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メルセデス・ベンツ S400d 4MATIC long:新世代の3.0ℓ直6ディーゼルはフラッグシップにふさわしいゆとりと優雅さがある


メルセデス・ベンスのSクラスといえば、これはもうクルマの帝王だ。今回は、3.0ℓ直列6気筒ディーゼルターボという最新エンジンを積んだS400dにジャーナリスト世良耕太が試乗した。話題の直6ディーゼルの印象を技術解説とともにお届けしよう。


TEXT◎世良耕太(SERA Kota)

 2015年に国内で販売が始まったメルセデス・ベンツS300hは「新しい顧客層を開拓した」と、輸入・販売元のメルセデス・ベンツ日本は説明した。何が新しい顧客を引き付けたのかといえば、「燃費と価格」だという。




 S300hは2.2ℓ直4ディーゼルエンジン(OM651)をベースとしたハイブリッド車だった。JC08モード燃費は20.7km/ℓだったが、実際のドライブでそれ以上の数値を叩き出すことも難しくはなく、東京〜鹿児島間(約1500km)を無給油で走り切ることも可能だった。この燃費の良さが新規顧客のハートをつかんだ要因のひとつだ。




 もうひとつの価格だが、Sクラスなのに三桁だったのだ。なんと、998万円である。良好な燃費とリーズナブルな価格設定があたり、S300hは好評をもって迎えられた。Eクラスからの乗り換えも多かったという。S300hをラインアップに加えてからというもの、ディーゼルハイブリッドはSクラス全体のセールスのうち30%を占めるまでになったという。ガソリンハイブリッドが40%、ガソリンが25%、プラグインハイブリッドが5%だったというから、ディーゼルハイブリッドはSクラスの主力だった。

新開発のOM656直6ディーゼルターボ。

例によってエンジンカバーは外すとこう見える。

 ところが現在、ディーゼルハイブリッドはSクラスのラインアップから落ちている。「売れなかったからやめた」という表現が正しくないことは、販売実績が示している。ラインアップから落ちたのは、フェイスリフトを機に本国も含めて設定がなくなったからだ。ディーゼルエンジン搭載車は、「S400d」に一本化された。もっともベーシックなS400dで車両本体価格は1116万円(税込)である。




 モーターを取り払っただけ、ではもちろんない。搭載するのは新世代のディーゼルエンジンである。S400dが搭載するのは、OM656のコードネームを持つ3.0ℓ直6ディーゼルだ。ひとあし先にOM654の2.0ℓ直4ディーゼルが発表され、E220dやC220dに搭載されているが、OM656はその兄弟であり、モジュラーエンジン・ファミリーに属する。もっといえば、ガソリンのM264(2.0ℓ直4)やM256(3.0ℓ直6)も同じファミリーだ。

 新世代ディーゼルエンジンの特徴を簡単にまとめると、最新の排ガス規制に対応すると同時に、損失(とくにフリクション)を大幅に低減し(た結果、熱効率は向上する)、軽く、コンパクトに仕立て、出力とトルクを向上させている。

大小のターボを切り替える2ステージターボチャージャーを採用。小さい方が可変ジオメトリーだ。

 OM656は排気側にのみ可変バルブリフトシステムのカムトロニックを装備しているのが特徴で、冷間時の吸気行程中に排気バルブを再開し、排気の一部を燃焼室に取り入れることで始動性を確保した。マツダのSKYAKTIV-D2.2と同じ手法である。




 運転状況に応じて大小のターボを切り替える2ステージターボチャージャーを採用したのもSKYAKTIV-D2.2と同じだが、OM656が軽負荷用の小ターボ側を可変ジオメトリーにしたのに対し、SKYAKTIV-D2.2(18年マイナーチェンジ後)は大負荷用の大ターボが可変ジオメトリーである。

 マツダのSKYAKTIV-DはNOx触媒を持たずに現行の排ガス規制をクリアするが、OM656はSCRを用いて浄化する。高圧&低圧EGRを上手に使って燃焼の段階でNOxを低減している(SKYAKTIV-Dと同じアプローチ)というが、より規制の厳しいRDEを見込んだがゆえにSCRを採用したということだろうか。そのSCRはDPFの下流に置く従来方式ではなく、DPFにSCRをコーティングした最新式を採用している(ゆえにコンパクト)。




