今回はカイエンの高いスタビリティを実現するシャシーに関してレポートしよう。リヤアクスルステアリングと3チャンバーエアサスが新型カイエンにおけるハイライトとなる。
REPORT◎山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)
新型カイエンは、シャシーも飛躍的な進化を遂げている。ポルシェは新型カイエンを開発するにあたり、パワートレーンでは動力性能と燃費性能に象徴される環境性能をさらに高いレベルで両立させること。つまり高効率化を最重要課題として掲げたが、一方シャシーにおいては、ドライビング・ダイナミクスとコンフォート性、そしてオンロードとオフロード・パフォーマンスを、より高いレベルへと導くことを目標に開発が進められた。
ポルシェ・カイエンは第3世代へと進化を果たすことで、これまでのモデルを完全に超越した。今回のテクニカル・ワークショップでは、特にオフロード・パフォーマンスにおける開発時のベンチマークとなったモデル、あるいはライバルとして意識したモデルは何かと質問したが、その答えは“前作を超えること”という言葉のみだった。改めて考えてみれば、それはポルシェの伝統的な哲学にほかならない。
新型カイエンのシャシーで、まず大きな変化を見せたのはフロントサスペンションのデザインだ。これまでのダブルウイッシュボーンからマルチリンクへと変化したそれは、よりリニアでレスポンス性に優れたステアリングフィールや高速走行時のスタビリティをより魅力的なものにするばかりか、軽量性という点でも大きなアドバンテージをもつとされる。
ターボには標準装備、ほかのモデルではオプションで選択が可能な3チャンバーエアサスペンションも新型カイエンのシャシーでは大きな話題だ。ストラットあたり3つのエアチャンバーを備えることで、異なるスプリングレートの制御が行えるほか、その制御の幅もダイナミックな方向、コンフォートな方向のそれぞれに広げることが可能になった。ドライバーは6つのレベルから車高を選択することができるが、実際にはマニュアルで選択する必要はない。オンロードに加えて、オフロード用に5つが用意される走行プログラムを選択すれば、車高は常にアクティブに制御される。
全モデルでオプション設定されるリヤアクスルステアリングや、電子制御によるロール抑制システムのPDCC=ポルシェ・ダイナミック・シャシーコントロール、そしてPTV Plus=ポルシェ・トルクベクタリング・プラスなどのメカニズムを追加すれば、新型カイエンの走りはさらに魅力的なものになる。リヤアクスルステアリングは、車速が80km/h以下では前輪と逆位相に、それを超えると同位相に最大で3度、後輪を操舵するシステム。それによりダイナミックでスタビリティに富むコーナリングを楽しむことが可能になるが、それ以上に12.1mから11.5mに短縮されるというターニング・サークルが物語る、使い勝手の向上がカスタマーには嬉しいかもしれない。
PSCB=ポルシェ・サーフェイス・コーテッド・ブレーキも新型カイエンのシャシーでは大きなトピックスだ。これはブレーキディスクの表面をタングステン・カーバイドでコーティングすることで、従来の鋳鉄ブレーキに比べ約30%長い耐用年数を実現しただけでなく、ディスクの磨耗が大幅に緩和されるうえ、ブレーキダストの付着も低減するなど、ブレーキ性能の低下を抑制するとともに耐久性の向上を実現したものだ。
ポルシェがさらに軽量なPCCB=ポルシェ・カーボン・セラミック・ブレーキを用意し、すでにさまざまなモデルで好評を博していることは周知のとおりだが、新たに誕生したこのPSCBはコスト面で非常に大きなメリットを生み出すだろう。ちなみにこのPSCBはターボに標準、ほかのモデルではオプションで提供される。タイヤはターボでは21インチ、ほかは19インチが標準となるが、前後で異なるサイズを設定したこと、そしてミックスタイヤ=オールシーズンタイヤを採用したことが実際の走りにどのように影響しているのかは非常に興味深いところだ。
これらの最新のシャシー技術を統合制御するために、ポルシェは新型カイエンで「4Dシャシー・コントロール」と呼ばれるシステムを確立した。その機能を支える48ボルトの車両電気システムなども見逃すことのできない新型カイエンでの大きな進化と言えるだろう。