2006年、従来のEJ15に比べロングストローク化のほぼスクエアとし新設計された4気筒エンジンがEL15型である。すでにFB型にとって代わられているが、それまでインプレッサのエンジンとして重用された。果たしてどのような特質を備えていたのか。
TEXT:近田 茂(CHIKATA Shigeru)
2006年6月、EL15はスバル・インプレッサのマイナーチェンジを機にデビューした。追加設定された新グレードの1.5Rに初めて搭載されたのである。同社のボクサーエンジン史上初のロングストロークエンジンになったのが最大の特徴だ。
ショートストロークエンジンは、ピストンスピードが抑えられる関係で、高回転高出力の発揮に有利な特性を持っている。クランクが短い水平対向との相性もいい。しかしオーバースクエアも度を過ぎると燃焼効率の低下を招く。そこでバランスの良い出力特性を求め、あらためてロングストロークエンジンのメリットに着目したのがEL15である。低速トルクを膨らませれば、実走行において、おのずとスロットルの開度は小さくなり、実用燃費率の向上も図れる。つまり日常的な幅広い使用環境におけるトータル性能の向上を目指して造られたのが特徴だ。
関連する燃費向上策のひとつとして、新日本石油株式会社と共に、ATFオイルの低粘度化を図ったことも見逃せないだろう。各駆動のフリクションを低減することで、トルクロスは12~20%も低下し、燃費率ではおよそ1%の向上に貢献したという。
それにしてもEL15は、EJ15との比較において、一気に13.2mmものストロークアップである。ちなみにEJ20と比べてもEL15のストロークは4mmも長い。水平対向エンジンの場合、この延長分は左右方向それぞれに伸びる関係で、エンジン幅寸法の拡大が余儀なくされる。しかし、ある程度の舵角も必要となるホイールハウス分を差し引くと、エンジンコンパートメント内のスペースには限りがある。安易に車幅を広げたくない以上、エンジンにおけるコンパクト設計の追求が重要なテーマとなった。ピストンが上下するとき、シリンダーへの側圧は上げたくないためコンロッドの短縮は避けたい。そこで小端からピストンクラウンまでの距離や大端部分の触れ幅をとことん詰めるなどコンパクト設計が徹底された。
新設計されたシリンダーヘッド。圧縮比は若干高く10.1になっているが、指定ガソリンはレギュラーである。コンパクト化されたペントルーフ型燃焼室と、吸気ポートの形状変更に合わせ、ピストンクラウン面の形状も最適化されている。タンブルガス流動を促進し、新気の充填効率が高められ燃費改善やエミッション性能の向上に貢献している。
直4と比較して短いクランクケースを左右から挟み込んでひとつの剛性体を成すシリンダーブロック。高剛性の確保に有利となり、結果的に軽量設計が可能となる。シリンダーは2気筒ずつ左右に分かれるため単体部品重量が軽い点も特徴である。
バルブ駆動は直打式のツインカム16バルブである。カムはコッグドベルトで駆動され、吸気側にはAVS(アクティブ・バルブ・コントロール・システム)と呼ばれる連続可変バルブタイミング機構が採用されている。全回転域にわたり燃焼効率の向上に貢献し、スロットル操作に対してリニアでスムーズなレスポンスを発揮する。
インテークマニフォールドは、各気筒への吸気分岐を等長に配置してあるのが特徴だ。吸気慣性効果を最大限に発揮させている。吸気通路の断面積や長さを最適化し、スロットル通過後はスワールを与えて流入促進を図り、低中回転域のトルク向上と高回転時の出力アップを達成している。
エキゾーストシステムには、等長エキパイを持つ4into1集合排気管が専用開発された。排気干渉を低減し、排気脈動を最大限に活用するデザインだ。キャタライザーはフロントの直後にセカンダリーを装備したタンデムレイアウト方式。後部には17ℓ容量のマフラーが横置きに設置されている。