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【アルピーヌA110サーキットテスト】安易な試乗に要注意!? エリーゼを超えた超絶ハンドリング!


日本上陸第一弾の「プルミエール・エディション」はあっという間に完売となり、ようやくカタログモデルである「ピュア」と「リネージ」がスタンバイ完了となった新生アルピーヌA110。今回、富士スピードウェイのショートコースにて、ステアリングを握る機会に恵まれた。




TEXT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)


PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)

今どき希有な尻下がりのシルエットが美しい。無粋なエアロパーツの類もなし。ディフューザーやフラットボトムなど、徹底したエアロダイナミクスの追求の賜物だ。

かつての名声は健在か?

 アルピーヌA110が復活すると聞いたとき、筆者の気持ちの中には率直に言ってうれしさよりも不安のほうが大きかった。




「後輪駆動をしばらく作っていなかったメーカーが、いきなり優れたミッドシップのスポーツカーを作れるはずがない」




「現代のトレンドに則れば当然ながら肥大化するだろうから、かつてのようなピュアスポーツを期待するのは無理」




「中途半端なものが出来上がって、アルピーヌの栄光の歴史を汚すようなことになりはしないか」




 ネガティブなことばかりが頭に浮かんだのは、それだけアルピーヌという名前に憧憬の念を抱いていたから。小学生の頃には先代A110の写真を部屋の壁に貼り、そのうちA310も憧れの対象に入った。免許を取ってからはフランス車専門店に通いつめ、A610は本気で欲しいと思った。この仕事を始めてからは、なにかと理由をつけては聖地であるディエップを訪れた。




 結局、実車を所有するには至っていないので大きなことは言えないが、それくらいアルピーヌという名前は特別な存在だったのだ。この記事を読んでくださっている多くのクルマ好きのみなさんも、私と同じような気持ちではないだろうか。

 しかし結論から言えば、そんな不安はまったくの杞憂だった。数ヶ月前に初めてプルミエール・エディションを目の当たりにしたとき、意外なほどコンパクトにまとめられていると感じて期待に胸が膨らんだのを覚えているが、実際にドライブして受けた衝撃は、それとは比べものにならないものだったのだ。

軽量化っぷりが尋常ではない

 今回テストした「ピュア」の車重は1100kgで、今どきのスポーツカーとしてはかなり軽い部類に入る。これ以上の軽さを求めるなら、マツダ・ロードスター、ロータス・エリーゼ、ケータハム・スーパーセブンくらいしか選択肢が見当たらず、いずれも動力性能ではA110よりも劣る。




 A110のプラットフォームとボディは96%がアルミニウム製だ。残りの4%は前後バンパー(樹脂製)とリベット等にとどまる。シートは一脚わずか13.1kgで、先代ルノー・メガーヌR.S.のバケットシートが27kgだったことを考えると驚異的な軽さであることがわかるだろう。




 ほかにも、世界初のアクチュエーター内蔵のリヤブレーキキャリパーによって通常よりも2.5Kgの軽量化を果たすなど、とにかく変態的(失礼!)なまでに細部にこだわり抜いた結果の1100kgなのである。




 にもかかわらず、コクピットにはエリーゼ&エキシージのようなスパルタンさがない。あのアルミ剥き出しの無骨さにもおおいに惹かれるものがあるが、A110はかなりの上質さ───ラグジュアリーとも言えそうなほどの仕立てを見せているのだから驚かされる。



一脚わずか13.1kgのサベルト製バケットシート。「ピュア」はリクライニング機構が付かないが、「リネージ」であれば可能だ。
軽量化のこだわりはスピーカーまで! フランスを代表するフォーカル社が手掛けた専用スピーカーは軽量素材を厳選している。


切り始めは鋭く、その先は穏やか

 そしていよいよ試乗開始だ。ESCがオフになるトラックモードを選択してコースインする。ピットロード出口から最初のコーナーに向けてステアリングを切った時点で、早くも声を上げそうになった。とにかく初期の反応が鋭い。その高い旋回性能ゆえ、ミッドシップの市販車はあえて切り始めの反応を鈍くして安全性を確保するのが定石だ。




