モデルチェンジを目前に控えているマツダ3。新型は日本でもアクセラを名乗らず、グローバル共通の「3」というネーミングに統一されるという見方もあるが、いずれにせよ当サイトでは来たるXデーを11月28日と予想している。そこで消費者目線で気になってくるのは、現行三代目のアクセラは買いか否か、という点だ。「熟成の最終型」とはよく聞くフレーズだし、新型が発表されれば現行モデルの大幅値引きが期待できる、という現実もある。そこで当記事では2016年のビッグマイナーチェンジ時の試乗レポートを振り返り、現行アクセラをおさらいしてみたい。
TEXT●石井昌道(ISHII Masamichi)
PHOTO●神村 聖(KAMIKURA Satoshi)/前田惠介(MAEDA Keisuke)
初出の技術「G-ベクタリングコントロール」によりマツダが目指す「人馬一体」の走りは実現されたか? 今回のアクセラは「大幅改良」といえど、あらゆる領域に深く踏み込んでいる。エンジン、トランスミッション、ボディ、シャシーなどのSKYACTIV技術を統合的に制御。ステアリング操作に対してエンジンの駆動トルクを変動させる「G-Vectoring Control」により、滑らかな車両挙動を実現させた。さらに、ディーゼルエンジンにも数々の新技術を搭載。SKYACTIV-D1.5がアクセラに搭載されたのもニュースだ。(2016年8月発売「マツダ・アクセラのすべて」より抜粋)
ディーゼルのメリットがプレミアム感として際立つ
九世代続いたファミリアがアクセラへと生まれ変わったのは2003年のこと。ファミリア時代は日本国内マーケットへ軸足を置き、いわゆる5ナンバー枠にこだわっていたが、全幅1700㎜未満では欧州Cセグメント市場のトレンドに合わなくなってきていた。自動車の本場であり、本質的な走りの性能への要求が高い欧州。そこで成功することはマツダにとって悲願であったから、思い切って殻を打ち破っての改名だったわけだ。その思い切りは見事に当たり、VWゴルフを始めとする強豪がひしめく欧州Cセグメントで大成功を収め、アクセラは一時期マツダの販売の1/3を占める大黒柱になった。今でもB〜Dセグメントで勝負するマツダの中心的な存在だ。
そのアクセラの三代目モデルは、スカイアクティブ・テクノロジーと魂動デザインを採用した新世代商品群の第三弾として2013年にデビューし、このたび大幅改良を受けた。現在のマツダは従来型の定期的なマイナーチェンジという考えを改め、新技術などいいモノができれば随時投入していく手法を採っている。アクセラもすでに改良は三度目となるが、今回は人馬一体の走りを追求する「スカイアクティブ ビークル ダイナミクス」の第一弾となる「G-ベクタリング コントロール」の初採用、デザイン変更、スカイアクティブ-D1.5の追加、スカイアクティブ-Dの「DE精密過給制御」及びノック音を抑制する「ナチュラル・サウンド・スムーザー」「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」の採用など、まさに大幅な改良となっている。
もともとアクセラのパワートレーンのラインナップは1.5ℓと2.0ℓのガソリン、2.2ℓディーゼルターボ、ハイブリッドが用意され種類の多さを誇っていたが、ガソリンとスカイアクティブ-D2.2のパフォーマンス及び価格差は小さくなく、かといってハイブリッドはマツダを選択する動機とマッチングしないという声は聞かれていた。「ちょうどいいのがないんだよナ」というわけだが、そんな人が気になるのが新たなスカイアクティブ-D1.5だろう。
デミオとCX-3に搭載されている同ユニットは最高出力105㎰、最大トルク270Nm。日常的な走行で要となるトルク数値で見れば、スカイアクティブ-G1.5の144Nm、スカイアクティブ-D2.2の420Nmの中間的な存在となる。ちなみに今回、2.0ℓのガソリンはラインナップから外れている。
ディーゼルで気になる音・振動及び排気ガス性能は、昔に比べればどのメーカーのユニットも劇的に良くなっている。排気ガスは少なくとも日欧米など自動車先進国の規制上はガソリンとほぼ同じレベルになっていて問題なし。昨今の話題はリアル・ドライブ・エミッション、すなわち実走行との性能の乖離だが、マツダのスカイアクティブ-Dは低圧縮比としてそもそもの有害物質の発生を抑えているから他よりも有利だ。音・振動に関しても低圧縮比なら同じく発生が少ないので有利になるが、それでもガソリンよりは大きくなりがち。また、ディーゼルのライバルを探すとその多くが遮音・静音にもコストをたっぷりかけている欧州プレミアムカーになってしまうので、入念にチェックすべき項目ではある。
