ボルボトラックのセミトラクター「FH」が大幅な改良を受けた。狙いはドライバーの負担軽減。そのメリットを体感できる試乗会が開催された。イージーな操作感はどのように創出されているのか。
TEXT&PHOTO:萬澤龍太(MFi) FIGURE:VOLVO TRUCKS
トラックの運転手を確保するのが難しいのは、世界で共通した悩みのようだ。ドライバーの運転環境を改善するために各ブランドはさまざまな工夫を車両に凝らし、高付加価値を備えるトラックとして印象付けている。ボルボ・トラックのセミトレーラーであるFHは2018年末に新型となり、内外装に大きな変更は受けていないものの、メカニズムに唯一無二と言えるふたつの特長を備えてきた。ひとつがVDS(ボルボ・ダイナミック・ステアリング)、もうひとつが変速機「I-シフト」のDCT化である。
VDSとは、広義のステア・バイ・ワイヤーと捉えていただければ理解しやすいだろうか。ステアリングホイール側の中間シャフトと、パワーアシストギヤボックス内のシャフトが剛結されずにある程度の遊びを許容する構造とすることで、タイヤからの入力をステアリングホイールに伝達しない。こうすることで轍の進入時や悪路走行時にハンドルを取られることはなく、高速走行時には横風などの外乱を受けても直進し続けるという車両挙動を実現した。
VDSの威力を試すために、テストコースでは3つのメニューを用意。ひとつは車両停止時の据え切り、ふたつ目は凹凸路の極低速走行、三つ目は微速後進である。一般的な油圧式EPSでは、車両停止時の据え切りには結構な操舵トルクが必要だ。それに対してVDS装着車は電動パーキングブレーキを解除すると作動し始め、誇張なしに指一本でステアリングを操作できるようになる。凹凸路はおよそ十数センチのかまぼこ状のゴム板を左右交互に並べたコースで、そこを10km/hの微速で手放し、あるいは指一本の保舵で走行するというもの。路面の入力を受けてキャビンは派手に左右に振られはするものの、クルマはなぜか直進を続ける。最後の後進では「ゆっくりバックしてみてください」とインストラクターに促されて試すものの、何も起こらずに完了。いったい何だったのかと訝るが、じつはセミトレーラーの後進というのは、重量物を牽引している構造ということもあり、まっすぐ進むというのは相当に難しいということが判明。VDSの恩恵に与れた。
つまり、クルマの挙動で最優先されるのはステアリングホイールからの入力。外乱を受けても、剛結されていないシャフトのおかげで無用な反力は受けない。ドライバーが直進で保舵しているなら、システムは何が何でもクルマをまっすぐ走らせるのだ。
操舵トルクの軽さを表現するために、本国チームは「ハムスター・スタント」なる動画を公開。ステアリングホイールに円形のケージをくくりつけ、その中にニンジンで誘導するハムスターを走らせることでトラックを右へ左へ走らせ、九十九折りの悪路を走破するというプログラムで、見事完走している。