お笑い芸人の出川哲朗さんが、ヤマハの電動スクーター「Eビーノ」に乗って全国を駆け巡り、バッテリー切れしたら「充電させてもらえませんか?」と出会った人にお願いして旅を続けるテレビ番組が人気です。番組を見てもわかるように、電動バイクの現状は頻繁なバッテリー充電が必要で、それが普及への大きな壁になっています。どう乗り越えていくのか、ヒントの1つにインフラ整備があることは間違いなさそうです。
REPORT●青木タカオ(AOKI Takao) PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
「やばいよ、やばいよ」バッテリー切れが不安な現状
普及への道を模索している電動バイクですが、なによりもまず解決しなければならないのが、1回の充電で走れる距離が短いという点です。エコでクリーンなのは良しとして、バッテリー切れの心配が常につきまといます。番組でも出川さんは「やばいよ、やばいよ」と、バッテリー残量が心配の種です。
高性能なバッテリーが開発されるのを待つばかりでは、解決の糸口は見つからないはず。充電インフラを提供する動きが出始めています。
「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」で気になる、電動バイクの充電方法のハナシ。
“交換式”で充電待ちの煩わしさを解消!
「その手があったか!」と唸らされるのが、台湾で電動スクーターを開発する「Gogoro(ゴゴロ)」。ユーザーがバッテリーを共有して電動スクーターを利用できるようにするサービスを台湾全土をはじめ、ベルリン(ドイツ)やパリ(フランス)でも展開しています。
バッテリーのシェアリングサービス、つまり自分が乗るスクーターのバッテリー残量が少なくなったら、どこかで充電するのではなくステーションで“交換”して、すぐにまた走り出せるという効率の良い仕組みです。
台湾では「GoStation」と呼ばれるバッテリーステーションがすでに750ヶ所以上に設置され、2019年中に1000カ所を超える見通し。ヤマハも協業する方針で、2019年夏頃にゴゴロ製の電動スクーターがヤマハモーター台湾の販路を通じて、台湾市場にて販売される予定になっています。もし日本でも導入されれば、出川さんの番組で見られるような“充電待ち”がなくなってしまうかもしれません。
ちなみに四輪では「テスラ」が実証実験したのですが、同社の充電システム「スーパーチャージャー」はすでに十分早いので、「ユーザーは困っていない」となり、バッテリー交換式は普及しませんでした。先日発表されたばかりの最新式「V3スーパーチャージング」ではバッテリーを予熱する技術も導入され、充電時間はおよそ15分と非常に短いのです。
バッテリーを複数積み、充電中も走行可能に
同じ台湾メーカーの「KYMCO(キムコ)」もEVプラットフォームを「iONEX(アイオネックス)」と名付け、2019年末には台湾国内に2000ヵ所の充電ステーションを設置します。さらに2年間で3万ヶ所以上の共用電源スポットを設置し、航続距離に関するライダーの不安を取り除く狙いです。
食事中や美容室で髪をカットしてもらっている間に、あるいはネイルサロンで爪を手入れしてもらっているうちに充電が終わっているという、電動スクーターライフを目指しています。
iONEXでは複数のバッテリーと複数の充電形式を組み合わせている点も見逃せません。着脱式のバッテリーのほかにコアバッテリーが搭載され、バッテリーを取り外して充電している間もコアバッテリーだけでの走行が可能です。
コストがかからないよう個人向けのレンタル・バッテリーには生涯保証を付け、基本走行距離1,000kmの月間レンタル料金はわずか10USドル(約1130円)に設定しています。政府の補助金もあり、新車の電動スクーター(ナイス100 EV)が990USドル(約10万9000円)〜という低価格で手に入り、台湾では官民一体となってEV化に向けて積極的なのがわかります。
南の島のレンタル事業でバッテリー交換式がスタート
バッテリーが切れたら交換するだけ。日本でも南の島で体験できます。石垣島では新しい観光手段のひとつとして、住友商事の100%連結子会社である株式会社e-SHAREが、ゴゴロ社製のバッテリー交換式電動スクーター(100台)を使ったシェアリングサービス「GO SHARE」を2018年2月より開始しました。
貸出拠点はホテルや離島ターミナルで、さらにレンタカーからの乗り換え拠点も用意。バッテリーステーションは4ヶ所あり、新しいバッテリーと数秒で無料交換。原付1種モデルは4000円/24時間、2人乗りもできる原付2種は6000円/24時間と、低価格なのも魅力です。
ゴゴロの鍵を見せると観光施設やお店で割引が受けられるなどのサービスもあり、ヘルメットやレインコートも無料でレンタル可能。1時間1000円(原付1種)からレンタルでき、とてもお手軽だといえます。
ついにホンダも宮古島で実用開始
ホンダもソフトバンクやカレンスタイルと提携し、宮古島で“バッテリー交換式”といえるスタイルを試み始めました。二輪レンタル事業「宮古カレン」は、PCXエレクトリック(原付2種)で自然豊かな南の島を観光してもらうアクティビティとしていますが、利用者はバッテリー切れしたとき充電するのではなく、即座に“交換”ができるバッテリー交換ステーションに立ち寄る仕組みです。
観光ルート上に16ヶ所ものステーションを設置し、いずれもカフェや食堂、お土産で、バッテリー交換もまた楽しい体験となるよう考慮されています。煩わしいバッテリー切れですが、出川さんの番組のようにそれもまた愉しみに変えてしまったのでした。
日本の都市部でも期待したい
これは南の島のリゾートだからできるのでしょうか。いいえ、都市部でも試みる価値はあると思います。あらゆる場所が「バッテリー交換ステーション」あるいは「充電ステーション」になり得るはずで、既存のガソリンスタンドはもちろん、コンビニ、ショッピングモール、飲食店、駐車場、カー&バイク販売店、美容室、役所など候補を挙げたらキリがありません。
もし、このバッテリーステーションが普及していくとしたら、ユーザーとして気になるのはA社とB社、C社それぞれでバッテリーの規格が異なり、利便性が悪くなってしまうことです。現状、各社のバッテリーは統一されておらず、もし同一に規格化されてしまえば、交換するのも充電するのもより便利なのは間違いありません。
ビデオデッキを使っていた世代には懐かしい話しですが、かつてはVHSとベータ方式が混在し、覇権争いをしていました。いまはEVでの充電方式をめぐる戦国時代といえ、電動モビリティをもっと普及させていくには、メーカー間の壁を越えていかなければならない気がします。それはいつの時代も変わらないことではないでしょうか。
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。モトクロスレース活動や多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディア等で執筆中。バイク関連著書もある。