カワサキ「W1」の1966年式初期型に試乗する機会に恵まれました。カワサキに用意していただいたベストコンディションの車両ですから、71年式「W1SA」に25年間乗り続ける筆者としてはまさに恐悦至極、これ以上喜びようがない気持ちです。それはもう夢心地でした。
REPORT●青木タカオ(AOKI Takao) PHOTO●カワサキモータースジャパン、川崎重工業
W1……1966年式
当時、国産最大排気量を誇ったカワサキのフラッグシップモデルが、カワサキ「W1」です。1965年発売の「カワサキ500メグロK2」のOHV2バルブ並列2気筒エンジンのボアを8mm拡げ、ボア74mm×ストローク72.6mmで、624ccの排気量を獲得。最高出力47ps/6500rpm、最大トルク5.4kg-m/5500rpmを発揮します。
これが「カワサキ500メグロK2」です。ボア66mm×ストローク72.6mmで496ccの排気量、最高出力36ps/6500rpm、最大トルク4.2kg-m/5500rpm。Yカバーを持つ独特のバーチカルツインエンジン、見た目からは大きく変わらないように見えますが、改良型といえる「W1」ではクランクが一体鋳造式から3点組み立て式となり、ニードルローラーベアリングをコネクティングロッド大端部に組み込んで高回転化に対応しました。
「W1」ではオイルポンプの吐出量が増え、シリンダーヘッドのボルト径も28mmから32mmに。径33.5mmだった吸気バルブは36mmに拡大し、バルブスプリングも強化。キャブレター径も27mmから31mmへと大きくなっています。常時噛合式4段トランスミッションは、K2ではロータリー式でしたが、「W1」ではリターン式です。
「W1」はアメリカ市場への進出を考慮し、メッキタンクにキャンディレッドの塗装を組み合わせるなど斬新でした。米国の安全基準に合わせ、ウインカーはひとまわり大きくなっています。初期型が「W2SS」や「W1S」など後継機種と大きく異なるのは、キャブレターを1基しか備えていないことです。
輸出仕様では翌67年発売の「W2SS」から、国内版では68年発売の「W1S」よりツインキャブ化し、最高出力47ps/6500rpmを53ps/7000rpmに、最大トルク5.4kg-m/5500rpmに向上しました。以降は吸気バルブ径をさらに1.5mm拡大し、37.5mmとしています。32.5mmの排気バルブは「メグロスタミナK」から「650RS(W3)」まで変わりません。
ダブワンサウンドに酔いしれる
さて、まずはエンジン始動ですが、言うまでもなくキックスタートオンリーです。メインスイッチを回してガソリンコックを開け、エンジンが冷えていればスクーター(チョーク)レバーを使います。完調のエンジンはキック一発で目覚め、アイドリングも600rpmで安定。いつまでも聴いていたくなる心地よい音色です。
右足のツマ先側で、シーソーペダルの前側を踏み込むと1速に入ります。ガシャンと聞き慣れた、これまたいい音。クラッチを繋ぐのに神経は要らず、乾燥重量199kgの車体がなめらかに発進していきます。
すぐに2速、3速へとギヤを上げますが、右足の操作はツマ先を踏み込んでいくこととなります。シフトパターンはN(ニュートラル)→1→2→3、そして4速となり、トップ4段からのシフトダウンはツマ先で逆にかき上げるか、カカトを使ってシーソーペダルの後ろ側を踏み込んでいけば3→2→1→Nへと戻っていくのです。
足まわりは前後18インチで、「W2SS」および「W1S」以降ではフロントが19インチ化されていますので、ハンドリングが若干ながらクイックな印象があります。ただし、シリーズを通じて言えるゆったりとした大らかな乗り味は変わらず、現代となっては決して大きくない車体ですが、堂々たる気分。カワサキの元祖フラッグシップに乗っていると思うと、ただ愉悦に浸るのでした。
排気音は豪快で歯切れ良く、これぞ「ダブワンサウンド」と酔いしれてしまうのですが、初期型では“モナカマフラー”が備わっていて、後のキャブトンマフラーの勇ましいほどの共鳴音と比べてしまえばジェントルで落ち着いています。ただしそれは比較すればのハナシで、初期型のマフラーサウンドも充分すぎるほどの迫力です。
よく整備された機械式リーディング・トレーリング・ドラム式ブレーキでは、ブレーキングさえも操作が楽しく、奥深いのでした。「K2」の前輪ブレーキはドラム径180mmのシングルカム式2リーディングシューですが、「W1」では200mm径に容量アップされ、2カム式2リーディングシューにグレードアップされています。
最新W800でも感じる大らかで心地よいライドフィール
振動もあり、決して乗り心地がいいわけではないのに、このままいつまでも走り続けたくなるのが、ダブワンの魅力です。そのライドフィールは「W1」にはじまり、99年に復活した「W650」、そして最新型の「W800ストリート」や「W800カフェ」にも受け継がれています。
ミッション別体式のOHVは1974年に生産終了の「650RS(W3)」までですが、360度クランクの並列2気筒という伝統は頑なに守られ、そのDNAがW800にも宿るのでした。50年以上前の元祖に乗り、ますます自分のダブワンが愛おしく思えましたし、最新型W800シリーズへの興味も尽きることがありません。