シンガポール、マレーシア、そして日本とアジア3連戦に入ったF1グランプリ。メルセデスのルイス・ハミルトンとフェラーリのセバスチャン・ベッテル。両雄の戦いも鈴鹿へ向けて激しさを増す。AUTOSPORT.webが見所を紹介する。
第14戦シンガポールGPから、F1はアジアシリーズ3連戦を迎える。そして、その3戦目にはいよい10月の2週目には鈴鹿サーキットでの日本GPが待っている。
シンガポールGP終了時点でドライバーズランキングトップはルイス・ハミルトン(メルセデス)の263点、2位はセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)の235点。3位にハミルトンのチームメイト、バルテリ・ボッタス(メルセデス)が212点で続いているが、実質、チャンピオン争いはハミルトンとベッテルの一騎打ちの状況に絞り込まれている。
アジア3連戦の初戦となるシンガポールGPは、戦前の予想でフェラーリが得意とされていたが、フェラーリは2台がスタートで同士討ちとなるクラッシュで自滅。そこでハミルトン&メルセデスが飾った望外の一勝は、大きな意味を持つ勝利となった。
だが、今シーズンの残りは6戦あり、チャンピオン争いはまだまだ目が離せない。しかも、シンガポールGPでのフェラーリの敗戦はマシンのパフォーマンス差ではなくアクシデント。メルセデスがフェラーリに完勝したわけではなく、両者の力関係は依然、五分と五分のままなのである。そのことは、ハミルトンも理解している。
「優勝したことは明らかに素晴らしい結果だが、ドライコンディションでは僕らは彼ら(フェラーリ)の敵ではなかったということを忘れてはならない。シンガポールは、おそらく僕らがもっとも苦手としているサーキットのひとつだ。シンガポールでは、僕らのマシンの良い部分と弱点がよく表れていた。だから、僕らは気を抜いてはならない。僕らのマシンが持っている長所を最大限引き出さなければならない」
メルセデスのマシンが持っている強みと弱点とは何か。
長所は言うまでもなく、F1界で最強を誇るメルセデスPU(パワーユニット)のパワーを生かすことができる高速コースだ。そのことは、今シーズンここまでイギリスGP、ベルギーGP、イタリアGPの3つの高速コースすべてで勝利していることからもわかる。
逆にメルセデスの弱点とは何か。それはメルセデスの今季マシン、メルセデスW08が低速コーナーが多いコースを苦手としていることだ。モナコGPではアタック中に他車がクラッシュするという不運があったものの、今シーズン唯一のQ2落ちとなる予選14番手に終わった。さらに『ガードレールがないモナコ』とたとえられる、低速コーナーの多いハンガロリンクで行われたハンガリーGPでも優勝争いに絡むことができなかった。
これに対して、フェラーリはメルセデスが苦手としている低速コースで予選ポールポジションを獲得しているように、パワーユニットの差が出づらいテクニカルなコースで圧倒的な強さを持っている。そして高速コースに関しても、メルセデスにはかなわないものの、弱点といわれるような弱さもなく、フェラーリの今季マシン、SF70Hはオールマイティな特性を備えていると言っていいだろう。
では、鈴鹿サーキットで行われる日本GPでの両者はどうか?
コースレイアウト、そしてサーキット特性の面では鈴鹿はイギリスGPが行われているシルバーストンに近い。構成されているコーナーのタイプも似ており、シルバーストンにも鈴鹿のS字と同様、マゴッツ~チャペル~ベケッツという高速S字コーナーがレイアウトの特徴となっている。
鈴鹿とシルバーストンが異なる点としては、シルバーストンは直線が多いことが挙げられる。ここ数年、メルセデスがイギリスGPで強いのは、その直線でパワーユニットのアドバンテージに因るところが大きい。
一方の鈴鹿にはS字以外にも1コーナー、逆バンク、ダンロップ、スプーン、130Rという中~高速コーナーがシルバーストンより多く、逆にストレート区間はメインストレートと西ストレートの2本。つまり、最高速を重視するのではなく、中~高速コーナーでのダウンフォースが重要となってくる。
ハミルトンは次のように、日本GPを分析する。
「鈴鹿はハイダウンフォース・サーキットだ。苦手ではないが、僕らがもっとも得意とするサーキットでもない。だから、接近した戦いになるだろう。もしかすると、レッドブルも絡んでくるかもしれない」
中~高速コーナーが多い鈴鹿の中でも、もっともチャレンジングでラップタイムへの影響が大きいと言われているのがセクター1だ。ここは1~2コーナー、S字、逆バンク、ダンロップと7つのコーナーが連続する。そして、そのセクター1を愛して止まないのが、フェラーリのベッテルだ。
「鈴鹿の素晴らしさはセクター1だ。4~5速で次から次へとコーナーが現れてくる。そんなセクターはほかのサーキットにはない。まさに神の手で作られたサーキットだよ」
ここ数年はメルセデスが3連勝している日本GPだが、その前の5年間のうち4回はベッテルが優勝。今シーズン、再び戦闘力が上がったフェラーリのマシンを駆って、ベッテルが4年ぶりに鈴鹿を制してもまったく不思議はない。
また昨年、ルーキーだったマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が2位に入っていることからわかるように、レッドブルも鈴鹿のセクター1を得意としている。ベルギーGP以降、高速区間でもレッドブルは速さを見せているだけに、タイトル争いを繰り広げている2チームにとってもあなどれない存在となっている。
そんな日本GPでもしフェラーリが完勝し、メルセデスがレッドブルにも苦杯をなめるようなことになれば、現在のポイント差を大きく縮め、タイトル争いでベッテルの逆転の可能性が十分に高くなる。つまり、日本GPはタイトルのゆくえを占う上で、重要な一戦となるのだ。
そんな白熱した戦い予想される今年の日本GPを現地で観戦したいという方は、いまからでもまだ間に合う。今年はインディ500ウイナーの佐藤琢磨も駆けつけ、往年の名車であるホンダRA300をデモランする。歴史的な週末をその目に焼き付けよう。
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