ジュネーブモーターショーでフォーミュラEマシンを初公開するなど「EVシフト」の波に乗る日産自動車は、新型リーフの開発担当者が開発秘話を公開した。「自動運転技術」「シャシー制御」「パワートレイン」「空力/燃費性能」という4つのテーマに“技術うんちく”というエッセンスを加えた、熱のこもった、とてもユニークな内容だった。
走るのが楽しくて、静かで快適! 新型リーフのテクノロジーに迫る
その1 「駐車を楽しく! カメラと超音波センサーのフュージョン技術」
「“バイ・ワイヤ”化されているリーフだから可能な技術でした」
「プロパイロットパーキングは、ステアリング、アクセル、ブレーキ、パーキングブレーキのすべてが“バイ・ワイヤ”化されているリーフだから可能になったシステムです。カメラやセンサーは、アラウンドビューモニター、クリアランスソナーといった他の装備と兼ねることで、ある意味でムダのないシステムになっています。最新鋭の画像認識システムは、リアルタイムで高速演算処理し、自車と駐車スペースの位置関係を割り出して補正することで、ズレのない自動駐車が可能となりました」
(日産自動車株式会社 電子技術・システム技術開発本部 ADAS&AD開発部 プロジェクト開発グループ 浅見 陽氏)
記者が感じた“技術うんちく”度=★★★
カメラと超音波センサーを組み合わせることで、移動可能スペースの認識、障害物の位置把握することで最適な経路を計算して走行することが可能となった。超音波センサーは、歩行者も検知し、衝突の恐れがある場合はブレーキをかけて止まる。プロパイロットパーキングは、前記した理由により、現時点では新型リーフだけに搭載されている。
その2 「高級車の静粛性とストレスフリーな加速性能」
「処理速度が2倍の高速CPUで、バッテリーの性能を引き出しました」
「静粛性については、黒板を爪で引っ掻くような不快な音域などをカットすることで、静かですっきりとした音とを実現しています。また、加速性能を高めたインバーターにはバッテリーに電流を流すパワーモジュールを備えており、ここを効果的に冷やすために、新たに冷却水路を設置しました。直接冷却することで冷却性能が高まり、最大トルクの向上につながっています。高電圧の電気回路や部品は水にとても弱いので、しっかりと濡れないようにする必要があります。シール部分を工夫し、長寿命で防水性の高い冷却が実現して問題を解決しました。さらに、出力アップには電流制御を行っており、インバーターの電圧の波形を固定して位相を制御することで電圧利用率を向上させた結果、バッテリーの電圧をフルに使える領域まで広がりました。処理速度が2倍の高速CPUを採用し、大容量化したバッテリーの性能を引き出しているのもポイントです」
(日産自動車株式会社 パワートレイン技術開発本部 パワートレインプロジェクト部 電動パワートレインプロジェクトグループ アシスタントマネージャー 丸山 渉氏)
記者が感じた“技術うんちく”度=★★★★★
力強い発進加速を実現したのは、インバーターの冷却性能アップによって制御をさらに高度化することができ、電流性能を引き出したこと。さらに、ふたつの電流制御方法によって中間加速を高めており、このふたつのテクノロジーが加速性能の“技術うんちく”だ。先代モデルに対し、トルクが25%アップ、質量25%減となり、最大トルクは従来モデルの254Nm対して320Nmまで高めた。モーターの出力アップは、主にインバーターの性能向上で対応したことが分かる。
その3 「アクセルで止まる? 回生ブレーキと摩擦ブレーキのバトンリレー」
「四輪で制動力を発揮することで、安定したブレーキ特性を実現します」
「もっとEVを楽しく運転するには、どういうクルマを作れば良いか? ということを考えていました。操作に対してリニアに動くことで、それが意のままの操作になり、ずっと運転したいという気持ちにつながります。これが結果としてe-Pedalが生まれるきっかけとなったのです。初代リーフは力強いモーターで加速に関しては申し分ありませんでしたが、ちょっと頑張って走ったときには、加速から減速への流れがスムーズではありませんでした。アクセルを戻してブレーキを踏み替えるときに空走感が出てしまう。それをアクセルだけでコントロールしよう、というのがe-Pedalです。例えばワインディングでコントロール性が上がり、コーナーの手前で一瞬アクセルを戻してフロントに荷重移動してコーナーを抜けて加速していくという加速と減速が一連の動きになります。データを見るとプロの走り以上の走りができます。雪上や氷上のような滑りやすい路面であっても、e-Pedalは真価を発揮します。e-Pedalは回生ブレーキと摩擦ブレーキを最適に配分し、後輪を含めた四輪で制動力を発揮することで安定したブレーキ特性を実現します。これはモーターによる回生ブレーキだけでは実現できないことなのです」
(日産自動車株式会社 電子技術・システム技術開発本部 シャシー開発部 シャシー制御システム開発グループ 新藤郁真氏)
記者が感じた“技術うんちく”度=★★★
日産社内のテストデータでは、e-Pedalをオフにした状態と、e-Pedalをオンにした状態で比較したところ、ブレーキ操作回数は90%減少したという。このデータは8人社員が通勤時に行ったもので、ドライバーの負担軽減にも貢献しているのは間違いない。それは、実際にリーフを試乗してe-Pedalを経験してみると納得できるものだ。
その4 「横風を味方に!“リアルワールド”でのこだわり」
4つ目のプレゼンテーションは、空力/燃費性能の開発担当者による「横風を味方に!“リアルワールド”でのこだわり」というテーマだ。
「実用巡航距離は、横風の対応だけで2.5kmの向上に成功しました」
「実用航続距離を伸ばすため、横風空気抵抗を徹底的に研究しました。新型リーフ94台分の走行車速データや全275地点の気象データなどを分析した結果、実験では風向きに対して4度傾いた状態での空力性能を評価することを決めました。このデータを基に設計したリヤサイドスポイラー形状によって、実用巡航距離を横風のみで2.5km向上したのです。今後、こうした横風の研究結果は、技術屋の思いとして日産の新しいEVに生かしていく可能性があります」
(日産自動車株式会社 Nissan PV第一製品開発本部 Nissan PV第一製品開発部 空気流性能グループ 髙木 敦氏)
記者が感じた“技術うんちく”度=★★★★
自然のなかを走るクルマだから、“風”という要素を取り入れた。解析の結果、傾き4度で開発したところが、この技術うんちくである。また、リヤのサイドスポイラーやボディ下面に新形状のアンダーカバーは、長時間に及ぶ風洞実験によって最適な形状を導き出すことに成功したのである。
「EVこそ、次の主流」という戦略を持つ日産と開発担当者の熱い思い
以上が、開発担当者が解き明かした新型リーフの4つの開発秘話である。
自動運転技術、シャシー制御、パワートレイン、空力/燃費性能……開発担当者による新たなる挑戦や数々の試行錯誤によって生まれた数々のEVテクノロジーは、今後の日産製EVのラインナップ拡大に大きく役立つものだろう。
日産は、電気自動車のイメージを一新すべく、これまでの「環境に良い・経済的」から「先進的・ワクワク」にスイッチする取り組みに真剣だ。
「EVこそ、次の主流」という戦略を持つ日産と、リーフ開発担当者の熱い思いがひしひしと伝わってくる4つのプレゼンテーションだった。