新型カイエンの大注目グレード、カイエンターボがついに導入された。550㎰/770Nmを発生する4ℓV8ツインターボを搭載する超高性能SUVだ。対するのはイタリアの雄、レヴァンテ・トロフェオとステルヴィオQ4の2台だ。それぞれの個性が光る3台の超高性能SUVの世界に触れてみたい。
REPORT◉吉田拓生(YOSHIDA Takuo)
PHOTO◉神村 聖(KAMIMURA Satoshi)
※本記事は『GENROQ』2019年4月号の記事を再編集・再構成したものです。
王者カイエンに挑戦するイタリアンSUV
先月号のGOTY(ゲンロク・カー・オブ・ザ・イヤー)の中で、私はただひとりだけ新型カイエンに疑問符を付けた。フルモデルチェンジを経てもなおキープコンセプトを通すカイエンのスタイリングに、メルセデスGクラスほどの「どうしてもこうあらねばならない」という理由を見つけられなかったからである。一気に12台ものキャラの濃いパフォーマンスモデルを試乗した中の1台とは言え、最新のポルシェの存在感が薄くていいはずがない。
そんなカイエンとは対照的に、予想外の角度から私の顎をめがけて強烈なアッパーを放ってきたSUVがいた。マセラティ・レヴァンテ・トロフェオである。デビュー当初のレヴァンテの印象は「シャシーがぎこちない」という以外になかったのだが、最強エンジンを得たトロフェオでは、エアサスのセッティングも含めて見事に帳尻を合わせてきている。ことクルマ好きの視点から見れば、新型カイエンはレヴァンテに劣る? そんな印象が頭を過ったのだった。
とはいえ冷静に考えるならば、590㎰を誇るレヴァンテ最強のトロフェオと340㎰のベーシックなカイエンを比較するのはスペック的に無理がある。と思っていたところにジャストタイミングで登場したモデルが550㎰を誇るカイエンターボだったのである。
さらに今回は500㎰オーバーのスーパーSUV頂上バトルと銘打って、3ℓのV6ターボから510㎰を絞り出すアルファロメオ・ステルヴィオ・クアドリフォリオも加えることにした。進境著しい2台のイタリアンSUVで王者カイエンの実力を推し量ろうという目論見である。
FRのごとき走りを見せるステルヴィオ
バトル当日、ターンパイクまではステルヴィオをドライブした。何しろ初めてなので、少しでも長く乗りたかったのだ。ステルヴィオの外観はアルファそのものだがフロントマスクは少し大味に見える。ドアやリヤゲートの開口部は小さめだが、その分ボディの硬さが否応なしに伝わってくる。すでにジュリア・クアドリフォリオで体験済みのV6ターボはレヴァンテ・トロフェオのV8ターボほどではないが、いかにもマラネロ製らしい獰猛な性格。そう、このユニットはフェラーリV8の2気筒切り落とし版なのである。
カイエンやレヴァンテよりひと回り小ぶりなステルヴィオ・クアドリフォリオは、SUVらしからぬキビキビとした身のこなしを見せ、鋭いダッシュ力で乗り手を魅了する。だが4駆にかまけているとコーナーの出口でテールが振り出しそうになってヒヤリとさせられる。そのドライブフィールはクセのないFR車のそれなのである。フロント側にスタンバイトルクは入っているのだろうが、よほどのことがない限り前輪は出しゃばらない性格と見た。
SPECIFICATIONS アルファロメオ・ステルヴィオ 2.9 V6 ビターボ クアドリフォリオ
■ボディスペック
全長(㎜):4700
全幅(㎜):1955
全高(㎜):1680
ホイールベース(㎜):2820
車両重量(㎏):1910
■パワートレイン
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量(㏄):2891
最高出力:375kW(510㎰)/6500rpm
最大トルク:600Nm(61.2㎏m)/2500rpm
■トランスミッション
タイプ:8速AT
■シャシー
駆動方式:AWD
サスペンション フロント:ダブルウィッシュボーン
サスペンション リヤ:マルチリンク
