運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)のワーキンググループ「乗務員の健康増進」では、タクシー・トラック・バスなどの乗務員の健康を守り、安全運転と人材の確保を目的に活動している。厚生労働省など調査から、他業種と比較して運輸交通業の従事者の発生率が高い症状に腰痛があり、この改善をテーマに調査及び対策の実証実験を行った。その結果、腰の痛みが軽減し運転も楽になったという現場からの声が届いている。さらに正しい姿勢が安全運転につながり、ヒヤリハットデータが半減するという成果にもつながった。
厚生労働省がまとめた業務上疾病発生状況などからも、運輸交通業の腰痛症状発生率は他業種と比較して高いことがわかる。九州社会医学研究所の論文では、タクシー運転手の腰痛有訴率は45.8%とされ、「我々と同様に最近1年間の腰痛の頻度を報告した研究では、職業運転手の有訴率は、バス運転手で83%、トラック運転手で58%」という発表がされている。このとき調査した会社では、腰痛による延べ休業日数が全休業日数の15.4%と最も多く、その経済的損失は年間売上の0.7%を占めるという結果がでている。(出典:タクシー運転手の腰痛に関連する要因の研究:舟越光彦ほか、九州社会医学研究所:産業衛生学雑誌45巻より)
TDBCのワーキンググループは、メンバーの中国タクシーの乗務員を対象に調査した。腰痛の対策には、同じくメンバーのミズノに器具を提供してもらい、実証実験を実施した。
実証実験の概要(2017年度)
1.対象者
中国タクシーのドライバー約120名を対象に健康問題に関するアンケートを実施。乗務中の手足腰の痛みを挙げた乗務員に限定して、「腰部骨盤ベルト」を使った装着前と装着後の使用感や痛みと、運転中のヒヤリハットデータを収集。
2.利用した器具
ミズノ 腰部骨盤ベルトノーマルタイプ(補助ベルト付)
3.成果報告
「痛み軽減の効果」「疲労度の変化」「腰以外の効果」「運転のしやすさ」「安全への効果」について、装着前と装着後で比較してもらい、アンケートを実施した。個人差はあるが、痛みは軽減され運転も楽になったという結果になった。運転のしやすさなどについても、否定的な感想は全くなかった。さらに、1日の乗務を通してドライブレコーダーのGセンサーを解析しヒヤリハット(0.6G以上)の回数を積算したところ、約半分に減少していたこともわかった。
痛みや疲労の軽減だけでなく、正しい運転姿勢になることで安全運転にもつながる可能性が考えられる。中国タクシーの達川社長は、「腰痛が原因で退職したドライバーもいたので、実験に参加してみました。今後は積極的に取り入れていく予定です」と成果を喜んでいる。
これらの活動の詳細は、4月25日開催のTDBC Forum2018(https://unyu.co/activities/forum2018.html)で会員に向けて発表した。参加者からは大きな反響があり、職業病としての腰痛の比率が高いことから、タクシー以外の業種にとってもひとつの解決策になるということで、検証結果を広く公開することになった。
2018年度は、引き続き日個連東京都営業協同組合で個人タクシーの乗務員を対象に調査中。また、バス事業者や物流事業者など、協議会の他のメンバー企業でも調査をする予定。