 俊敏性では右に出るものがないと言われるエリーゼも意外と初期の動きは穏やかだし、それなりのロールを許容することでビギナーにも姿勢変化をわかりやすく伝えてくれる。あの軽快感は車体の絶対的な軽さがもたらすものであり、ハンドリングのしつけ自体はそこそこマイルドなのである。




 ところがA110はコブシひとつ分の動きで即座にノーズが反応し、視線を向けた先と車体のノーズの向きが見事にリンクする。




「こりゃあ手強いぞ」




 確かに気持ちはいいが、この尋常ならざる機敏さは、限界域で手に負えないことを予感させる。だがクルマ好きの多くがそうであるように(と信じたい)、ノー天気な自分もサーキットなんぞを走っていると不安よりも快感のほうが勝ってきて、次第にペースは上がり、気がつけば目を三角にしてタイヤを鳴かせていた。




 そして案の定、ストレートエンドの1コーナーでリヤがブレーク!……しそうになったけれど、あれれ? なんだか挙動がゆっくり? ほう、ちゃんと2コーナーのほうに向きが変わったではないか。

開発陣はものすごいことをやり遂げた

 なんだか理解できないまま、けっこうなペースで楽しみ続ける。そして最終セクションでも、次の1コーナーでも同じことが起こる。ブレークしそうになっても、なんとなくコントロール出来てしまう。




 いやすごい。タイヤがグリップしているうちは反応が恐ろしく速いのに、グリップを失いそうになると穏やかになるのだ。普通は逆ではないの?


 


 もちろん聞きましたよ、開発ドライバーのダヴィドさんに。




「これはどういうことなのでしょうか?」




「アナタのようなドライバーが最高の満足を得られるようにセッティングしたんですよ」




……以上。




 まぁ、確かに細かいセッティングのことを説明されても筆者はよくわからない。けれどもこれ、本当にものすごいことをアルピーヌの開発陣はやり遂げたのではないか。それだけはわかる。

アルピーヌの名声は、さらに輝きを増した

 驚愕のハンドリングにばかり文字数を割いてしまったが、直列4気筒1.8Lターボと7速DCTがもたらす動力性能とドライバビリティにもまったく不満はなし。




 特筆すべきはサウンドで、吹け上がりのパァァァーンというエキゾーストノートもさることながら、エンジンブレーキを効かせたときのパパパパパンッというファイヤー音が猛烈に気持ちいい。




 コースサイドで撮影していたカメラマンも「いい音するね〜」と言っていたから、車外にもけっこう轟いているようだ。ただしこれはスポーツモードおよびトラックモード選択時の話で、ノーマルモードであれば極めてジェントルなサウンドなのでご心配なく。




 そしてサーキットでこれだけ痛快な走りを楽しめるにもかかわらず、荒れた路面ではストロークの長さを活かして路面を捉え続けてくれるから、公道でも安心してスポーティな走り楽しめる。そしてなにより乗り心地がいい。アルピーヌがフランス車であることを実感させられるのだ。




 いやはや参った。栄光の歴史がどうのこうのとシロウトが余計な心配して失礼いたしました。新型A110の登場によって、アルピーヌの名声に一層の磨きがかけられたことは間違いない。




 そしてもしもアナタがスポーツカー好きを自認しているのであれば、安易に試乗しない方がいいだろう。その日の晩、あなたは預金通帳とにらめっこをし、家族やパートナーから白い目で見られることは間違いないからだ。



アルピーヌ A110 ピュア


全長×全幅×全高:4205×1800×1250mm ホイールベース:2420mm 車両重量:1100kg エンジン形式:直列4気筒DOHCターボチャージャー 総排気量:1798cc ボア×ストローク:79.7×90.1mm 最高出力:185kW(252ps)/6000rpm 最大トルク:320Nm/2000rpm トランスミッション:7速DCT フロントタイヤ:205/40R18 リヤタイヤ:235/40R18 ハンドル位置:右/左 車両価格:790〜811万円 
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