 OM656の容積比は15.5で、V6だった先代OM642と同じ(マイナーチェンジ後のSKYAKTIV-D2.2は14.4)。ピエゾインジェクターの最大噴射圧は2500barだ(SKYAKTIV-D2.2は2000bar)。最高出力は250kW、最大トルクは700Nmである。OM642は190kW&620Nmだったから、出力&トルクは大幅に増えている。

 OM642と対比すると、鋳鉄ブロックはアルミブロックに、ピストンはアルミからスチールに変わっており、シリンダー壁面にはスチールカーボン材を溶射コーティングしている。アルミブロックと鋳鉄ライナーの組み合わせより鉄の層を大幅に薄くでき、ブロックの小型・軽量化に結びつく技術だ。




 この技術をメルセデス・ベンツはNANOSLIDE(ナノスライド)と呼んで新世代エンジンの技術的な特徴のひとつに位置づけ、ディーゼルのみならずガソリンエンジンにも積極的に適用。「F1のターボエンジンにも効果的に用いられている」と喧伝している。

 前置きがだいぶ長くなったので、いっそ前置きだけで締めくくろうかと思ったが、そうもいかないので乗った印象を少し(実際、少ししか乗っていないのだが)お伝えしておこう。Sクラスとの組み合わせだからなのだろうか。走行中はもちろんのこと、停車中でもディーゼル特有のエンジン音はほとんどドライバーの耳に届かない。後席の乗員にはもっと届かない。予備知識がなければ、ディーゼルかガソリンかわからないままS400dの乗員になり、降りていくなんてこともありそうだ。ちなみに、100km/h走行時のエンジン回転数(9速ATとの組み合わせ)は1300rpm前後だった。

「たいしたもんだなぁ」と感心しつつ、エンジンをかけたまま降りてみると、車外でもエンジン音はやけに静かで、感心の度合いが倍になった。静かなだけではなくて動力性能も充分である。試乗したS400d 4MATIC longの車両重量は2260kgだったが、発進だろうと、市街地で周囲の流れに合わせた移動であろうと、高速道路の流入だろうと巡航だろうと、追い越しであろうが、「不足」を感じることはなかった。どんなシーンでも静かであり、ゆとりがある。




 エンジンの印象からは離れるが、ハンドルが大きく切れることにはあらためて感心させられた。住宅街での左折が苦にならない。全長は5285mm、全幅は1915mm、ホイールベースは3165mmあるが、数字を確認して「そんなにあったの?」と驚いているところだ。最小回転半径は5.8m(全長5125mmの標準仕様は5.5m)で、ひとつふたつ小さなセグメントと競合する。




 電子制御のAIRマチックサスペンションは、独特の乗り味をもたらす。やや大げさに表現すれば、大型客船にでも乗っているようだ。路面の突起やうねりと、体に伝わってくる振動の位相がずれるのが特徴で、あまりずれると「気持ち悪ィ」になるのだが、そうならないぎりぎりのとことで収めている。その味つけが絶妙で、独特な乗り味になっており優雅だ。

 話を戻せば、新世代の3.0ℓ直6ディーゼルエンジンは、メルセデス・ベンツのフラッグシップにふさわしいゆとりと優雅さでもって、Sクラスの世界観にうまく溶け込んでいるし、世界観の演出にひと役買っている。メルセデス・ベンツの最新パワートレインは、ディーゼル、ガソリン、ハイブリッドを問わず、どれも最新技術の導入に貪欲で、しかも出来がいい。「次ぎ」が楽しみになる。

メルセデス・ベンツ S400d 4MATIC long


■ボディ寸法


全長×全幅×全高:5285×1915×1495mm


ホイールベース:3165mm


車両重量:2260kg


駆動方式:フルタイム4WD


■エンジン


形式:直列6気筒DOHCターボ+電動スーパーチャージャー


型式:OM656型


排気量:2924cc


ボア×ストローク:82.0×92.3mm


圧縮比:15.5


最高出力:340ps(250kW)/3600-4400rpm


最大トルク:700Nm/1200-3200rpm


燃料タンク容量:70ℓ


■トランスミッション


9速AT(9G-TRONIC)


■燃費


JC08モード燃費:13.3km/ℓ


■車両本体価格:1505万円(試乗車はオプション179万7000円含む1684万7000円)
直列6気筒エンジンが優れている理由 メルセデスが直6を復活させたワケ BMWがこだわる根拠メルセデスの最新3.0ℓ直6ガソリンエンジン搭載のAMG 353についてはこちら
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