コクピットに収まってエンジンを始動し、まずはアイドリング状態で耳を澄ませてみる。一般的なガソリン車に比べれば、音量はほんの僅かに大きめ。Dレンジに入れて普通に発進してみても、その印象は変わらない。それと知らず、オーディオでもかけていればガソリン車だと勘違いしてもおかしくはない。ただし、ディーゼルの音・振動が最も出やすい、低回転でやや強めの加速をした時、つまり大きなトルクを要求した時はガソリンとは明らかに違う「カラカラ音」は耳に届いて取れたような音質で、少しだけ尖って聞こえるが音量はさほどではないので、これをうるさいと感じる人は少ないはず。
じつは直前に同じエンジンを搭載するCX-3にも試乗したのだが、それに比べると随分と静かになっていた。セグメントが上な分、遮音・静音性能が高いという面もあるが、新たに採用した「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」の効果が大きいようだ。というのも「カラカラ音」は残っているものの、様々な走り方をしてみても、どこかのエンジン回転数で音が盛り上がって耳障りが悪くなったりすることがなく、嫌な音質が安定的に抑え込まれている印象がある。燃焼の間隔をコントロールすることでノック音の周波数をある一定の幅に抑えることこそ「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」の持ち味であり、その狙いは見事にあたっている
高バランスの1.5ℓと豪快さも見せる2.2ℓ
スカイアクティブ-D1.5はドライバビリティでも優れたところを見せつけた。ディーゼルは比較的に過給圧が高く、ターボラグが気になることもある。
スカイアクティブ-D1.5は可変ジオメトリータービンで対応していたのでたいていの場面で不満を抱くようなことはなかったが、何かの拍子にサッと早めの加速を求めた時にモタつくようなこともあった。エンジンが低回転で落ちついている巡航時に、前走車との距離が空いてしまったからスッと加速したい時、登り区間に差し掛かったから速度を維持しようとした時などだ。アクセルペダルをクイッと踏み込んでみても反応が鈍いのでもっと奥まで踏み増していくと、やや遅れて今度は思った以上に強く加速してしまったりして……、なんてシーンを長く試乗していると体験することもある。
それに対応できるのが「DE精密過給制御」。ターボは排気エネルギーを過給に使っているが、同じく排気をエンジン内部に再循環させてNOX発生低減などを図っているEGRを制御しているという。ターボへの排気エネルギーが不足している時は、一時的にEGRへの排気流路を絞って振り分けて、ドライバーの意志へ忠実にトルクを出そうというシステムだ。
そのドライバーの意志は、アクセルペダルを踏みこむスピードから汲み取っているのが新しい。これまでは踏みこむ量だけをみていたが、急加速まではいかないけれど速度を上げたい時などドライバーは、少ない量ながら結構早いスピードで右足を動かすものだ。「DE精密過給制御」は、素早く踏みこめばターボラグを最小限に抑えて加速の立ち上がりが鋭くなる。従来は0.6〜1秒ぐらいの反応遅れがあったものを0.25秒ぐらいまで短縮しているという。たしかに、改良前のCX-3ではたまにあったもどかしい思いが、アクセラではほとんどない。
トルクフルなスカイアクティブ-D2.2も「DE精密過給制御」によってレスポンスが良くなり、「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」に加え、まだ未採用だった「ナチュラル・サウンド・スムーザー」も得て音・振動も抑制され、さらに魅力を増した。コンパクトなボディと420Nmのトルクの組み合わせは凄まじく、まるでホットハッチのように豪快な加速をみせる。
一般的な走行ではアクセルをほんの少ししか踏む必要がないので余裕があり、気持ちをリラックスさせてくれる。スカイアクティブ-D1.5より速いだけではなく、高級感も増すのだ。ただし、ハンドリングの軽快さではノーズまわりが軽いスカイアクティブ-D1.5に分がある。スカイアクティブ-D2.2のほうはズシッとした重厚感があるのが特徴だ。
スムーズな連続Gによる心地よいクルマとの一体感
ハンドリングといえば注目は「G-ベクタリング コントロール(GVC)」だ。ステアリングを切り始めるとエンジンのトルクを抑制してフロント・タイヤへの荷重を増やし、応答性を高めるのがGVCだが、その働きはあくまで自然であり、単体で試乗して作動を感知できるようなものではない。
