80年代に突入すると、国産車の性能は一気にステップアップし、最高速度も200km/hを超える時代を迎える。その性能を支えるエンジンは、新時代の技術が惜しみなく投入されていき、各社の激しい高性能化競争がスタート。次に出るエンジンはどこまで高性能化しているのか、新しいエンジンが登場するたびに、ワクワク、ドキドキした。なかでもトヨタの1G-GTEUは、当時憧れの直6ツインカム24バルブエンジンにツインターボを装着したという、まさに夢のようなエンジンだった。
TEXT●朝岡利道(ASAOKA Toshimichi) PHOTO●桜井淳雄(SAKURAI Atsuo)
1981年に開催された第24回東京モーターショーのトヨタブースに参考出品され、注目されたエンジンがあった。1G-GEU型2ℓ直列6気筒ツインカム24バルブエンジンだ。それも無理はない。このエンジンは、直列6気筒でしかも1気筒当たり4バルブのツインカムヘッドが与えられていたからだ。
今でこそ、トヨタのエンジンはコンパクトカーからミニバンに至るまですべてツインカム4バルブヘッドとなり、ありがたみがすっかり薄れてしまっているが、当時としてはレーシングカーのみが採用するような超高性能なメカニズム。他社では、過去に日産スカイラインGT-R(とフェアレディZ432)に搭載していたS20型2ℓ直6エンジンのみが採用。81年当時では、日産が発表したばかりのFJ20E型エンジンに採用(こちらは4気筒)しているだけだった。
そんな高性能なエンジンが、トヨタの次期新型車に搭載されるというのだから、期待されるのも当然。翌1982年にマークⅡ、チェイサー、クレスタ3兄弟と、セリカXXに搭載されデビュー。最高出力160ps/6400rpm、最大トルク18.5kg-m/5200rpm(ともにグロス値)は、当時の2ℓエンジンとしては最強のスペックを誇った。
が、このエンジンもその後に続くエンジンの高性能化戦争の幕開けに過ぎなかった。1G-GEU型エンジンは、さらに高性能化の道を歩むことになる。
79年に日産がL20型エンジンに日本で初めてターボチャージャーを組み合わせて高性能化を図る。続いて81年には、4バルブDOHCのFJ20E型をスカイラインに搭載し、さらに83年にはFJ20E型にターボを組み合わせたFJ20ET型で190ps(グロス値)という2ℓエンジンとしては超高性能なスペックで登場。さらに翌84年にはFJ20ET型に空冷インタークーラーを装着したより高性能な205ps版を発表しトヨタを引き離す。
しかし、トヨタには1G-GEU型という国内最強の2ℓツインカム24バルブエンジンがある。これにターボを装着すれば形勢は一挙に逆転するのでは。そんな予想を誰もがしたのは当然で、その期待にトヨタが応えたのが1G-GTEU型エンジンだ。85年、トヨタは単にターボチャージャーを装着するだけでなくツインターボチャージャーという日本初の最新技術を搭載して発表。直6ツインカム24バルブツインターボという、盆暮れ正月が1度にやってきたようなエンジンは、185ps/6200rpmの最高出力と24.0kg-m/3200rpmの最大トルクを発生。数値的にはFJ20ET型の205psのほうが高性能に思えるが、こちらはグロス値であり、1G-GTEU型の185psはネット値。FJ20ET型の205psをネット値に換算すると15%程度ダウンすることを考えると、いかに1G-GTEU型が高性能であるかがわかるだろう。
1G-GTEU型エンジンを紹介するにあたって、ベースとなる1G-EU型エンジンから話をすることにしよう。
ご存知のように、1980年代は税制上排気量2ℓ以下の5ナンバー車と排気量2ℓ以上の3ナンバー車では、税金額が3倍程違っていた。そこで、小型車の上限である2ℓエンジンが、一般的に上級エンジンとして据えられていた。トヨタは、2ℓ直6エンジンとして1965年誕生のM-EU型SOHCエンジンを持っていたが、79年にターボチャージャーを装着して145ps(グロス値)を得ていたものの、やはりエンジンの古さは隠せなかった。特に、年々厳しくなっていく排出ガス規制をクリアさせるのが難しくなっていた。そこで、トヨタは1980年に全く新規の直列6気筒エンジンをクレスタに搭載して発表。これがLASRE・1G-EU型SOHC12バルブエンジンだ。
LASREとはLight-Weight Advanced SuperResponse Engineの頭文字をとったもので、軽量で抜群のレスポンスを示すエンジンといったところか。実際、LASRE・1G-EU型は軽快な吹け上がりを示した。
性能面では、最高出力125ps/5400rpm、最大トルク17.5kg-m/4400rpm(ともにグロス値)を発生。クレスタでは10モード燃費で9.8km/ℓと、当時の2ℓエンジンとしてはなかなかの性能をもっていた。
現代的なエンジンの元祖
G型の名前を冠するのは2代目となる1G型は、1980年3月にクレスタに搭載されてデビューした。このG型とS型、A型の3機種を総称してトヨタでは“LASRE”エンジンと呼ぶ。特に省資源、省エネルギー、静粛性を前面に押し出した点が現代的だ。動力性能的にはターボやスーパーチャージャーを装着して出力を変えたモデルを出していたことから、「金太郎飴(どこを切っても同じ)」と揶揄されることもあったが、直6でありながら直4なみのサイズとし、シリンダーブロックなどの主要部品をはじめ各部品の徹底した軽量化で整備重量は154kgと世界トップクラスの軽さを誇った。
型式 1G-GTEU
種類 水冷直列6気筒DOHC
総排気量(cc):1988
ボア×ストローク(mm):75.0×75.0
圧縮比:8.5
最高出力(kW/rpm):136/6200
最大トルク(Nm/rpm):240/3200