2019年6月に開催されるニュルブルクリンク24時間レースへの参戦を表明した塚本奈々美選手。とはいえ、本選出場のためのハードルは極めて高い。今回は、そのための第1ステップとなる、レース出場のためのテスト、そしてテストをクリアすれば参戦できるニュルブルクリンク耐久選手権(VLN)第5戦での模様を、ドイツから帰国直後の塚本選手に独占インタビューした。--VLN初参戦、お疲れ様でした! 塚本奈々美選手(以下塚本): ありがとうございます。結果から言いますと、今回、私がトヨタ86で参戦したREVELチームはSP3クラスで2位完走することができました。チーム全員が力を合わせてゴールができ、とても感謝しています。一方で、ニュルブルクリンクの北コースがいかに難コースなのかということを身を持って学んだレースでした。 --レースに参加するまでのハードルも高いのですね。 塚本:レースに参戦に向けてのライセンス取得はとても大変でした。 朝9時くらいにサーキット内のアカデミーに行き、パソコン上でEラーニングを30問 受け、その後、テストで『満点』をとらないと不合格となってしまいます。 コード60(※注:ひどいクラッシュが発生している地点などで提示される60km/h制限区間)やWイエローといったような、ニュルブルクリンク独特のルールに関する問題が出るのですが、〇×の2択ではなく、複数からチェックするような形式です。 チェック1個が正解というわけではなく、適合する答えを正確にチェックするような難しい問題が多かったです。 日本人個人で行ったら絶対にクリアできないような状況でしたが、現地のRing Racingの皆さんとREVELチームやNOVELの皆さんのサポートがあって、4名の日本人選手全員がクリアできました。--複雑な解答形式でしかも全問正解が合格条件!? 塚本:そうなんです。このテストをクリアすると合格証明書をもらい、これを持ってサーキットに行くと、Eラーニングに出てきたような内容のドライバーズミーティングを再度受講します。 その後、インストラクターの先導走行で4周くらい走り、そのあと自分で8周する必要があります。 これも、ただ単に走れば良いというものではなく、みっちりと走行ラインやクリッピングポイントを指導されますし、そのラインを見落としたり、無茶苦茶なラインを走ればもちろん不合格となるわけです。 これをクリアして、初めて『パーミットB』がもらえます。これで今後のニュルブルクリンクのVLNに参戦できることになるわけです。 じつは、このインストラクターもRing Racingの方だったので、本当に助かりました。 --ニュルで8周というと、1周10分としても80分かかるわけで、結構な時間を走行するんですね? 塚本:そうですね。先導の4周のときに、インストラクターのドライバーさんが無線を使いながらかなり具体的に走り方を教えてくれます。 「ここではもっとスピードアップしましょう!」とか「ブレーキングポイントはここ!」とか、「コーナーのクリッピングポイントはここ!」とか、後ろから速いクルマが来た時の抜かれ方や、逆に抜き方も。 関心したのは、ニュルブルクリンクは走り方のルールが明確だということです。 例えば、サーキット走行中にウインカーを出す場合がありますが、ウインカーを出した方に自分が寄って行くのか、ウインカーを出したほうで抜いてもらいたいのかが、レース前のドラミ次第な傾向があります。それでも参加者が聞いてなかったり、守ってなかったりすることがままある。 でも、ニュルは『ウインカーを出したら、そっちに自分が行く。そして、ウインカーを消し忘れないこと』が徹底されました。これは日本のサーキットもお手本にしたほうがいいと思いました。 --いい予習ができましたね。 塚本:予習といえば、VLNはフリー走行中でもスポンサーや関係者のための助手席同乗が認められているんです。今回、無理を言ってNOVEL Racingのレーシングカーの助手席に乗せていただいたのですが……、勉強しよう!と意気込んでいたのですが、逆に凹まされました。。。 恐らく70%くらいの余裕を持った走行だったはずなのですが、ギャラリーコーナーを全開で下っていくときの、上からの押さえつけられている感覚。ジャンピングポイントの衝撃……。全開区間のスピード域の高さのあまりの違いに「こんな走りをワタシはいつできるんだろう」と傷つきました……--そんな衝撃を受けた後に走ったのレースの模様は? 塚本:今回は6時間耐久のレースで、ダンロップのスリックタイヤを履いた左ハンドルのレース仕様のトヨタ86でSP3クラスでの参戦です。 ニュルブルクリンク24時間レースに参戦するためには、このVLNを完走し、かつ走行周回数を18周以上累積して、ライセンスをパーミットAに上げる必要があります。なので、完走することが絶対条件でした。 幸い路面はドライでした。スタートドライバーはS耐ドライバーの朝日ターボ選手。