2017年、日本のモータースポーツにおける最大の出来事と言えば、やはり佐藤琢磨のインディ500優勝だろう。100年以上の歴史を持ち、世界三大レースに数えられるビッグレースで日本人ドライバーが初勝利。琢磨自身にとっては、オーバルコースでの初勝利でもあった。
インディ500の舞台となるスーパースピードウェイでは、時速380kmという超高速域での戦いが繰り広げられる。ドライバーは500マイル=約805kmの長丁場を走る。そのためには信頼できる「戦友」が必要だ。
オーバルでの接近戦で、自分では見えないライバルの位置を知らせる「スポッター」には、元ドライバーでアメリカのレースを知り尽くしたロジャー安川がいる。さらに広大なインディアナポリスでは、ひとりでコース全域をカバーできないため、おなじみのデイモン・ヒルと2人体制。ちなみに彼は1996年F1ワールドチャンピオンと同姓同名だが、別人だ。
今季アンドレッティ・オートスポーツというトップチームに移籍した琢磨は、インディ500で勝てる武器を手にしたと感じていた。ダラーラ製のシャシーは、ホンダの日本の研究所も開発に携わったエアロキットを装着。
2016年インディ500ではホンダ勢のアレクサンダー・ロッシがルーキーながら初勝利を挙げていた。インディカーは2017年の空力開発凍結を決めたため、今季のエアロキットは昨年と同じもの。昨年ここで速かったパッケージが今年も速いことは間違いなかった。
そして、AJフォイトからアンドレッティに移籍した琢磨は「ちょっとした発見」をしていた。それがシートポジションだ。2016年まで、琢磨は重心と視界のバランスを取りつつ、できるだけ低い位置に着座する傾向にあった。しかし2017年のチームオーナーである、マイケル・アンドレッティにはドライバー時代の経験から、確固たる信念があった。
「シートポジションは高いほうがいい」
それまで「シートポジションは低いほうがカッコイイ」と思っていた琢磨だが、マイケルに言われてシートポジションを上げてみた。
「同じシャシーでも、たとえば2012年のレイホール時代と比べると、ヘッドポイントで数センチは高く、前に移動している。僕のキャリアのなかでも一番高いポジション。だけど、これを試してみたら、視界が広がって挙動も把握しやすく、アンダーステア傾向に感じる。逆に、低く深く、もぐって座るとオーバーステア傾向に感じる。人間の錯覚の問題なんだけど、これは発見だった」
2018年は、かつて在籍したレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングに復帰する琢磨。アンドレッティ仕込みのシートポジションは、また低くなるのか、それとも高いままなのか。もしかしたら2017年インディ500の勝因のひとつは、シートポジションを変えたことだったのかもしれない。オートスポーツ編集部でも、琢磨にあやかって愛車のシートポジションを高めにセットする流れが来ているとか、来ていないとか……。
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