間違いなく世界最大の自動車市場で開催される世界最大のショー。それが北京モーターショーだ。今年も世界中の自動車メーカーが北京に集結した。今回のトレンドは、「電動化」のひと言。それを支えるのは、ニッポンのサプライヤーの新しい仕事でもある。サプライヤーの動きはどうだったのか?
TEXT &PHOTO:鈴木慎一(SUZUKI Shin-ichi)
いかに中国地場の自動車メーカーに食い込んでいくか?
北京モーターショー2018 REVIEW その1:中国のOEMとスタートアップの勢いを過小評価するな。北京モーターショー2018 REVIEW その2:日欧の自動車メーカーの動きは? さて、今度は部品メーカーのブースを見て回ろう。今年も、ボッシュ、ヴァレオ、デンソー、アイシン、日立オートモティブシステムズなどのメガサプライヤーが出展していた。メイン会場のなかに自動車メーカーに混ざってブースを構えられたのは、中国を長い間付き合ってきたボッシュだけ。あとは、仮設テントでの出展だ(コンチネンタル、ZF、マグナなどは出展していない)。彼らは中国の自動車ファンに自分の技術を見せるために高いコストを払ってショーに出ているわけでは、もちろんない。数え切れないほどある中国の自動車メーカーに売り込むためにショーに参加しているのだ。だからどのサプライヤーのブースも、「電動化技術」が中心になっているのだ資金に余裕がある中国メーカーが、優秀なサプライヤーから電動化技術をシステムで供給してもらう。そうなれば、できあがってくる車両の性能差は、これからさらに縮まっていくだろう。
AISIN GROUP
得意の電動化関連技術で中国市場で勝負する
いつものようにアイシングループは、アイシン精機、アイシン・エィ・ダブリュ、アドヴィックス、アイシン高丘などグループでの出展。今回は、中国のNEV規制導入を受けて、特にゼロ・エミッション分野の技術を中心に据えた。協調回生ブレーキやFF1モーターハイブリッドトランスミッション、電動式4WDユニットであるeAxleを中国に初めて持ち込んだ。実際、プレスデーでは中国の民族系自動車メーカーを中心に多くの自動車メーカー関係者がブースを訪れていた。
DENSO
自動運転関連でドライバーモニタリング技術に注目
デンソーは、Efficient Driving、Automated Driving、Connected Drivingの3つの分野に注力している。自動運転系の技術では、ミリ波レーダーやステレオカメラなどと並んで、ドライバーモニタリング技術に中国が集まっていた。
TOYOTA BOUSHOKU
カムリやクラウンのシート&内装
トヨタ紡織は2012年以来今回で4回目の北京モーターショー出展となった。中心に置かれたのは、トヨタ・カムリ、クラウンのシートと内装だ。クラウンは天津で造られているが、それに合わせてトヨタ紡織も天津工場でシートを製造している。色やデザインは中国人の好みを細かく反映しているという。
HITACHI AUTOMOTIVE SYSTEMS
グループのクラリオンともにブース出展を行なった日立オートモティブシステムズ。テーマは、「Moving Forward! 人・クルマ・社会がつながる未来へ」で、自動運転や電動化など、クルマ社会をけん引する日立グループの次世代モビリティテクノロジー数多く見せてくれた。
JTEKT
電動リヤアクスルユニットを出展
ジェイテクトは、得意とする電動パワーステアリングシステム(デュアルピニオン式、ラック平行式など)やベアリング技術などに加えて、20kWのHEV/EV用小型電気モーター(リヤアクスルに搭載してAWD化できるいわゆるeRAD)を展示していた。
北京に滞在していた数日間、空は青かった。2カ月前に来たときも青空だった。つい3年前は、PM2.5のせいで、いつも空はまるで濃霧のようだった。共産党政権が、工場を止めろと言ったらすぐに止められるから空がきれいになったという分析ももちろん可能だ。しかし、みんながEVに乗って排ガスをださなかったら、ほら空はこんなに青くなります、と言われたら、みなこぞってEVを選ぶようになるかもしれない。
NIDEC
電動化で勝機あり
モーターのスペシャリストである日本電産は、車内で多数使われている各種小型モーターのほかに、いま同社が力を入れているEVおよびPHEV向けのトラクションモーターシステムを初公開した。トランスミッションのバルブボディも展示されていた。
TOYOTA GOSEI
内外装品を幅広く展示
写真は豊田合成が中国で生産する、トヨタ・カムリ用コンソールボックス(左の赤い部分)とホンダの中国モデルのインパネモジュール。このほかにもレクサスLSの複雑な形状のフロントグリルなども展示されていた。
VALEO
48Vシステムの小型EV
フランスのヴァレオは、独自に仮設ブースを作って出展。中国向けに開発している48Vの小型EVが主役。48Vながら最高速度100km/h、航続距離100kmを実現していて、将来が期待される技術だ。
OBRIST
発電用無振動エンジン
エンジニアリング会社であるオブリストは、999cc、85kWe、乾燥重量120kgの発電用無振動エンジンを展示。今後発展が期待されるシリーズハイブリッドの発電専用エンジンでの活用を考えているのだろう。
NTN
大注目のIWM駆動システムを搭載したクルマ
NTNがかねてから開発を進めてきたIWM(インホイールモーター)駆動システムを搭載したNEVの開発、量産に向けた技術支援を行うため、長春富晟汽車創新技術有限公司」(FSAT社)とライセンス契約を結んだ。FSAT社が開発したクルマとそのプラットフォームが展示され、注目を集めていた。量産は2019年の予定。IMWのEVは世界的に見ても珍しい。量産となれば大きな反響が期待できる。右下はパートナーであるFSAT 社総経理・劉蕴博氏。
とあるEVベンチャーの中国人社長に、「あなたのEVは、公的な補助金なしでもやっていけますか?」と訊いたら、「自信はあります」と即答された。
北京の街の空は青くなり、ゴミは少なくなり、道路のでこぼこはだいぶなくなり、トイレは格段に綺麗になった。「中国はまだまだだ」と侮っているうちに、あっという間に背中しか見えなくなってしまうのではないか。そういう危惧を抱いた北京モーターショーだった。