日産リーフのラインナップに、高性能バージョンの「e+」が加わった。バッテリー、モーターともに従来モデルよりも大幅にスペックが引き上げられ、航続距離が40%以上も伸び、加速性能も向上している。だが、新型バッテリーモジュールがもたらす恩恵はそれだけにとどまらない。その背後に、日産の壮大なEV戦略が浮かび上がってくるのだ。
REPORT&PHOTO◎小泉建治(KOIZUMI Kenji)
誰もが感じる圧倒的な動力性能の向上
今回の試乗はクローズドのサーキットで行われた。走り出してまず感じるのは、加速性能の圧倒的な向上だ。なにしろ標準モデルと比べて、最高出力で68ps、最大トルクで20Nmも引き上げられているのだ。
具体的に言うと、加速力の瞬間的な増大よりも、その持続力に驚かされる。アクセルを踏んだ瞬間の、巨人の手で背中を押されるような感覚は標準モデルでも味わえるものだが、これまではそれがスタート直後だけだったのに対し、e+は70km/hくらいまで持続するのである。
さらにそれ以上の速度域でのパフォーマンス向上も顕著で、日産によれば80km/hから120km/hまでの加速に要する時間は13%も短縮されているという。
日産が「e-Pedal」と呼ぶ、アクセル操作だけで完全停止までブレーキを掛けることができるシステムも熟成が進んでいる。
このシステムは、CMなどではアクセルだけで自在に加減速ができるという、そのイージードライブ性ばかりがアピールされているようだが、筆者は個人的にはe-Pedalがもたらすベクタリング効果のほうが大きな恩恵であると感じている。
このe-Pedalは単なる回生ブレーキにとどまらず、メカニカルブレーキも併用してくれるものだが、そのメカニカルブレーキも4輪を独立して制御してくれるのだ。これは、例えばコーナーの進入では、よりスムーズにノーズが入っていくようにブレーキを配分してくれるもの。その効果はコーナーがタイトになればなるほど顕著で、まるでスポーツカーのような身のこなしを披露する。
さらにe+は、室内空間を犠牲にすることなく大型化されたバッテリーを収めるため、全高を5mm上げつつ最低地上高を15mm下げることで天地方向に20mmのエクストラを稼ぎ出している。それが結果的に低重心化をもたらし、さらなる軽快な身のこなしに寄与しているのは興味深い。
e+はバッテリー性能も大幅に向上しており、航続距離を通常モデルと比較するとJC08モードで170km増えて570km、WLTCモードで136km増えて458kmとなっている。
その要因のひとつに、搭載しているセルを192セルから288セルへと、1.5倍に増やしたことが挙げられる。そこまで増やすと当然ながらスペースの問題が出てくるはずだが、日産が開発した新型モジュールはハーネスを排して基盤化し、レーザーで接合することで省スペース性を実現したのだ。
だが話はこれだけでは終わらない。
これまでのハーネス方式では、8セル単位でのモジュールしか作れなかった。ところがレーザー接合による新型モジュールは、自由にセル数を設定できるようになったのだ。
つまりデザインの自由度が増し、これまで以上にさまざまな車種に搭載することが可能となる。
今回登場したe+は、リーフの上位グレードということもあって、新型モジュールによるアドバンテージを加速性能や航続距離の大幅向上に充てている。そのほうが新技術の恩恵をカスタマーに理解してもらいやすいという側面もあるだろう。
しかしこの新型モジュールの本懐は、その汎用性の高さにある。たとえば航続距離や加速性能をほどほどにしておいて、もっと小さいクルマに搭載することも簡単になるということだ。
そういう意味では、新型モジュールによって日産のEV戦略はかなりの幅を持てるようになった。今後のモデル展開から目が離せなくなってきたのである。
Specifications
日産リーフe+ G
全長×全幅×全高:4480×1790×15405mm ホイールベース:2700mm 車両重量:1670kg 定格出力:85kW 最高出力:160kW(218ps)/4600-5800rpm 最大トルク:340Nm/500-4000rpm 駆動用バッテリー総電力量:62kWh 駆動方式:FWD 価格:472万9320円