2018年で30周年を迎えたスバルテクニカインターナショナル(以下STI)が、19年3月10日(日)に「STI MOTORSPORT DAY」を富士スピードウェイで初めて開催した。いわゆるファン向けイベントではあるのだが、前々日の3月8日(金)からSuper GT(GT300)とニュルブルクリンク24時間レース参戦車両のシェイクダウンが行われており、報道陣のみならず来場客にもピットが開放された。目を惹く鮫肌(さめはだ)塗装が施されたニュルブルクリンク24時間レースの参戦車両の詳細をお届けしよう。
TEXT●塚田勝弘(TSUKADA Katsuhiro)
SUBARUおよびSTIオーナーと「face to face」で語り合える場を
STIの平川良夫社長は、数多くのスバリストが集結した特設ステージに登壇。まず、想定を超える来場者(来場車)で駐車場への案内がスムーズにいかなかったこと、2019全日本ラリー選手権やGAZOOレーシング86/BRZレースの参戦車によるデモラン、同乗走行の抽選で、長い行列ができたことについて謝罪したうえで、昨年30周年を迎えたSTIとして、オーナーと「face to face」で語り合いたいという想いから、土日(今回は日曜)を選び、今回のイベントを開催しました! と熱く語った。
さらに、ビジネス誌などでカーシェアリングが取り上げられる今、STIは所有する喜びや誇りを持てるクルマを提供していきたいとも力説。
プレス向けに公開されたSuper GT(GT300)とニュルブルクリンク24時間レース参戦車両は、18年から大きくアップデートされている。
アンベールされたニュルブルクリンク24時間レースの参戦車両は、2連覇、6勝目に向けた取り組みが細かな点まで行われている。
まず、パワーユニット関連では、トランスミッションのローギヤード化、ステップ比の調整が図られていて、前者は立ち上がり、カテゴリーが異なる車両などの追い越し時の加速性能向上が狙い。後者は、シフト時のエンジン回転数変化を抑えることで、シフトショックの低減によるドライバビリティの向上、タイムアップも図られた。
クラッチASSYの慣性マス最適化もトピックスで、イナーシャを2018年の0.0070kg.㎡から0.056kg.㎡に、ASSY重量も9.5kgから8.5kgに減らすことで、シフトショックの改善とエンジンの耐久性の両立が盛り込まれている。
また、防水性が向上された防水ECUの採用も見逃せないポイント。水上バイクなどで使われている防水ECUにより、雨天時のエンジントラブル(エンジンストールやエンジンが再始動しないなど)を防ぐだけでなく、新ECUにより演算速度が約8倍も向上し、過渡応答や各種制御性もアップ。
さらにセンターデフ、パドルユニットをECUに統合することで、ふたつのユニットを減らし、重量軽減と協調制御により通信遅れの改善も図れるそうだ。
さらには、予選用オイル(MOTUL製)の採用により、従来オイルよりも全回転域での出力向上が可能になり、今回のシェイクダウンでも同オイルが使われていた。
ボディ、シャシー関連も見直されている。18年はフロントのジオメトリー変更により、結果的にタイヤへの負担増となった反省から、19年では、スクラブ半径の適正化により、タイヤへの攻撃性を減らし、アンダーステア抑制、タイヤ温度の過度な上昇を抑制できる。
ホイールは、BBSの協力のもと、マグネシウム製からアルミニウム製に変えることで、しなりを持ったしなやかさを手に入れることで、接地面積を拡大。ピーキーな挙動も抑制できるという。なお、剛性を確保しながら、軽量を誇るマグネシウム製よりも1本あたり100g増に抑えられている。
パワーステアリングにも手が入れられている。18年のレース中にパワステの配管が外れたことで復旧に時間が掛かった反省から、信頼性の高い量産技術と品質を採用。さらにジョイント部位点数の削減でオイル漏れを起こさない品質を確保したそうだ。
排気音も見直されている。昨年は騒音規制に引っかかったこともあり、19年はレースで当たり前の全開走行ができるように、藤壺技研の協力のもと、最大3dB音圧を下げられるようになったほか、本番用と万が一のバックアップ(開発中)用の2本が用意される。
ボディを見て(触って)分かるのが、「鮫肌(さめはだ)塗装」と呼ばれる試みだ。これはチーム内の雑談の中で「小さな凹凸を作ることで車両の空気抵抗を減らせるのでは?」と着眼したことが始まりだったという。
これは車両表面処理をマット塗装としたことで、空気の剥離による小さな渦の発生を小さくし、空気抵抗低減を狙ったもの。とくに、ドアミラーやフロント(フェンダー)ルーバーの凹凸が大きくされている。風洞実験では、Cd値は変わらないものの、リヤウイングのダウンフォースの量が微少ながら増えていることが確認できたという。
この「鮫肌(さめはだ)塗装」の効果に関しては100%解明できたわけではなく、19年の車両開発を通して解明していくとしている。