だが、以前に開発用車両でGVC“あり〟と“なし〟で乗り比べた時にはその効果をはっきりと体感した。“なし〟では横G(重力)の発生が比較的に急でカクッとした曲がり方をしていたものが、〝あり〟にして同じ操作をすると斜め方向のGが連続して最終的に横Gへ繋がっていく感覚になり、スムーズさが増す。上手いドライバーは、コーナーに対して早めのタイミングから微舵を当て始め、緩やかに切り込んでいくことでスムーズなGの移動を促しているものだが、それと同じような動きをGVCはもたらしてくれるのだ。
運転に慣れていない人の多くは、コーナーに対してステアリングが切り遅れ気味になってガクンっと横Gを発生させてしまうが、それを抑制してくれる。新型アクセラでGVCの働きを感知することは難しいが、滑らかでスムーズなハンドリングが心地いいことは誰でもが実感することだろう。マツダはここ数年、アクセルやブレーキ、ステアリングなどドライバーの操作に対して、クルマの動きが素直にシンクロする〝統一感〟を大切にするなど、人間中心の発想で一体感を高めることに熱心だが、GVCはそれを補完する画期的な制御と言えよう。
シャシー全体としては、デビュー当時にあった少しゴツゴツとしたような乗り心地からすっかり角がとれ、滑らかになっている。基本的にはスポーティだが不快さがなく、ロングドライブでも疲れない乗り心地だ。
ガソリンエンジンのスカイアクティブ-G1.5は、ディーゼル勢に比べると低回転域のトルクが細く、普段乗りでもアクセルを操作する量が増えるので少しせわしなく感じるが、逆に言えば積極的に走らせるのが楽しくも思える。それに応えるかのようにアクセルを深めに踏みこんでいけば2000rpm台後半あたりから乾いたサウンドが盛り上がって興奮を誘う。6500rpmまでキッチリと回りきり、その時のパワー感はスカイアクティブ-D1.5以上!ハンドリングも軽快だ。
ハイブリッドも想像するよりはずっと良かった。常用域のトルクが充実しているのでスカイアクティブ-G1.5より乗りやすく、このシステム特有のラバーバンドフィールも抑えられているから、走る楽しさもそれなりにある。マツダというブランドにハイブリッドは似合わないという声も聞かれるが、燃費や価格とのバランスがとれていて、決して悪くない選択肢だということはお伝えしておこう。
それでもやはり、ニューカマーのスカイアクティブ-D1.5が今後のアクセラの主流になるのは必至だ。必要十分プラスアルファぐらいの力感と新技術投入による好レスポンスでドライバビリティが素晴らしく磨かれ、シャシーを含めたクルマ全体の動きが滑らかで軽快。人間中心の開発思想、人馬一体感などマツダが目指す方向性がもっとも上手く表現されており、それがユーザーの心にも響くだろうからだ。
SPORT 22XD L Package
全長×全幅×全高:4470×1795×1470mm ホイールベース:2700mm 車両重量:1450kg エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ 総排気量:2188cc ボア×ストローク:86.0×94.2mm 最高出力:129kW(175ps)/4500rpm 最大トルク:420Nm/2000rpm トランスミッション:6速AT タイヤ・サイズ:215/45R18 車両価格:308.88万円
SPORT 15XD L Package
全長×全幅×全高:4470×1795×1470mm ホイールベース:2700mm 車両重量:1360kg エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ 総排気量:1498cc ボア×ストローク:76.0×82.6mm 最高出力:77kW(105ps)/4000rpm 最大トルク:270Nm/1600-2500rpm トランスミッション:6速AT タイヤ・サイズ:215/45R18 車両価格:268.92万円
SEDAN 15S PROACTIVE
全長×全幅×全高:4580×1795×1465mm ホイールベース:2700mm 車両重量:1360kg エンジン形式:直列4気筒DOHC 総排気量:1496cc ボア×ストローク:74.5×85.8mm 最高出力:82kW(111ps)/6000rpm 最大トルク:144Nm/3500rpm トランスミッション:6速AT タイヤ・サイズ:205/60R16 車両価格:235.98万円