三菱のデリカD:5がビッグマイナーチェンジを行い、ディーゼルエンジンのNOx浄化装置に尿素SCRが採用されました。すでに輸入車ではポピュラーな技術ですが、日本で販売される国産乗用車としては、トヨタ・ランドクルーザープラドに次いで二例目となります(欧州では09年にマツダがCX−7に、商用車なら17年からハイエースなどに採用されています)。今回はこの尿素SCRについて、詳しく解説してみましょう。
TEXT:安藤 眞(ANDO Makoto)
尿素はその名の通り、人間のおしっこから発見された物質で、タンパク質が分解されてできる代謝物です。尿「素」というと、酸素や窒素のような元素の仲間に見えますが、実際には CO(NH2)2 という化学式で表される有機化合物です。水素結合力が強い(水分子と結合しやすい)性質を利用して、保湿クリームなどに利用されていますから、女性のほうが馴染み深いかも知れません。
では、これをどうやって使えば、NOxが浄化できるのでしょうか? それにはまず、NOxの性質を知っておく必要があります。
NOxとは、窒素Nと酸素Oが化合したもので、酸素の数が1個だったり2個だったりするので、便宜上「x」としています。窒素は他の元素とは化合しない「不活性ガス」として知られていますが、周囲の温度が1000℃を超えたあたりから活性化し始め、酸素と化合するようになります。しかも、窒素と酸素と高温さえあれば発生しますから、ガスコンロでも石油ファンヒーターでも、雷の放電でも発生します。発生量や発生する場所の都合で問題になっていないだけで、NOxはけっこうあちこちで発生しているんです。
もちろんガソリンエンジンでも発生していますが、これは「三元触媒」という装置でほとんど浄化できてしまいます。もともとガソリンエンジンは、理論空燃比で燃やすのが基本です。理論空燃比とは、燃やしたときに酸素も燃料も残らない比率のことですから、窒素と化合する酸素が余らないわけですね。
ところが実際には、ガソリン(ほぼ炭素Cと水素Hでできています)と化合しそこなった酸素が余り、それが窒素とくっついてNOxができてしまいます。しかし、これは三元触媒を通すことで交通整理され、NOxの酸素が引き剥がされて、燃え残ったCやHを酸化してくれるのです。
ところが、これはディーゼルエンジンには使えません。基本的にリーンバーンなディーゼルは、排ガス中に酸素がたくさん混じっていますから、三元触媒でNとOを分離しても、すぐにまた別の酸素とくっついて、NOxに戻ってしまうんです。