■ブレーキ
フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:255/45R20
リヤ:285/40R20
■環境性能
燃料消費率(ℓ/100㎞:EU複合モード):—
■車両本体価格(万円):1167
刺激的なV8が魅力のレヴァンテ・トロフェオ
一方マセラティはアルファと対照的な走りを見せてくれた。重量感たっぷりのボディをしっかりとロールさせながら、SUV界随一の刺激的V8エンジンで猛然と加速していく。その際4輪にしっかり駆動トルクを分配して車体を安定させることも忘れない。さらにペースを上げ、いよいよフロントのスリップアングルが大きくなってくると、MSP(マセラティ スタビリティ プログラム)がかなり大胆に内輪側のブレーキをつまみ、ブレーキステアで強引に鼻先を入れていく。結果的にコーナリングラインの帳尻は合うのだけれど、圧倒的なパワーの最終的な処理方法としては少し荒っぽく感じられた。
その点ステルヴィオのコーナー捌きはフロントマスクとは裏腹に繊細で、内輪が微かにスキール音を発する領域になると、リヤデフを挟み込むように配置された多板クラッチのベクタリング効果によって、極めて自然にジワッと曲げていくのだ。てっきりレヴァンテ・トロフェオが挑戦者代表なのだと信じて疑わなかったのだが、いっちょ噛みしてきたステルヴィオもまったく譲らない。
SPECIFICATIONS マセラティ・レヴァンテ・トロフェオ
■ボディスペック
全長(㎜):5020
全幅(㎜):1985
全高(㎜):1700
ホイールベース(㎜):3005
車両重量(㎏):2340
■パワートレイン
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量(㏄):3798
最高出力:434kW(590㎰)/6250rpm
最大トルク:734Nm(74.8㎏m)/2500rpm
■トランスミッション
タイプ:8速AT
■シャシー
駆動方式:AWD
サスペンション フロント:ダブルウィッシュボーン
サスペンション リヤ:マルチリンク
■ブレーキ
フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:265/40R21
リヤ:295/35R21
■環境性能
燃料消費率(ℓ/100㎞:EU複合モード):13.5
■車両本体価格(万円):1990
異次元をひた走る新型カイエン
ではここでパラジウムメタリックのボディが王者の貫禄を湛えるカイエンターボのステアリングを握ることにしよう。今回の個体は現在3モデルが揃うカイエンシリーズの最強モデルであり、ポルシェ広報車の例にもれずオプションてんこ盛り。オプションの価格だけで素のマカンが買えてしまうほどなのだが、リヤアクスルステアリングやスポーツクロノ、そしてポルシェトルクベクタリングプラスといった装備は今回の「スーパーSUV」というテーマに欠かせないように思う。
カイエンターボのインパネのデザイン、操作系は見慣れたポルシェの景色であり、質感は高い。そこに色気を加えているのはトリュフブラウンのレザーでトリムされたインテリアである。内装の質感にまで話が及んでしまうと、約1200万円のアルファと2000万クラスのマセラティ、ポルシェを比較することはできない。マセラティはずいぶんと質を上げ、一方ポルシェは急激に見た目の豊かさに目覚めてきているので、ここは互角ではないだろうか。
SPECIFICATIONS ポルシェ・カイエンターボ
■ボディスペック
全長(㎜):4926
全幅(㎜):1983
全高(㎜):1673
ホイールベース(㎜):2895
車両重量(㎏):2175
■パワートレイン
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量(㏄):3996
最高出力:404kW(550㎰)/5750~6000rpm
最大トルク:770Nm(78.5㎏m)/1960~4500rpm