スタートの難しいところをうまく走ってもらいましたし、タイム的にも素晴らしい走りでした。 私はアンカーでチェッカー担当です。6~7周、1時間半くらい走りました。全参加車両170台中30台がリタイアするというレースでした。黄旗はもちろんコード60も終始出ていて、横転車両もありましたね。 REVELチームは2位表彰台を獲得することができました。 本当に良い体制で、安心して走らせていただきました。 --塚本さんのスティントはどんな雰囲気でしたか? 塚本:6時間レースの最終スティントというと、ゴールに向かって完走を目指して安全運転というイメージだったのですが、クラッシュしているクルマを多かったですし、上位を争うGT3マシンのバトルも過酷でした。 タイムロスを抑えながら上位のマシンに抜かれるということは本当に大変で、苦労しました。--単独で走ることすら大変なニュルで、速度差のあるGTマシンに抜かれるというのはどういう状況なんでしょうか? 塚本:自分が全開で走っているときに、GT3が全開で抜いてくる。Gが掛かっていて今走っているラインから動けないような状況のなかで後ろから迫られる怖さ……。また、カントの付いたコーナーがあるカルッセルというコーナーがありますが、カルッセルに侵入する直前に速いクルマに出会ってしまった場面で、外に避けるべきかカントに入るべきか……、これは難しい判断でした。 --ニュルならではの恐ろしさですね。。。 塚本:オイル旗というのがありますが、ニュルのオイル旗は本当にオイルが流れてます(笑)。これも本当に怖い。オイル旗が出ているときは、本当に怪しみながら走りました。 また、意外と低い縁石のμが低くて乗れない場所が多かったです。でも、変にアクセルを抜いてしまうとトラクションが掛からなくなりクルマが安定しなくなる。ブレーキもベストなタイミングで強く短く踏むのが理想なのですが、地元のドライバーの横に乗せてもらってわかってはいたのですが、これが難しいんです。どうしてもブレーキの時間が長くなる。このブレーキング時に(前荷重となって)ノーズが沈んでいるときにクルマが跳ねてしまい、これをどうするかとか……。--それでも完走できたということは、素晴らしい結果だったのではないでしょうか? パーミットA獲得に向けて、大きな一歩になったのではないですか? 塚本:そうですね。でも、自分のなかで葛藤があったのも事実です。自分が納得できる走りをしたいという願望はもちろんありましたが、4人で走り切ることがチーム全員の成績になるわけですし、当然私の成績にもなります。でも、レーシングドライバーとしてもっとできることがあるのではないか、そしてそれを見つけたいという葛藤ですね。 --パーミットA獲得に向けては、当然周回数がまだ足りず、さらにVLNに参戦する必要がありますが、今後の予定は? 塚本:9月1日に開催されるVLN第6戦、そして10月6日に開催されるVLN第8戦に参戦する予定です。年内にパーミットAを獲りたいと思っています。 --もちろん順調に周回を重ねてチームで完走するということが大切だと思いますが、塚本さん自身の目標を教えてください。 塚本:次どうしようかなというのは、今ニュルの初チャレンジが終わったところですので、まさに考えているところです。大変なコースであることはわかりましたので、このセクションだったらもうちょっとペースを上げられるかな……といったところこれから検証して見つけていきたいですね。レース前に車載を見直して、自分自身を整理してタイムを挙げることができたし、レース中も自己ベストが出ました。時間はかかりますが、安全に走りながらラインを工夫してもうちょっと踏める方法を探すなど、追求していきたいと思います。--次の報告も楽しみになってきました。 塚本:塚本さん、ちょっと大人になりました(笑)。ワタシの経験値で、正直、このコースはあまりにハードルは高いという認識です。でも、チャレンジがなければ成長はないと思うし、私がチャレンジすることで、「塚本が行けるんだったら自分も行こうかな」という人が増えればうれしいですね。ヨーロッパのモータースポーツ文化も学べますし、ヨーロッパでひとりのドライバーとして扱ってもらえることにも非常にうれしく思っています。 --今回のトライに点数をつけるとすれば? 塚本:40点ですね。チームのおかげでライセンスが獲れたこと、そして、皆で力を合わせてゴールできた点数です。でも、課題もたくさん見つかりました。REVELチームの皆さんとともに、次回も頑張りたいと思います! ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ 難コースニュルブルクリンクでの初走行、からの初レース。そしてニュルブルクリンク24時間レース参戦に向けて大きな一歩を踏み出した塚本奈々美選手のチャレンジを、モーターファンも引き続き注目していきたいと思います!