世界中の誰もが知っていると言っても過言ではないスクーターの名車、それがベスパPXだろう。そのPXだが、じつはすでに生産を終えており、新車は世界中に流通している在庫のみとなっている。今年で市販開始から40周年を迎え今もなお世界中で愛されているPXについて振り返ってみようと思う。
REPORT●大家伝(OYA Den)
ベスパというメーカーは生産終了を大々的にお知らせするメーカーではないから、というのもあるだろう。意外と認知されていない事実だが、ベスパのハンドチェンジスクーターとして知られているPXは、すでに生産を終えたモデルである。正確な理由は不明だが、おそらくユーロ規格の排ガス規制をクリアできないといった止むを得ない状況だったのだろうと推測する。つまり、PXの新車は市場に流通している在庫限りで最後となってしまうのだ。
ベスパブランドの屋台骨だったPX
そもそもの話だが、なぜベスパが世界でもっとも有名なスクーターと言われるのか? それは「世界中の人々の生活に寄り添うように長い間あり続けたから」というのが理由の一つだといえる。
ベスパは戦後の復興期に、人々の生活に欠かせない移動手段であったり運搬手段であったり……というところから始まり、瞬く間に普及した。しかも世界各地でライセンス生産が行われたことで、まさに世界各地でベスパが活躍していた。
さらにベスパは70年超の歴史があるため、多くの国で世代を越えて知られ求められてきた実績もある。そうしていつも目にする機会が多かったからこそ人々の記憶に残り、誰もが知るとまで言われるほど有名なスクーターとなったワケなのだ。
そんなベスパは当初から2ストエンジン搭載&ハンドチェンジ機構という、独自のパッケージを展開。もう少し詳しく説明しておくと、軽量で強度も十分に保たれたスチールモノコックボディの採用、左グリップまわりでクラッチ操作とシフトチェンジを行うハンドチェンジ機構の採用、タイヤ交換を容易に行えるよう配慮したフロント片持ち式サスペンションとスペアタイヤの常備、走行中に衣服を汚す事がないようレッグシールドを備えつつ女性が足を揃えて乗車出来るフラットフロアの採用などがそう。こうした画期的なポイントを引き継いだ完成形ともいえるベスパがPXだ。
PXは元々Pというモデル名でスタートし、発表されたのは1977年10月19日。翌1978年に市販開始され、じつに40年が経過。これはかなり凄いことで、ベスパの約70年分の歴史の半分以上をPXが担っていることになる。こうなるともはやPXがハンドチェンジスクーターの完成形だと言って差し支えないだろう。
次回はPXのディテールに迫っていくことにする。