スズキはMT車の車両本体が200万円を大幅に下回りながら、本格的なスポーツ走行が楽しめるホットハッチを2車種も用意し、多くのクルマ好きから人気を集めている。それがBセグメントの「スイフトスポーツ」と、軽自動車の「アルトワークス」だ。
現行のアルトワークスは2015年12月、スイフトスポーツは17年9月に発売されており、それぞれのメカニズムは類似点が多い。だが実際に市街地や高速道路、箱根のワインディングで試乗してみると、両車の性格は見事なまでに対照的だった。
プラットフォームはスケールこそ異なるものの設計思想は両車とも全く同じで、骨格のつながりをスムーズにすることで軽量高剛性化を図る「ハーテクト」を採用。スイフトスポーツは970kg、アルトワークスは670kgと、いずれもベース車に対しリヤまわりにスポット溶接打点を追加するなどボディ剛性を高めながら、1tを切る車重を実現している。
サスペンションはいずれもフロントがストラット式、リヤがトーションビーム式(アルトワークスの4WD車はフルトレーリングアーム式)だ。なおダンパーは、スイフトスポーツがモンロー製、アルトワークスがKYB製の強化品を採用している。
タイヤはスイフトスポーツが195/45R17 81Wのコンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5。アルトワークスが165/55R15 75Vのブリヂストン・ポテンザRE050Aで、アルミホイールもベース車よりサイズアップしながら軽量化や剛性アップを図った専用品だ。
エンジンは、スイフトスポーツのK14C型直4直噴ターボが最高出力103kW(140ps)/5500rpm、最大トルク230Nm(23.4kgm)/2500-3500rpm、アルトワークスのR06A型直3ターボは最高出力:47kW(64ps)/6000rpm 最大トルク:100Nm(10.2kgm)/3000rpmの、いずれも低回転高トルク型。ただしターボチャージャーを中心にレスポンスと絶対的なパワー・トルクを重視したセッティングが与えられており、いずれもそれぞれの車種における最強モデルに相応しい性能を備えている。
MTはいずれも、細部にまで改良の手が加えられている。スイフトスポーツは3速、アルトワークスは2速ギヤにダブルコーンシンクロを採用し、シフトノブの形状を変更してシフトレバーをショートストローク化するのみならず、シフトセレクトケーブルのフリクションを低減し、シフトレバーセレクトスプリングとシフトタワーの操作荷重を変更。ケーブルダンパーも節度感を高めるようチューニングされた。
クラッチもペダルストロークに対する伝達トルクをリニアな特性とし、コントロール性を高めながら、より重厚感のあるペダルフィールを与えている。
このように、両車のメカニズムとチューニングメニューの共通点は非常に多いのだが、その性格は全く正反対ということが、走り出すどころか運転席に座った瞬間に見えてくる。
スイフトスポーツはエクステリアと同様、室内も赤やピアノブラックの加飾パネルを多用した現代風の派手めな仕上げなのに対し、アルトワークスはこれまたエクステリアと同様、2代目アルトをベースとした最初のアルトワークス以上にレトロかつシンプルな、まさに“男の仕事場”だ。
フロントシートはいずれもサポート性を向上させたセミバケットタイプで、スイフトスポーツが自社開発品、アルトワークスはレカロ製。前者は高さ調整が可能だが後者は固定となっており、その位置が非常に高い。腰椎・頸椎とも椎間板ヘルニアを患っているためアップライトなポジションが好みの筆者(身長174cm)でもアルトワークスはヒップポイントが高く思えるほどで、またヘッドクリアランスも極めて少ないため、サーキット走行時にヘルメットを被れば天井に頭頂部が当たる可能性がある。
また乗降性に配慮したためか座面のサイドサポートが低く、コーナリング時には太股のサポートが頼りなく感じられた。一方でさすがレカロというべきか、振動吸収能力はアルトワークスの方が高く、対するスイフトスポーツは特に路面の凹みを通過する際に振動がダイレクトに身体へ伝わる印象を受けた。
ちなみに後席は両車とも、膝回りに余裕がある一方ヘッドクリアランスが不足しており、特にアルトワークスは後頭部が完全にルーフクロスメンバーに当たる。そのうえシート自体が平板なため、ドライバーにゴキゲンな走りをされれば後席の住人は全身がボロボロになることだろう。
シフトレバーを1速に入れると、アルトワークスは極めて短いストロークでソリッドな手応えを返すものの、スイフトスポーツは意外なほどストロークが長く、ギヤを入れた際の手応えも柔らかい。このあたり、日本専用のアルトワークスと、欧州が主戦場のスイフトスポーツとで、お国柄の違いが如実に表れている。どちらが好みで、またスポーツ走行時に素早くシフトチェンジしやすいかと言えば、間違いなく前者だ。
スイフトスポーツとアルトワークス、実際の走りは?