■トランスミッション
タイプ:8速AT
■シャシー
駆動方式:AWD
サスペンション フロント:マルチリンク
サスペンション リヤ:マルチリンク
■ブレーキ
フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク
■タイヤ&ホイール
フロント:285/40ZR21
リヤ:315/35ZR21
■環境性能
燃料消費率(ℓ/100㎞:EU複合モード):11.9~11.7
■車両本体価格(万円):1855
フレンチのコース料理をちゃんと味わおうと思ったら、料理の間にグラニテを挟んで舌の感覚をニュートラルに戻すべきだが、クルマの場合は旧ル・マン式スタートのように乗り換えた方が違いがよくわかる。
ステルヴィオから乗り換えたカイエンターボは走り出しこそ後ろに誰か乗っているのでは? というくらいズシリと重かったのだが、ペースを上げるほどに重量感が霧散していくのがわかった。エンジンのパンチによってスピードと軽快感を前面に押し出してくるイタリアンSUVに対し、カイエンターボはどこまでも理詰めで攻め込んでいる印象。
V8ターボユニットもGOTYで試乗した3ℓV6のカイエンと比べれば遥かにターボらしさが感じられるが、あまりドラマ性は強くない。上屋の動きがそれなりに大きく「そろそろ限界ですよ! ほら、いいスピードでしょ!」と主張してくるイタリアの2台に対し、ドイツはペースに比例して身のこなしが軽くなるため、危機感なしにけっこうな所まで行けてしまう。これは性格の違いだろうか?それとも根幹のデキがそもそも違うのだろうか?「頂上バトル!」と銘打っては見たものの、今回の3台はまるで個性が異なっている。普段ほとんど国産車に触れない私が言うのもどうかと思うが、レヴァンテとステルヴィオとカイエンターボは、昔のランエボとインプレッサとGT-Rのそれによく似ている。つまりランエボとインプはガチンコだが性格がまったく違い、GT-Rはクラスが違うということ。
というグダグダな例えではオチというか勝負がつきそうにないので、とある上り左コーナーの通過速度を自分なりにチェックしてみることにした。ペースはポテンシャルの8割ぐらい、をこちらが勝手に解釈したテキトーなものだが、なかなか興味深い数字が出た。
実際の速度は秘密(笑)だが、最もスピード感がなかったにも関わらず最速だったカイエンターボ比でレヴァンテはマイナス3㎞/h、ステルヴィオはマイナス6㎞/hだった。ちなみに8割で走ったつもりだが、踏めば踏むほどリヤステアも手伝って旋回能力が高まり、限界が遠のくカイエンの8割が果たしてどこだったのかという点は判然としない。一方、マセラティはピレリのウィンタータイヤを履いていたので大いに健闘した結果と言えるが、ボディの重さで特にフロント側のロールが限界に達し、MSPが入りはじめていたことを考えれば、例えサマータイヤを履いていてもカイエン越えは難しかっただろう。最後にFRの(ような)ステルヴィオは「これ以上はムリ」とはっきりわかったので、8割を超えていた(?)。
スーパーな動力性能とスーパーな価格設定とはいえ、そこはSUVであることも考慮しなければならない。乗車人数や積載量が増えれば3車の速度差というかポテンシャルの違いはさらに開いていくはずだ。ちなみに3車の前後重量配分はカイエンが最もフロントヘビーで、レヴァンテが少しフロントヘビー、ステルヴィオは前後イーブン。スポーツカーなら50対50でいいけれど、SUVは荷物を積んでナンボなのだから、ここでもカイエンの設計が際立つ。
見た目の主張は最小限で、性能的にもアピール下手な感じがするのだが、新型カイエンはひとクラス上の時空をひた走っているのである。近年はライバルがヤンチャな手法でちょっかいを出してきたりしているので、より大人びた方向に成熟することを選んだのかもしれない。
ポルシェ・カイエンの優位性に変化はなかったが、スーパーSUVシーンはこれから最も熱くなっていくカテゴリーだと感じた。