば、すでに現行型の生産が終了していてもおかしくない時期。買うならもう迷っている時間はない。
【Specifications】
<ホンダ・フィットRSホンダセンシング(FF・6速MT)>
全長×全幅×全高:4045×1695×1525mm ホイールベース:2530mm 車両重量:1070kg エンジン形式:直列4気筒DOHC 排気量:1496cc ボア×ストローク:73.0×89.4mm 圧縮比:11.5 最高出力:97kW(132ps)/6600rpm 最大トルク:155Nm(15.8kgm)/4600rpm JC08モード燃費:19.2km/L 車両価格:205万920円