そしてアクセルペダルを踏みクラッチをミート、加速し始めると、両車の違いが明確に現れてくる。端的に言えばスイフトスポーツはリニアかつトルクフル、アルトワークスはスイッチのように鋭い吹け上がりだ。そのためスイフトスポーツは速度を意のままにコントロールできるが、アルトワークスは加速をゆるめたければアクセルペダルを完全に戻すしかないのではないかと錯覚するほど、ペダル操作でのコントロールに幅がない。
一方でスイフトスポーツのレブリミットは5800rpmと低く、アルトワークスは7000rpmまで許容するため、回転域での加速コントロール性と回して楽しむ喜びは後者の方が上だろう。とはいえ、絶対的な性能は、140ps・230Nmのスイフトスポーツの方が圧倒的に高く、発進時やコーナーの立ち上がりで不用意にアクセルペダルを踏み込めば、容易にホイールスピンを起こしてしまう。
対する64ps・100Nmのアルトワークスは、目一杯加速してもそうやすやすとタイヤが音を上げることはない。前者は繊細なコントロールで速く走らせること、後者はポテンシャルを使い切ることに、その醍醐味があると言えそうだ。ただし、両車ともヘリカルLSDがオプション設定すらされておらず、インリフト時にトラクションが掛からなくなる点は、一刻も早く改善してもらいたい。
そして何より、スイフトスポーツならばMT車でも、アダプティブクルーズコントロールや車線逸脱抑制機能、衝突被害軽減ブレーキなどの予防安全装備が装着できる。高速道路での長距離移動が多いならば、スイフトスポーツのセーフティパッケージ装着車を選ぶべきだ。
また、近所での買い物はもちろん、本格的にサーキット走行会やモータースポーツへ参加するうえで重要な積載能力は、スイフトスポーツは後席を起こしていても比較的余裕がある。だが倒せば荷室フロアとの段差が大きく、後席背もたれの傾斜も強いため、思いのほか使い勝手は良くない。
アルトワークスはベース車の時点で後席のニールームを優先(そのせいでヘッドクリアランスが犠牲になっているが…)しているため、後席使用時の荷室空間はまさに“猫の額”レベル。ただし後席を格納すると、6:4分割可倒式ではなく一体可倒式で、後席が完全に犠牲になるという問題はあるものの、その平板な形状が幸いして荷室フロアとの段差は小さく傾斜も弱いため、タイヤや工具箱などの大物も積みやすいだろう。
こうして両車を比較してみると、スイフトスポーツは万能性の高い“大人のGTハッチ”であり、アルトワークスは快適性をある程度犠牲にしながらストイックに走りの楽しさを突き詰めた“青春のホットハッチ”、というキャッチフレーズが筆者の脳裏に浮かび上がってくる。
免許取得から間もなく収入も少ない若者が腕を磨くドラテクマシンとするか、もしくはタイトなワインディング、ミニサーキットやジムカーナを主戦場とするならば、迷うことなくアルトワークスを選ぶべきだ。
スイフトスポーツは、アルトワークスを乗りこなした後、より速度レンジの高いステージで繊細なマシンコントロールを学ぶためのステップアップ用として、また若者と言える年代を過ぎ、ご近所から帰省まで快適に走るための1台として乗るべきだろう。
【Specifications】
<スズキ・スイフトスポーツ(FF・6MT)>
全長×全幅×全高:3890×1735×1500mm ホイールベース:2450mm 車両重量:970kg エンジン形式:直列4気筒DOHC直噴ターボ 排気量:1371cc ボア×ストローク:73.0×81.9mm 圧縮比:9.9 最高出力:103kW(140ps)/5500rpm 最大トルク:230Nm(23.4kgm)/2500-3500rpm JC08モード燃費:16.4km/L 車両価格:1,836,000円
<スズキ・アルトワークス(FF・5MT)>
全長×全幅×全高:3395×1475×1500mm ホイールベース:2460mm 車両重量:670kg エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ 排気量:658cc ボア×ストローク:64.0×68.2mm 圧縮比:9.1 最高出力:47kW(64ps)/6000rpm 最大トルク:100Nm(10.2kgm)/3000rpm JC08モード燃費:23.0km/L 車両価格:1,509,840円