日立金属株式会社は、株式会社日立製作所(以下、日立製作所)の研究開発グループと共同で金属積層造形(金属3Dプリンター)に適した金属粉末を開発し、それを用いた金属積層造形のプロセス条件を見出し、ハイエントロピー合金※1(HiPEACE)の造形に成功した。実証実験を進めていくことで、実用化をめざす。
金属3Dプリンターが、ものづくりを変える
積層造形(3Dプリンター)は、モノづくり技術を変革する技術として注目が高まっている。近年では、金属材料を用いた積層造形の研究開発も活発化しており、造形品質の向上にともない航空機エンジン部品やガスタービン部品、自動車部品などへの適用が進んでいる。また、ステンレスやニッケル基合金、アルミニウム合金などの既存材料だけでなく、積層造形の特徴を活かした新しい材料の開発も進んでいる。
日立金属は、2017年4月に持続的成長と社会貢献に資する中長期の先端材料研究開発テーマを推進することを目的として、新しいコーポレート研究所「グローバル技術革新センター Global Research & Innovative Technology Center(略称:GRIT(グリット))」を設立した。
GRITでは、材料技術・製品における脅威と機会の両面を視野に入れた中長期研究テーマに注力し、日立金属の次世代を担う新事業の創生を推進している。その一例として金属積層造形用の金属粉末の開発に取り組んでおり、このたび、レーザー粉末積層造形を適用したハイエントロピー合金の造形に成功した。
ハイエントロピー合金は、5種以上の元素が同程度含まれる合金として定義され、過半を占める主要元素が存在しないことが特徴。強度と耐食性に優れる一方、鋳造性や加工性が難しいといわれている。
この研究開発では、日立製作所の研究開発グループと共同で金属積層造形に適した金属粉末を開発し、それを用いた金属積層造形のプロセス条件を見出した。金属粉末は、これまで培ってきたCAE解析技術により材料の特性や変形を検証し、かつ金属積層造形の特性に合わせることで、最適化を図った。金属粉末の生成は、真空ガスアトマイズ法を用いて日立金属安来工場(島根県安来市)で行っている。また、この金属粉末を用いた積層造形では、粉末層に局所的に溶融、凝固させることでハイエントロピー合金(HiPEACE)の造形に成功した。
得られた造形物は高い強度と延性、耐食性を有していることが確認でき、既存のニッケル基合金よりも過酷な環境で用いることができる可能性があることを確認している。今後、実証実験を進めていくことで、実用化をめざす。