本田技研工業(ホンダ)が昨年9月末に発売した10代目シビックは、「低重心・低慣性・軽量・高剛性」をキーワードに新規開発された、Cセグメント車用プラットフォームを採用。最初に試乗したハッチバックCVT車の圧倒的な重心の低さとフラットな乗り味は、超高性能モデル「タイプR」の大幅進化を十二分に期待させるものだったが、実際に試乗したタイプRの走りは、その期待さえ遥かに上回るものだった。
【新型ホンダ・シビック比較試乗インプレ ハッチバックCVTvsセダン16インチ】両車ともスポーツカーなみの低重心感と高級車顔負けのフラットライドに驚愕!だが、先々代FD2型シビックタイプR以降は「運動性能」の優先度がより高くなり、代を重ねるごとに絶対的な速さは確実に増す一方、元々割り切られていた快適性や実用性はより一層悪化。FD2では路面の凹凸をすべて乗員の頸椎や腰椎へ伝える走りとなり、程度の差こそあれFN2型シビックタイプRユーロや先代FK2型シビックタイプRも同様の傾向を見せていた。
ところが、新型FK8型シビックタイプRは、そんな悪夢のような乗り心地から解放されるとともに、歴代シビックRを確実に上回る旋回・加速性能を手に入れている。しかも、FK2から採用されているアダプティブ・ダンパー・システムなどが最もハードになる「+R」モードで公道を走行しても、である。
新旧シビックRのメカニズムを実際に比較してみると、個々の要素の多くはキャリーオーバーされながらも着実に進化していることが分かる。まずタイヤは、銘柄こそコンチネンタル・スポーツコンタクト6と変わらないものの、235/35ZR19 91Yから245/30ZR20 90Yへ、幅・内径ともアップした。
アダプティブ・ダンパー・システムは、「BASE」「+R」の2段階から「コンフォート」「スポーツ」「+R」の3段階になるとともに、ドライビングモードごとの可変幅を拡大。余分なサスペンションストロークを抑えて収束を早めるよう制御も改良された。
ステアリングはラックアシスト式のデュアルピニオンEPSが踏襲されているが、ステアリングコラムを50%、タイロッドエンドをストレート化のうえ10%大径化することで剛性をアップ。高速走行時の安定感とダイレクト感、リニアリティを高めている。
サスペンションもフロントは、ナックルが転舵を、ストラットが路面からの上下入力を担うよう分離することでセンターオフセット量(転舵軸とホイール中心までの距離)を短縮、トルクステアを低減させる「デュアルアクシス・ストラット・サスペンション」が、先代に続き採用された。
ただし、センターオフセット量が7%縮小されたほか、アルミ製ナックルアームの採用により軽量化。さらにL字型ロアアームが用いられ、入力分担の効率化と高剛性化、フリクション低減が図られている。
新開発のCセグメント車用プラットフォームでリヤサスとボディが大幅進化!
一方、新開発のCセグメント車用プラットフォーム採用に伴い、全面的に変更された箇所もある。それがリヤサスペンションとボディだ。
リヤサスペンションは、先代のトーションビーム式からマルチリンク式に変更されるとともに、すべてのアームを高剛性サブフレームに取り付ける構造となり、横力を受けた際のトーイン特性が改善された。また、新型ハッチバックに対しタイプRは20インチタイヤの装着に合わせ、すべてのアームとブッシュ類の剛性が高められている。
ボディは、先代FK2型がベース車に対し、応力の集中しやすい骨格のコーナー部を中心に構造用接着剤を用いつつ、サブフレームを含むフロント周りの骨格を全面的に強化していたが、タイプRを含む全モデルが同時開発され、ボディ全体の骨格部材を組み立ててから外板パネルを溶接するインナーフレーム構造が採用された新型FK8型では、構造用接着剤による補強のみ追加。それでも先代よりねじり剛性は約38%高く、約16kg軽く仕上がっている。
各部の寸法も変更されており、全長は170mm、ホイールベースは100mm延長され、全高は25mm下げられる一方、全幅およびフロントトレッドは5mm縮小。だがリヤトレッドは65mmも拡大されており、先代と同等以上の旋回性能を確保しつつ高速域の直進安定性を高めようという狙いが見て取れる。
こうしたディメンション変更が空気抵抗の低減にも効果を発揮したことで、タイプRの伝統ともいえる大型のエアロパーツはよりダウンフォースの増加を狙ったものに。また、アルミ製に変更されたボンネットにはインテークダクトが追加され、後述の10psアップしたエンジンの冷却に配慮したものとなった。
これらの結果、タイヤが路面をよりしなやかに捉えるようになり、頸椎・腰椎とも椎間板ヘルニアが持病となっている筆者が乗ってもその症状を悪化させない乗り心地に進化した。そして旋回速度は、並のスポーツカーを全く寄せ付けず、最早スーパースポーツの領域に足を踏み入れていると言っても過言ではない。
ホンダの「タイプR」が第一義とするのは、あくまでも絶対的な速さ。だとするならばこの先は、ルノー・メガーヌR.S.やフォルクスワーゲン・ゴルフGTIとFFニュル最速の座を争うのではなく、4WD化とともにエンジン性能をさらに高め、スバルWRX STIやフォルクスワーゲン・ゴルフRを直接のライバルとするより他にないだろう。
【Specifications】
<新型FK8型ホンダ・シビックタイプR(FF・6MT)>
全長×全幅×全高:4560×1875×1435mm ホイールベース:2700mm 車両重量:1390kg エンジン形式:直列4気筒DOHC直噴ターボ 排気量:1995cc ボア×ストローク:86.0×85.9mm 圧縮比:9.8 最高出力:235kW(320ps)/6500rpm 最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2500-4500rpm JC08モード燃費:12.8km/L 車両価格:450万360円
<先代FK2型ホンダ・シビックタイプR(FF・6MT)>
全長×全幅×全高:4390×1880×1460mm ホイールベース:2600mm 車両重量:1380kg エンジン形式:直列4気筒DOHC直噴ターボ 排気量:1995cc ボア×ストローク:86.0×85.9mm 圧縮比:9.8 最高出力:228kW(310ps)/6500rpm 最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2500-4500rpm JC08モード燃費:13.0km/L 車両価格:428万円